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THE WORLD  作者: SEASONS
4月15日
644/1242

覚醒

………。



徐々に薄れていく意識。


結局、結果は同じでした。



私はまた…何も出来なかったんです。



「優奈ちゃん!!頑張って!!」



…翔子…先輩?



応援してくれる翔子先輩の声が聞こえた気がしました。



ですが。


今の私には返事を返す余裕さえなくて。


意識が途絶えてしまいそうでした。



…すみま…せん。



翔子先輩に謝ることしか出来なくて。


そのまま意識を失ってしまう…その寸前で。



『このまま諦めるのか?』



どこかから…声が聞こえたような気がしました。



…声?



どこから聞こえたのでしょうか?



…分かりません。



ですが試合場には私と金田さんしかいないはずです。



もちろん審判員さんはいますけど。


審判員さんが話しかけてくることはありません。



少なくとも今までは一度もありませんでした。



だから一瞬、翔子先輩なのかな?と思いました。



…ですが。



それが間違いなのはすぐに分かりました。



聞こえたのは男性の声だったからです。



はっきりとは聞き取れませんでしたけど。



翔子先輩ではありません。



…だとしたら。



御堂先輩か、北条先輩でしょうか?



確認してみたいのですが。


今はもう周囲を見回すことさえ出来ません。



意識が消えかかっていて、

体が全く動かないからです。



気持ちとしては諦めるつもりなんてありません。


だけど。


気持ちに反して体は言うことを聞いてくれません。



そのせいで何もできずにいる私に。


もう一度、誰かの声が聞こえてきました。



『お前は俺が認めた魔術師だ。自分を信じて立ち上がれ。そして自分自身の本当の力に覚醒してみせろ。』



この声は…?



考えるまでもありません。



ずっと。


ずっと聞きたかった声だからです。



…総魔さん…ですよね?



不思議と心地よくて。


懐かしささえ感じさせる声です。



もうここにはいないはずなのに。



それなのに。


総魔さんの声が聞こえたような気がするんです。



…ですが。



私はどうすれば良いのでしょうか?



立ち上がれと言ってくれた総魔さんの言葉の意味はわかりません。



…私の本当の力って何ですか?



それが何かも分からないのです。



…それでも。



このまま倒れることは、

私の『心』が許しませんでした。



…私はまだ戦えるんです。



例えこの体が壊れたとしても。


この心が残っている間は。


絶対に諦めようなんて思いません。



「私はまだ…っ!戦えるんです…っ!」



体の痛みを堪えながら、

必死に立ち上がりました。



…ですが、それだけです。



体の痛みは消えませんし。


途切れそうな意識も安定しそうにありません。


今でもまだ目の前が真っ暗で、

明滅する視界の中で金田さんの姿が見える程度です。



…ただ立ち上がっただけで。



反撃ができる余裕なんて、どこにもないんです。



「…その勇気だけは認めてあげるわ。」



苦しむ私を眺めながら剣を構える金田さんが、

ゆっくりと近づいてきています。



「せめて…苦しまないように楽にしてあげるわね。」



宣言してから振り上げる刃が…私の体に突き刺さりました。



…ぁ…ぅ…っ!?



「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



自分でも喉が裂けるかと思うくらいの叫び声でした。



体を刺された痛みで、

気が狂いそうになってしまったんです。



…死ぬ、の?



直感的にそう思いました。



ピーターさんの時とは違うからです。



脇腹を刺された時と違って、

今回は腹部に激痛を感じました。



…あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?



今までで一番危険な攻撃だったと思います。



たった一撃で。


『死』を実感してしまうほどの激痛が体中を駆け巡りました。



「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



…痛、い…っ。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」



自分でももう分かりません。



痛み以外の感覚が全て消え去って、

何も考えられなくなってしまったんです。



…ぁぁぁぁ…。



あまりの激痛によって。


体の感覚が完全に途絶えてしまいました。



…今はもう。



痛みさえ感じられなくなってしまいました。



斬られた腕の傷も。


噛みつかれた足の痛みも。


刺された腹部の激痛も感じません。



ただただ目の前が急速に暗転して。


意識が途絶えてしまいそうでした。



…すみません。


…総魔さん。



やっぱり私には…勝てませんでした。



それだけが悲しくて。



総魔さんの期待に応えられない私自身が情けなくて。



消えそうになる意識のなかで。


このまま死ぬかもしれないと思ったんです。



…なのに?



「え…っ?」



何故か急に視界が元に戻りました。



「…どうして?」



真っ暗になりかけた視界が急速に元に戻ったんです。



何が起きたのでしょうか?



ゆっくりと開いた瞳。


私の視線の先で。



「………!?」



何かに驚く様子の金田さんがいました。



「…ど…どうして…っ!?」



…どうして?



どうして、とはどう言う意味でしょうか?



よくわかりませんけれど。


金田さんの様子がおかしいです。



手が震えていると言うか。


身体が震えていると言うか。


何かに怯えているような感じです。



…どうかしたのでしょうか?



色々と疑問を感じてしまいました。



ですが、すぐに異変に気付けました。



…あれ?



体中の痛みが全て消えていたんです。



それは痛みが感じられなくなったとかそういう理由ではなかったみたいです。



動く手と動く足。



斬られたはずの体も。


突き刺された腹部の出血も。


完全に止まっているようでした。



「…な、何よっ?何なのよこれは!?」



戸惑う金田さんの手元に視線を向けてみます。



…えっ?



私にも理解出来ません。



ですが。


そこに在るはずの物が、

そこには無かったんです。



「ルーンが…消された!?」



驚き戸惑う金田さんの言葉を聞いてから考えてみました。



…どういうことでしょうか?



金田さんのルーンが消えたそうです。



理由はわかりませんけれど。


何故か消えてしまったそうです。



…それはつまり。



私が吸収したということでしょうか?



…つまりそれは。



ルーンの吸収も出来るようになったということでしょうか?



そうして大量の魔力を吸収した結果として。


私は無意識のうちに、

自分の体を回復していたのかもしれません。



「…どうして…?」



戸惑う金田さんを見てようやく理解できました。



…そういうこと、ですよね?



私は私の限界を超えることができたのかもしれません。



総魔さんに指摘されてしまった私の欠点。



『危機感』という心の問題が、

瀕死に陥った瞬間に改善されたんだと思います。



…だとしたら?



今の私に恐れるものはもう。


なにもありません。



「…あなたのおかげです。」



ルーンの攻撃も吸収できるのだとしたら?



私はもう。


本当の意味で全ての魔術を吸収することが出来るはずです。



「『死』を実感したおかげで、ようやく『覚醒かくせい』出来ました。」


「覚…醒?」


「今の私に吸収出来ない魔力は存在しません。」



今なら出来るはずです。


何もかも、奪い取れるはずなんです。



「今はもう…精霊さんも怖くありません。」



狼さんの頭にそっと触れました。



その瞬間に。


狼さんも姿を消しました。



「そんな…っ!?精霊までっ!?」



怯えるような瞳で私を見つめる金田さんに、

まずはお礼を言っておくことにしました。



「ありがとうございます。金田さんのおかげで、私は『もう一つ』力を手にすることが出来ました。」



狼さんを吸収したことで、

新たな力を手に入れたんです。



「これが…私の力です。」



右手を足元に向けながら力を発動させます。


金田さんの精霊を吸収したことで、

なんとなくですが使えるような気がしたからです。



「そしてこれが…私の精霊です!」



足元に向けて放つ魔力が、

小さく渦を巻きながら一つの形として現れました。



ふわっと優しく吹く風の中心に、

『小さな命』が生まれたんです。



実際には生物ではないので『命』という表現は適切ではないのかもしれませんけれど。



それでも私にとっては命に等しい存在です。



私が願い。


私が想像する『精霊』



それはとても。


とても小さな存在です。



…大きさや格好良さなんて求めません。


…綺麗で繊細でなくても良いんです。



強くなくても構いません。


誰かを傷つける力が欲しいわけではないからです。



…ただ。



私の心を現して。


私と同じ様に成長してくれれば。


それだけで良いんです。



そんな小さな想いを込めて。


私は『この子』を想像しました。



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