暗闇の恐怖
向かい合って試合を待つ二人に審判が歩み寄っていく。
「それでは試合を始めます!」
高らかに宣言する審判の手が勢いよく振り下ろされる。
「始めっ!!!」
即座に後退する審判が距離をとる状況で、
御堂は即座にルーンを発動させていた。
魔力の光と共に現れるのはダークネスソードだ。
対する奈々香は御堂に視線を向けたままでじっとしている。
何かをするそぶりもなく、
ただ静かに御堂を見つめているだけだ。
「…相変わらず緊張感が感じられないね。」
何もしようとしない奈々香を見つめながらじわじわと距離を縮める御堂だが。
開始位置から試合場の中央付近まで足を進めたところでようやく奈々香が口を開いた。
「…そこまでです。そこから先は『私の領域』です。」
「………。」
自分の領域だと断言する奈々香の忠告を受けた御堂が足を止めた。
それがどういう意味かはまだわからないが、
御堂はすでに言葉の意味を理解している様子だ。
少し戸惑うような表情で立ち止まっている。
…御堂ほどの実力があっても進めない理由があるのか?
奈々香の能力はまだわからないが、
現在の御堂の位置からではまともな攻撃はできないだろう。
奈々香までの距離はざっと30メートルだ。
魔術を放つだけなら問題ないが、
ルーンで斬るのは不可能な距離になる。
どう頑張っても御堂の刃は奈々香に届かない。
「………。」
足を止めた龍馬は真剣な表情で奈々香と向かい合っている。
対する奈々香は無表情を崩すことなく御堂を眺めているだけだ。
御堂は何を恐れているのだろうか?
明らかな不安が御堂の表情に現れているように思える。
「頑張れ、龍馬~!!!」
「仕方ないっ!」
背後からの翔子の声援をきっかけとして、
御堂は意を決して踏み込むことにしたようだ。
『ダンッ!!』と、
御堂の足が前方に一歩踏み込んだその瞬間に。
突如として試合場が暗闇に包まれた。
半径30メートル。
直径にすれば60メートルだが、
上空は防御結界に触れるまでの円柱型の暗闇だ。
内部の様子は一切見えず。
完全に視界が遮られてしまっている。
その暗闇の中で。
「…忠告はしましたよ?」
呟く奈々香の声が聞こえた気がした。
暗闇に覆われているせいで、
内部の状況を知ることは出来ない。
だがこれが御堂の恐れていた理由だとすれば単なる目隠しではないだろう。
北条が幻術に惑わさていたように、
何らかの精神攻撃があるのかもしれない。
それでも声と音である程度は予測出来るように思う。
奈々香は暗闇の内部を歩いているようだな。
対する御堂は一切動いていないように感じられる。
おそらくは気配を隠すことで、
奈々香の行動を警戒しているのだろう。
試合場をゆっくりと歩く奈々香を警戒して、
息をひそめて気配を隠す御堂の姿は俺でも見えない。
だが、どちらも微かな音しか立てていないにもかかわらず。
奈々香には御堂の姿が見えている様子だった。
「早く逃げないと…狙い撃ちになりますよ?」
余裕を感じさせる奈々香の発言の直後に危機を感じた御堂が急いで行動を起こした。
はっきりと聞こえる足音と共に移動を開始したようだ。
外部からは見えないが、
おそらく奈々香の攻撃を回避したのだろう。
「…良い運動神経ですね。羨ましいです。」
御堂に逃げられたことで進行方向を変える奈々香の目は完全に御堂の居所を把握しているようだな。
暗闇の内部の状況は不明だが、
奈々香は迷うことなく御堂の追撃を行っているように思える。
「闇の世界で…眠ってください。」
暗闇の中で、奈々香の一撃が御堂に襲い掛かる。
その瞬間に。
御堂のルーンが輝きを増した。
暗闇の中の一筋の光。
その光は徐々に輝きを増して強引に暗闇を引き裂こうとしている。
「弐之太刀、魔断!」
御堂の攻撃による爆音が周囲に響き渡ると同時に、
試合場を覆っていた暗闇が分断されて消失した。
「…ぇ?…な、にが…?」
御堂の背後で驚愕の表情を浮かべる奈々香の手には小さなルーンが握られている。
短剣よりもさらに小さい。
殺傷能力は期待できないほど小型のナイフだ。
あえて分類するなら料理用の果物ナイフといったところか。
御堂を背後から突き刺そうとしていたのだろう。
刺突の寸前で動きを止めていた奈々香の位置を把握した御堂が即座に振り返った。
「…見えたよ!!」
一気に斬り掛かる。
「く…っ!?まだ…っ!!」
辛うじて反応が間に合ったようだな。
小さなナイフで御堂の剣を受け止めることに成功した奈々香だが、
御堂は強引に力付くで奈々香を押し込んだ。
「終之太刀、魔壊!」
新たな攻撃によって奈々香のナイフがあっさりと砕け散った。
「…そんなっ!?」
ナイフを砕かれて青ざめる奈々香の動きが完全に止まっている。
そしてそのまま恐怖に怯える奈々香に、
御堂は全力の一撃を叩き込む。
「壱之太刀、魔狂!!!」
「っう…あぁ…っ!?」
横薙の一撃。
腹部を切り裂かれたことで声にならない悲鳴をあげている。
その奈々香の体内で、魔力が暴走した。
『ズバンッ!!!!』と、炸裂音が鳴り響き。
暴走する魔力の影響で全身の皮膚が裂けて血が溢れ出す。
「…ぁ…ぁ…。」
沙織に匹敵するほどの魔力の暴走だ。
それほどの魔力を持っていたということだろう。
この一撃は致命傷になりえる。
「………。」
全身に傷を負い。
全ての魔力を失った奈々香は力尽きて試合場に倒れ込んだ。
「試合終了!!!」
審判の合図によって試合が終了した。
「第3回戦を制したのはジェノス魔導学園!!3試合連続勝ちで『準決勝』へと駒を進めました!!」
「…ふう。」
進行を進める係員の声を聞きながら、
御堂は試合場をあとにした。




