第4回戦、第2試合
《サイド:深海優奈》
「それではただいまより、準決勝第2試合を行いたいと思います!ジェノス魔導学園から、深海優奈選手!ヴァルセム精霊学園から、金田淳子選手!試合場へお願いします!!!」
私の順番が来てしまいました。
…ですが。
今の私には立ち上がる気力なんてありません。
総魔さんがいなくなってしまったことを考えるだけで、
心が罪悪感で一杯になってしまうからです。
…もっと、出来ることがあったはずなのに…っ。
私は何もしなかったんです。
ただ祈ることしかできなくて。
ただ期待することしかできなかったんです。
総魔さんがいなくならないことを、
ただ願うことしかできなかったんです。
…だから。
だから今は…試合が出来るような心境ではありませんでした。
「…私、は…。」
呟くだけで精一杯でした。
そんな私の背中を沙織先輩が優しくさすってくれています。
「良いのよ…。無理をしなくても良いの。今は棄権してもいいわ。」
…はい。
…と。
優しく接してくれる沙織先輩に頷こうとしたのですが。
「…いや、駄目だな。」
その前に北条先輩に遮られてしまいました。
「優奈は試合に出るべきだ。」
「はぁ!?ちょっと、真哉っ!!優奈ちゃんの気持ちも考えてあげなさいよっ!!こんな状況で試合に出ても、まともな試合なんて出来るわけないじゃない!!」
何も言えない私の代わりに抗議してくれる翔子先輩でしたが、
私の正面に回り込んだ北条先輩は厳しい視線を向けながら問いかけてきました。
「お前は『何の為』にここに来たんだ?誰かの為か?それとも天城総魔の為か?違うだろ?『自分自身の為』だ。自分に出来ることは何か?その答えを知る為に来たんじゃなかったのか?」
…何の為に?
分かりません。
私は何を目的として大会に参加したのでしょうか?
総魔さんの役に立ちたかったからでしょうか?
それとも。
自分自身の力を知りたかったからでしょうか?
…分かりません。
自分でも分からないんです。
…ですが。
気弱で臆病なこんな私でも、
誰かの役に立てるのなら…と。
そんなふうに考えていた気はします。
「良いか、優奈?泣くだけならいつでも出来る。でもな?立ち向かうことは今しか出来ねえんだ。泣いてる暇があるなら立ち上がれ!そして自分自身の力で、自分が『望むべき物』を勝ち取れ!!それが出来ねえのなら、それこそ『あいつ』の側にいる資格はねえ!!」
「「「………。」」」
力強く宣言する北条先輩の指摘に対して、
沙織先輩も翔子先輩も御堂先輩も何も言いませんでした。
それは多分、北条先輩の意見が正しいからです。
そして私も、北条先輩の言葉が正しいと思いました。
離れて行く総魔さんに何も出来なかったのは事実です。
…ですが。
今からでもまだ間に合うはずです。
総魔さんがどこに行ってしまったのかはわかりませんけれど。
ちゃんと向き合いさえすれば、
今からでも辿り着けるはずなんです。
…今ならまだ。
間に合うでしょうか?
…分かりません。
ですがそう信じることで、
立ち上がれる気はしました。
「私…。」
今の私に出来ることは何もありません。
例え総魔さんを追い掛けても何も出来ないと思います。
…ですが。
今よりももっと強くなって。
総魔さんの隣にいられるだけの力を持つことが出来れば…。
総魔さんは認めてくれるかもしれません。
総魔さんに守られる存在じゃなくて。
総魔さんを守れる存在になれれば。
…きっと。
きっと総魔さんの側にいられると思うんです。
…そうですよね?総魔さん。
そう信じることで、
まずは涙を拭いました。
そして。
試合場に向かうことにしたんです。
「優奈ちゃん …!?」
「…大丈夫です。」
私を心配してくれる翔子先輩に、
精一杯の笑顔を向けました。
涙で真っ赤に染まる瞳で、
ぎこちない笑顔だったかもしれません。
ですが今は。
これが私に出来る精一杯の笑顔です。
「ちゃんと…頑張れますから。」
もう大丈夫です。
私は『情けない私自身と向き合う』為に。
笑顔を浮かべながら試合場に向かうことにしました。
そうして試合場に上がってみると。
すでに対戦相手の金田淳子さんが待ってくれていたんです。
「…ずいぶん遅かったわね?試合に出ないのかと思ったわ。」
「すみません…。少し考え事をしていましたので…。」
「ふ〜ん?そうなの?まあ、人それぞれ色々あるでしょうね。」
控えめに謝った私に、
金田さんは微笑んでくれました。
どうやら怒ってはいないようです。
遅くなってしまった私をあっさりと許してくれたんです。
「素直に謝ったから許してあげるわ。とりあえず自己紹介をしておくわね。私は敦子よ。金田淳子。成績は4位だけど、あなたは何位なの?」
………。
成績を聞かれてしまいました。
…今までの私なら。
何も言えなかったと思います。
自分に自信が持てなかったから。
あまり成績に関しては言いたくなかったからです。
…ですが。
これからはいつまでも落ち込んでいるわけにはいきません。
今のままの私では総魔さんを追いかける資格なんてないからです。
…だからもう。
自分を卑下するのは止めようと思います。
もう、後悔なんてしたくありません。
もう、悲しい思いはしたくないんです。
だから私は。
私自身を乗り越えるために。
今の自分を受け入れたうえで、
自信を持って答えたいと思います。
「私は3位です!総魔さんと御堂先輩に次ぐ3番目です。」
この番号こそが私の誇りです。
総魔さんと共に歩んできた思い出が、
今の私の心の支えなんです。
「私はもう二度と負けません。例え相手が誰であっても、勝ち続けることが私の役目だからです。」
…そしていつか。
…いつか必ず。
必ず、総魔さんに追い付いてみせます!
そのために。
今の私に出来ることは一つだけです。
「この試合も勝ってみせます。」
「…ふ~ん。聞いてた話とは違うわね?」
「話…ですか?」
「ええ、そうよ。」
何の話でしょうか?
金田さんが私に関してどんな噂話を聞いているのか知りませんけれど。
昨日の試合で『吸収』の能力を持っているということは宣言していますので、
試合に関する話なら知っていてもおかしくはないと思います。
「もっと消極的な子だって聞いてたんだけど…。意外と強気な態度なのね?」
消極的…ですか。
性格に関しては否定できませんね。
自分自身でも地味で目立たない臆病な性格だと思っているからです。
だからこそ私はそんな自分を変えたいと願っていました。
翔子先輩や理事長さんのように。
自分に自信を持って生きたいと願っていたんです。
…だから。
「私はもう迷いません。」
強くなって『たどり着きたい場所』があるから。
「私はもう二度と逃げません!」
「…良い決意ね。」
力一杯宣言する私を見て、
金田さんは楽しそうな表情を見せてくれました。
「何があったのかは知らないけれど。一生懸命に頑張れるのは良いことだと思うわよ。」
初対面の私を褒めてくれたんです。
「だからお互いに精一杯頑張りましょう。…と言っても、さっきの彼みたいな力があなたにもあるのなら、私に勝ち目はないかもしれないけどね。」
…っ!?
金田さんの言葉がきっかけとなって、
一瞬だけ動揺してしまいました。
迷わないって決めたのに。
それでもまだ総魔さんのことを言われてしまうと心が動いてしまうんです。
…ですが。
まだ大丈夫です。
私はまだ頑張れます。
「私には総魔さんのような素敵な力はありません。ですが…いつか必ず追いついて見せます!」
今はまだ総魔さんには届かないと宣言してみたのですが。
それが良くなかったのでしょうか?
金田さんは小さく息を吐いていました。
「…そう。あなたは違うのね。」
………。
総魔さんとは違うと判断した金田さんの言葉の意味はきっと。
私には『精霊』が使えないという意味だと思います。
そしてそれは真実で、
私にはさっぱり理解出来ない技術です。
ですがそれでも、
私は負けたくありません。
私が欲しいと『想うモノ』は。
私自身の手でつかみとってみせます!!




