爆炎
「それでは、準備はよろしいですか?」
問い掛ける審判員に頷いてみる。
義明も余裕の態度で微笑みを浮かべたまま頷いていたわ。
「…では。」
そっと手を掲げる審判員の手が振り下ろされる。
「試合、始めっ!!!」
即座に後方に下がる審判員はひとまず無視よ。
私と義明はルーンを発動させて互いに相手に向けて構えたわ。
私のルーンは『扇』で、
義明のルーンは『針』ね。
針って言っても直径20センチに及ぶ長い針よ。
まあ、串って言ってもいいけどね。
細いから針であってると思う。
2ミリ程度の細さの針を指の間で何十本も器用に掴んでいるわ。
普通に考えて複数のルーンを作り出せば一撃の威力は大幅に低下するんだけどね。
それでも義明のルーンは並の魔術を遥かに上回る威力を秘めているのよ。
その事実を私は知ってる。
今までにも何度か試合を見たことがあるから、
ルーンの恐さは知ってるつもりなのよ。
義明の特性は『爆炎』
その特性を持つルーンの一撃は、
まさしく破壊の為の武器になるわ。
一本につき一回だけの使い捨てだけどね。
試合場を粉砕できるくらいの威力があるのよ。
まともに刺されば体が爆発して木っ端微塵になるでしょうね。
…まあ、そこまでの惨劇はまだ起きたことがないけど。
試合用に手加減した攻撃でもね。
まともに受ければ即座に戦闘不能になるはずなのよ。
それくらい危険なルーンなの。
だけどルーンだけが義明の能力じゃないわ。
即死級のルーンを使いながらも、
『もう一つ』の力を発動させることができるからよ。
「…さあ、見せてもらおうか。お前がどこまで戦えるのかを…な。」
容赦なく発動させる魔力の渦が『あの形』を作り上げてしまう。
「いでよ!レッドドラゴン!!」
義明が力を発動させた瞬間に試合場が大きく揺れ動く。
どんな魔術でも作り出せないような極炎が発生したのよ。
真哉やフェイでも、
これほどの炎は生み出せないでしょうね。
…ホントに。
馬鹿げた才能だと思うわ。
膨大な炎が盛大に燃え上がって、
私と義明の間で体長5メートルを越える大型のドラゴンが姿を現したのよ。
吐き出す息が真っ赤な炎を放ってる。
暑いって言うか熱い?
熱いって言うか灼熱?
表現に困るけど。
最上級魔術を超える炎が吐き出されているのよ。
…これはもうどう考えても本気よね?
圧倒的な存在感を感じるわ。
ドラゴンブレスを見ただけで体が震えてしまうのよ。
…痛みを感じない超攻撃特化の精霊。
これは本当に反則級だと思うわ。
義明だけなら今の私でもギリギリ互角に戦えるかもしれないけどね。
この精霊がいるせいで勝てる気がしないのよ。
…以前の私なら手も足も出せずに怯えるだけだったと思うけど。
今はそういうわけにはいかないわ。
今の私にはね。
逃げるっていう選択肢は存在しないのよ。
…最初から覚悟のうえで始めたんだから!
戦うしかないの。
そして勝たなきゃいけないの。
「最初っから全力で行くわ!!」
圧倒的な存在感を放つドラゴンに向けて扇を構える。
魔力の総量では圧倒的に義明が上だけどね。
複数のルーンと精霊の召喚によって、
相当な魔力低下が起きてるはずだから。
それぞれの一撃は私でも十分に対処出来るはずなのよ。
…と言うか。
やるしかないの!
勝てると信じて扇に魔力を込める。
出し惜しみはしないわ!
「絶対に乗り越えて見せる!私だって!総魔に近付きたいのよっ!!」
叫びながら放つ魔術。
中途半端な魔術では意味がないと思うから、
最初から全力で攻撃することにしたのよ。
「秘技!アルテマっ!!!!」
全力全開、本気の一撃よ!
ここは学園の試合場とは違って広大な大会会場だから、
無音とは行かずに耳が痛くなるほどの爆発音がドラゴンを中心として巻き起こったわ。
激しく舞う砂埃。
目に入ったら痛そうだから、
扇で目の前を覆っちゃったんだけど。
…どうなのかな?
…精霊は倒せたの?
こっそり砂埃の中を覗き込もうとしてみたらね。
…ん?
ゆらりとうごめく何かが見えた気がしたわ。
…やっば!?
慌てて逃げ出した。
とにかく急いで横に飛び退いたのよ。
その直後にね。
数秒前まで立っていた場所に。
義明のルーンが突き刺さったの。
『ザク!ザク!』と試合場に突き刺さる複数の針。
義明の投擲を回避した瞬間に。
次々と針が爆発して、
試合場に巨大な穴を開けていったわ。
さらなる砂埃で遮られてしまう視界。
この状況だと呼吸するのも嫌な感じがしちゃうんだけど。
それは義明も同じはず。
向こうも狙いを定め切れてない様子だからよ。
運良く私に直撃しなかった代わりに、
私も義明の正確な位置が分からなくなったわ。
…これはちょっとキツイわね。
私は狙いを定めないと攻撃出来ないの。
だけど義明は適当に投げるだけで爆発に私を巻き込めるのよ。
魔力量に差があるから、
取れる戦術にも差が出るの。
…今は逃げるしかないわね。
砂埃が収まるまで逃げ続ける。
その間にも私の周辺に放たれ続ける針。
見えなくても足音で気づかれてるっぽい。
だから言って立ち止まったら爆発に巻き込まれるだけだからそれも出来ない。
逃げれば逃げるほど放たれる針。
次々と起こる爆発が周囲に広がる砂埃を吹き飛ばしながらも舞い上げていく。
…完全に悪循環ね。
そう思ったのは義明も同じなのかな?
一旦攻撃が止んで静かになったのよ。
ゆっくりと風が吹いて収まっていく砂埃。
その時間は1分もなかったと思う。
それでもね。
確実に視界は良くなってきているのよ。
そしてその結果として。
私は現実を知ることになったの。
…うわぁ。
怖いって言うか、呆れてしまったわ。
だってね?
悠然とね。
姿を見せ続けるドラゴンがいるからよ。
…悔しいけれど。
ドラゴンの体のどこにも被害が見られなかったわ。
…だけど。
たぶんだけどね。
アルテマが通じなかったっていうわけじゃないと思う。
…そうじゃなくて。
単純な相性の問題なのかもしれないわ。
ドラゴンの属性は炎。
だけどね?
義明の特性を引き継いでいるから、
厳密に言えば『爆炎』になるわ。
爆発と炎。
その両方を兼ね備えているとしたら。
…アルテマとは相性が悪すぎるわね。
炎や風や雷といった幾つかの属性が通じないからよ。
むしろ強化しちゃってる?
そのせいでアルテマの威力が半減したんだと思うの。
…残念だけど。
この試合ではアルテマの効果が薄いってことよ。
…ひたすら水や冷気だけでアルテマを作り出しても良いんだけどね。
たぶんその場合、
期待したほどの威力は出せないと思うわ。
アルテマはね。
込める魔術が何でも良いっていうわけじゃないの。
ちゃんと複数の属性を混ぜ合わせて相乗効果を高めないと意味がないの。
だから偏った属性だとアルテマにならないのよ。
…困ったわね。
多少なりとも精霊の魔力が減少していれば良いんだけど。
全く期待は出来ないわ。
「…ったくぅ、バケモノはそっちじゃない!」
思わず呟いた言葉が聞こえたのかな?
義明は唇を歪めて微笑んでた。
「確かにそうかもしれないな。だが俺の力はまだ『想像出来る』範囲内だろう?天使や吸収に比べればな。」
…あ〜。
…う~ん?
まあ、確かに?
…って!
一瞬、納得しかけた自分がいるけど。
それとこれとは話が別よね?
「それでも十分バケモノじみてることに変わりはないわ!」
「ならば降参するか?」
「ふん!お断りよっ!絶対に私が勝つ!!それ以外の選択肢なんて必要ないわ!!!」
力強く宣言してから扇を構えてみる。
…だけど。
正直、どうすれば良いのかが分からないのよね〜。
アルテマが期待できないからよ。
わりと本気で困っちゃったわ。
…一発勝負のつもりだったのに。
唯一って言っても良いくらい自慢の攻撃が通じないとなると。
普通にどうすれば良いのかが分からないわ。
こうなるとドラゴンを無視して、
直接義明を狙ったほうが良いのかな?
…でもね~。
無視するには危険な存在すぎるわよね?
作戦を考えてる間にもドラゴンの口から吐き出される炎の息。
さすがにこれは直撃すれば火傷じゃ済まないのよ。
「ったくぅ!!!」
ドラゴンブレスを防ぐために、
魔術で相殺を狙ってみる。
「ダイアモンド・ダスト!!」
扇から放たれる冷気はまっすぐブレスに向かったわ。
ドラゴンの炎の息と極寒の冷気がぶつかり合ったのよ。
…だけど。
私の力が及ばないせいで完全に相殺することは出来なかったみたい。
…うわわわっ!?
目前に迫る炎。
…当たれば負けちゃう〜〜〜っ!!
全力で走り出して、
炎の射程から逃げる。
…つもりだったのにね。
「甘いな…。」
警告する義明の声が聞こえてきたわ。
そして義明の手にある針が私に狙いを定めていたのよ。
「この程度ではまだまだ俺には勝てん。」
宣言してから放たれる針。
十数本の針が迫っているの。
「…くっ!!」
即座に扇を広げて針を叩き落とそうとしてみたわ。
…だけどね。
これは失敗だったかもしれないわ。
何本かの針が扇に触れた瞬間に、
勢いよく爆発して炎を撒き散らしてしまったからよ。
「きゃ…あぁぁぁぁぁっ!?」
爆発の勢いに負けて吹き飛ぶ体。
幸いにも直撃は避けられたけれど。
今の攻撃ですでに扇が消滅しかかってる。
…って、うわっ!?
…やっば!!
慌ててルーンに魔力を注ぎ込もうとしたんだけどね。
今度はドラゴンブレスが襲い掛かってくるのよ。
…って、ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?
ちょ…っ!!!
さすがにこれは無理ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!
激しく慌てちゃったわ。
だけど辛うじて魔術を発動させるのが間に合ったみたい。
「ダイアモンド・ダスト!!!」
炎の勢いを止めて時間を稼いでみる。
だけど義明のルーンはすでに私に狙いを定めているのよ。
「…終わりだ、翔子。」
…くぅっ!!!
唇を噛み締めてしまう。
ブレスと針の連携攻撃。
そのどちらにも対処出来なかったの。
逃げることも。
反撃することも出来ないまま。
再び放たれた針の爆発によって、
試合場の端まで吹き飛ばされてしまったのよ。




