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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
64/185

北条真哉

試合を終えて受付に戻る。


そしてもう一度試合がしたいと申請した直後に、

これまでにない異変が起きた。



「「「「か、帰りますっ!!!!」」」」



会場にいた生徒達が次々と退出の手続きを行ってしまったからだ。



それはわずか数分の出来事だった。


たった数分の間に会場にいたほぼ全ての生徒が逃げ出してしまった。



その結果として。


急激に人が少なくなった検定会場は静寂に包まれてしまう。



ここまで人が少ない会場は珍しいのではないだろうか?


もちろん逃げ出したくなる気持ちがわからないとは言わない。



…誰だって自分がまきこまれるのは嫌だろうからな。



彼らが逃げ出した理由はただ一つ。


自分達が次の犠牲になる事態を恐れたこと。


ただそれだけだ。



一時騒然となった受付だが、

騒ぎが収まったことで改めて係員に視線を向けてみる。



「試合はできるのか?」


「………。」



まだ対戦相手が残っているかどうかを問いかけてみると。


係員は顔を引きつらせながら、

そっと名簿を差し出してくれた。



だが、受け取った名簿にはもはや数人の名前しか書かれていない。



…一気に数が減ったな。



ゆっくりと会場内を見渡してみる。


ついさきほどまで100人以上の生徒がいたはずなのに、

今では数えられるほどの人数しか残っていないからだ。


名簿に乗っていない格下の生徒も何人かは残っているようだが、

おそらく彼らを足しても十人程度でしかない。



とはいえ。


残った生徒達に逃げ出すようなそぶりはなかった。



むしろこちらからの挑戦を待っているかのようにさえ見える。


そんな彼らの視線を受けながら再び名簿へと視線を戻してみた。



名簿に記されているのは『8人』の名前だ。



119番、秋月美沙子(あきつきみさこ)

116番、吉備順弥(きびじゅんや)

115番、東矢春樹(とうやはるき)

112番、奥野(おくの)あずみ。

109番、山崎信太(やまざきしんた)

107番、松尾篤(まつおあつし)

104番、宮島京香(みやじまきょうか)

101番、水野園子(みずのそのこ)



どうやら格上の生徒達はほとんど逃げ出さなかったらしい。


さきほどの試合前の名簿一覧とそれほど状況は変わっていないように思える。



とはいえ。


このままでは何度試合を繰り返しても調査が進まない気がする。



相手が抵抗してくれなくては実験が進まないからな。


ただただ対戦相手を斬るだけの試合ではやる意味がない。


少しでも多くの調査を行うためには別の方法を考える必要があるのだが。



…どうするべきだろうか?



思い浮かぶ方法があることはある。


だが、実現できるものなのだろうか?



否定される可能性のほうが高い気はするが、

可能であればやってみたいとは思う。



…おそらく無理だとは思うが。



聞いてみるだけなら問題はないはずだ。


断られたら断られたで、

その時に考えれば良い。



確認するだけ時間の無駄かもしれないが、

それでも名簿に記されている8人の名前を眺めながら係員に尋ねてみることにした。



「一つ聞きたいんだが、一人一人と戦うのは面倒だ。名簿の8人全員と戦うことは出来ないか?」


「…は?はぁぁぁっ!?」



こちらが問い掛けた瞬間に。


係員ははっきりとした不満気な表情を見せていた。



「そんなの無理に決まってるじゃないですか!!」



大声で否定されてしまったが、

そこをもう一度だけ問いかけてみる。



「『出来ない』という決まりはなかったと思うが?」


「い、いや…その…っ。決まりが有るとか無いとかそういう話ではなくてですね。一応これは個人戦ですので、そういったことは定める必要がない部分でして…」



言いよどむ係員は、

どう説得するべきかで悩んでいる様子だ。


そして他の係員達と相談してどう説明しようかと話し合っている。


そんな係員達の様子を黙って眺めていると、

不意に背後から声が割り込んできた。



「別にいいんじゃねえか?」


「えっ?」



どう説明するべきか悩んでいた係員達に向かって一人の男子生徒が歩み寄っていく。



「なっ!?きみは…っ!?」



戸惑う係員達の様子を気にせずに、

男子生徒は自信たっぷりな態度で話を進めてしまう。



「許可なら俺がとる。8対1でやりたいって言ってんだ。やらせてみようじゃねえか」



余裕の笑みを浮かべながら話を進める男子生徒だが、

一体何者なのだろうか?



年齢は俺とそう変わらないように見える。


ただ身長は明らかに俺よりも上だ。


目測だが2メートルを超えるか超えないか、

その程度の長身があるように思えた。



「まあ、とりあえずは特例措置ってことで良いんじゃねえか?」



実際にはそんな特例は存在しないはずだ。


さきほど係員も言っていたが、

そもそも検定試験は個人戦だからな。


複数人による試合を想定した特例があるとは思えない。



だがそれでも。


笑顔で歩み寄ってきた男子生徒は堂々とした態度で強引に係員の説得を進めてくれている。



…どういうつもりで協力してくれているのだろうか?



目的が分からない。


初対面の俺に協力してくれる理由もわからない。



だが、突然現れた男子生徒が有名人であることは周囲の反応から推測できた。



会場の内外を含め、

周囲の女生徒達の視線を集めるほどの色男だ。


だがその顔に似合わず、

体格は魔術師にしては珍しく格闘家と見間違えるほどの筋肉質。


腕の太さだけを見ても俺の倍ほどあるだろう。


単純な腕力なら大人と子供くらいの差があるかもしれない。



とは言ってもダルマのような体型ではなく、

むしろ引き締まった体つきで運動神経は飛び抜けて良さそうに思えた。



…ただ。



そんな見た目の問題よりも、

一目見て感じる強烈な印象は別格だ。



驚くほどの魔力の持ち主。



圧倒的なまでの魔力の総量は今の俺の軽く数倍に及ぶだろう。


翔子と比べても大差がないほど魔力がずば抜けている。


ただそれだけで目の前の男子生徒が上位の生徒である事を感じられるほどだった。



「まあ、いずれ分かる事だからな。先に自己紹介といこうか」



率先して男子生徒から話しかけてきた。



「この学園の第2位、北条真哉(ほうじょうしんや)だ。ぶっ倒れた翔子に変わって、お前の監視に来たんだが、こそこそ隠れるのは趣味じゃないんでな。やるからには堂々と、それが俺の主義だ。まあ、お前にとっては迷惑な話だろうけどな。」



ざっくりと説明した北条は俺から視線を逸らして係員との話を進めていく。



「『天城総魔』に関しては『特例』を認める。その通達はしてあるはずだぜ。」



通達?


特例だと?



俺の知らないところで何らかの動きがあるらしい。



翔子も北条も裏工作を仕掛けるような性格ではないようだが、

水面下では何らかのやりとりがあるのだろう。



北条の説得が通じたのかどうかもわからないが、

係員達は不承不承といった感じで試合を承諾してくれた。



どういう事情があるのかも知らないが、

希望通り残った生徒全員とまとめて戦う許可が出たらしい。



「それでは試合場Aー1番へ、移動をお願いします」


「…と、言うことだ。これで良いんだろ?」



許可を勝ち取った北条が微笑んでみせた。


翔子の代わりに現れた北条真哉。


二人が何の目的で関わってくるのかは不明だが、

問い掛けても答えは返って来ないだろう。


だったら質問するだけ時間の無駄だ。



「感謝する」



今はおとなしく試合場に向かって歩きだすことにした。


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