きっかけ
《サイド:天城総魔》
試合終了の合図が響き渡る中で、
最後に残った九条へと歩みを進める。
「…あとはお前だけだ。」
「くっ…!」
俺を睨みつけながらも徐々に後ずさる九条だが、
この場において逃げられる場所などどこにもない。
全方位に魔術師がいるのだ。
例え室内から逃げ出したとしても、
通路にも警備兵が控えているはず。
生きてグランパレスから脱出するのは不可能だろうな。
「無事に帰れると思っていたわけではないだろう?」
「…もちろん覚悟はしていました。ですが、ただで死ぬつもりはない!!」
九条は美由紀に狙いを定めたようだ。
「せめて、この女だけでも…!」
決死の特攻を試みる。
すでに息絶えている護衛の剣を拾った九条が必死の形相で美由紀へと襲い掛かった。
「死ねっ!!!」
美由紀までの距離は数メートルだ。
普通に考えれば美由紀を殺すのは容易い。
…だが。
ここは魔術師の国であり、
高位の魔術師が集まる場だ。
例え僅か数メートルの距離であっても。
その距離は果てしなく遠い。
「…させん!!」
美由紀を庇う宗一郎がその手にルーンを生み出して九条の身体を貫いた。
俺が動くまでもなく、
宗一郎が自ら動いていたようだな。
「ぐぅっ!?…か…はっ…!!」
宗一郎の槍に貫かれた九条はあっさりと動きを止めて膝をついた。
「やはり…届きませんか…っ。」
死の間際まで美由紀に向けて伸ばす九条だったが、
その手は最後まで何も掴めはしなかった。
「く…っ!無念…っ。」
最後まで残っていた九条も死んだ。
これでアストリア王国からの使者は全滅したことになる。
…ひとまずは終わりだが。
少し興味が出たからな。
宗一郎と話をしてみたい気がする。
「病気で闘えなくなったと聞いた覚えがあるんだが、勘違いだったか?」
「ん?ははっ。いや、勘違いではないな。まともに戦闘が出来る身体ではないのは間違いない。…とは言っても、娘の安全を守れるのなら無理の一つや二つは押し通してみせるまでだ。」
…なるほどな。
それだけ美由紀が大切だと言うことか。
「心配しなくても美由紀の安全は保証するつもりだったんだがな。」
「もちろん分かっている。きみが魔術を発動しようとしていたことには気付いていたが…まあ、これはあれだ。父親としての矜持みたいなものだ。」
…なるほどな。
それならこれ以上気に掛ける必要はないだろう。
宗一郎のルーンがどういう能力を持っているのか興味はあるが、
第一線から退いた宗一郎これ以上負担をかけさせる必要はないだろう。
「ひとまず終わったな。」
くだらない茶番は終わったと思ったのだが、
宗一郎は小さく首を振っていた。
「いや…ここからが始まりだ。」
周囲にいる多くの者達が頷いている。
この惨劇に賛同した各町の代表達だ。
「これから始まる戦争。これはそのきっかけに過ぎん。本当の戦いはここから始まる。」
惨劇と化した観戦席の一画で、
数多くの死体を眺める者達のほぼ全てが争いに向けて覚悟を決めている様子だ。
数十人が集まるこの場において、
状況を理解できていないのはたった二人。
「「………。」」
何も知らずにこの場に駆けつけた。
翔子と優奈の二人だけだった。




