謝罪要求
「あ、あの…北条先輩は大丈夫なんですか…?」
「ええ、もう大丈夫よ。じきに目を覚ますと思うわ。」
心配そうに真哉を見上げる優奈ちゃんだけどね。
沙織は笑顔で答えていたわ。
…まあ、心配するだけ時間の無駄だと思うけどね〜。
真哉だし?
特攻馬鹿だし?
全然学習しないし?
いっつも怪我してるし?
…うん。
やっぱり時間の無駄ね。
私はそう思うんだけど。
「…そうですか。良かったです…。」
真哉の無事を確認して嬉しそうに微笑む優奈ちゃんは本当に優しい子よね。
…私と違って純粋なのよ。
是非ともこのままでいて欲しいわ。
可愛くて可愛くてたまらないのよ!
…って、まあ、私の趣味はどうでも良いんだけどね。
心配する優奈ちゃんの声が聞こえたのかどうかは知らないけれど。
ようやく真哉が意識を取り戻したみたい。
「…んぁ…?」
良く分からない声を発しながら意識を取り戻した真哉は両側で身体を支える私達を眺めてから、
龍馬に背負われていることにも気づいたようね。
龍馬にお礼を言いながら、
しっかりと自分の足で立ち上がったわ。
「…悪ぃ、もう大丈夫だ。」
笑顔を浮かべる真哉を見れたから、
私達は手を離したんだけど。
「どうだ、翔子っ!!俺はちゃんと試合に勝ったぞ!」
何故か真哉は胸を張って勝ち誇りながら、
わざわざ私に勝利を報告してきたのよ。
…ん~。
まあ?
確かに?
試合には勝ったわね。
かなりギリギリだったけど。
結果は勝利よ。
あと数秒ズレていたら引き分け判定になってたかもしれないけどね。
それくらい微妙な勝利だったけどね!!
それなのに。
真哉は自信満々の笑顔で絡んでくるのよ。
「さあ、翔子!約束を果たしてもらうぜ!!」
…ん?
…約束?
「何かあったっけ…?」
試合内容がどうこうよりも、
その後の治療が大変だったから何を言われているのか分からなかったのよ。
本気で何も覚えてないから首を傾げてみたんだけど。
なぜか真哉は私の反応が気に入らなかったみたい。
「…てっめぇぇぇ!!」
真哉のこめかみに青筋が立ったのが見えたわ。
今にも暴れだしそうな勢いに思えるのよ。
これは本気で怒ってるわね。
そんな真哉を見兼ねたのかな?
沙織が私に耳打ちしてくれたのよ。
「ねえ…翔子。北条君が勝ったら謝罪するって約束をしてたでしょ?」
…え?
謝罪?
…あぁ~〜〜〜〜〜〜〜!!!
そっかそっか。
そんなこともあったわね~。
沙織の言葉を聞いて、
数分前の出来事を思い出したわ。
「ごめん、ごめん。すっかり忘れてたわ。」
笑ってごまかそうとしたんだけど。
真哉は逃がしてくれないみたいね。
「思い出したのなら約束を果たしてもらうぜ!」
笑顔で謝罪を要求してきたのよ。
…う~ん。
約束って謝罪しろってことよね?
なんの謝罪なの?
…ってか、面倒くさいわね~。
さっさと忘れてくれればいいのに。
全っ然、学習しないくせに。
どうしてこんなどうでもいいことだけ覚えてるの?
意味不明よね?
まだまだ色々と思うことはあるんだけど。
…でもまあ、いっか。
あとあと騒がれても、うっとうしいし。
謝るくらい別に構わないわ。
「分かったわよ。謝れば良いんでしょ?」
ただそれだけのことだしね。
深々と頭を下げて謝罪することにしたのよ。
「…シンヤサンゴメンナサイ。モウニドトイイマセン。マコトニモウシワケアリマセンデシタ。」
…ふう。
わりと本気で謝ったわ。
完璧なお辞儀と謝罪文だったわよね?
自分でも惚れ惚れとする会心の出来だったと思うわ。
…なのにね?
…それなのにね?
「はぁーーー。」
真哉は激しくため息を吐いてるのよ。
ちゃんと謝ったはずなのに?
何故かまだ不満があるみたい。
「…ったく…。」
呆れ顔で私を見下ろしてるわ。
…何が気に入らなかったの?
一切の緩急を付けずに、
棒読み口調で謝ったから?
「まだ気に入らないの?」
「気に入ると思うのか?」
…はぁ。
本気でうざいわね~。
「ちゃんと謝ったでしょ?」
「どこを、どう、見れば、ちゃんと、なんだ!?」
ああ~もうっ!
うるさいわねっ!!
全力で言い返してやろうと思ったんだけど。
その前に龍馬と沙織が仲裁に入ってきたのよ。
言い争いになるのを感じ取ったのかな?
「まあまあ…」
真哉を落ち着かせようとする龍馬。
「翔子…。一応、約束だから…ね?」
私を説得する沙織。
…う~ん。
前にもこんなことがあったような気がするかも?
あんまり真哉をからかうと、
みんなに迷惑がかかるかもしれないわね。
そう考えて私はもう一度、
真哉に頭を下げることにしたのよ。
「悪かったわよ。真哉もやれば出来るってことは分かったし、ここは素直に謝っておくわ。」
今度こそ素直に謝罪したのよ。
だけどね?
そんな私を見ても真哉はまだ不服そうだったの。
「なんか…イマイチ誠意が感じられねえなぁ?」
…くっ!!
まさかのやり直しの要求に、
密かに唇を噛み締めてしまったわ。
思っていた以上の屈辱だったからよっ!!
…って、言うか。
総魔の前で真哉に頭を下げるなんて。
本気で嫌なんだけどっ!?
…こんな私を見ないで。
…お願い、総魔。
…汚れた私を見捨てないで。
なんて。
大して興味もなさそうな感じの総魔に祈りを込めつつ。
改めて真哉を睨みつけてみる。
…こ、の、馬、鹿、真、哉~!!!
絶対にあとで泣かすからね!!
心の中で激しく呪いを込めてみるけれど。
結局ね。
私は3度も真哉に頭を下げることになってしまったのよ。
「…ごめんなさい!!もう二度と真哉を馬鹿にしませんっ!!」
「ははっ!」
はっきりと宣言した私を見て、
真哉は優越感に浸っていたわ。
「しょうがねえな?そこまで言うなら許してやるよ。」
…くぅっ!!
完全に私を見下した視線だったわ。
…くっやっしっい~〜〜〜〜!!!
ああああああああああああああああ~〜〜〜っ!!!
もう〜〜〜〜〜〜〜っ!!!
絶対に復讐してやるんだから!!!
心の中で固く誓ったわ。
だけど全力で睨みつける私の視線ですら、
今の真哉には優越感の証に思えるようね。
「まあ、せいぜい翔子は俺の足を引っ張らないように努力するんだな?はっはっはー!!」
ぬあああああああああああああああああああっ!!!!!
もお~~~~~~っ!!!
腹立つっっっっっ!!!!!!
優越感全開で笑い続ける真哉が憎いわっ!!
今すぐにでもぶん殴ってやりたいのよ!
ついつい衝動的に拳を握り締めてしまうくらいにね。
殺意を感じていたのよ。
そんな私を見ていた沙織が、
苦笑しながら私を抱きしめてくれたわ。
「…良く頑張ったわね、翔子。」
…あうぅぅぅ。
褒められても嬉しくないことってあるのね。
「過去最大の屈辱かも…。」
「はっはっは~!!!」
最大級の屈辱に震える私と、
そんな私を見て喜ぶ真哉。
…本気でウザすぎるわ。
ああ~っ!!!
もう〜〜〜〜〜っ!!
この恨みはいつか必ず晴らしてみせるわ!!!




