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THE WORLD  作者: SEASONS
4月4日
62/191

一人

《サイド:天城総魔》



…ふう。



ようやく始めることができるな。



翔子が倒れてから一時間後。


今回は一人で第2検定試験会場へとやって来た。



寮の前で意識を失って倒れた翔子はすでに校舎内の医務室に運んでいる。


詳細に関しては伏せたものの。


翔子が魔力を失って気絶したことを医師に説明したあとで昏睡状態の翔子を預けて医務室を出た。



そして、今。


俺は試合場に立っている。



この会場に来るのは今回で2度目だ。


すでに対戦相手も目の前にいる。



今回の対戦相手は日比野貴志(ひびのたかし)



生徒番号は128番だな。



今日最初の対戦となるのだが、

昨日まで全ての試合を観戦していた翔子はいない。



監視の役目を果たした翔子は医務室で眠っているからだ。



今の俺に監視はついていない。


絶対とは言い切れないが、

翔子の代わりに誰かが見張っているということはなさそうだ。



だから、だろうか?



傍にいる間は騒がしいと思っていたのはずなのに、

いないと静かだと感じてしまうのが不思議に思える。



寂しいというほどではないが、

一人になったと感じてしまったからだろうか。



…とは言え、これが本来の状況だ。



翔子が傍にいることが異常だったからな。


翔子がいない状況こそが本来あるべき状態と言える。



だから寂しいと思う必要はない。


この状況が当然なのだから。



翔子が不在のまま無言で試合場に歩みを進めていく。


そして試合開始を待つ。



その間に。


緊張した面持ちの日比野も試合場の開始線に向かい。


俺と向き合って試合の準備を整えていた。



「それでは、準備はよろしいでしょうか?」



審判員が近づいて話しかけてくるが、

どちらも異論はないため試合の開始が宣言される。



「それでは、試合始めっ!!」



後方へ下がる審判員には目もくれずに即座に駆け出してルーンを発動させると、

対戦相手の日比野の表情が一瞬にして驚愕きょうがくに彩られた。



「なっ!?ルーンの所持者なのかっ!!」



どうやら相手もルーンの存在を知っていたようだ。


そして即座に危険を感じたのだろう。


慌てて回避しようとする日比野だが、

その判断は既に遅い。



「逃がすつもりはない」


「くっ!ま、まずいっ!?」



こちらの手の内を全く予想していなかったのだろう。


魔剣を目にしたことで慌てる日々野だが、

すでに何をしても手遅れだ。


互いの距離はすでに数メートルに迫っている。


あと数秒で魔剣の刃が日比野に届く。



「もう遅い!」



今回は『霧の結界』も『天使の翼』も必要なかった。



ただ純粋に相手を斬るだけでいい。


それだけを考えて試合場を一気に走り抜ける。



試合場の周辺ではルーンを発動した事に気付いた他の生徒達がざわざわと騒ぎ始めているようだが、

今はそんな些細なことさえどうでもいい。



すでに日々野との距離は縮まっている。


あとは刃を突き立てるだけだ。



「く、くそっ!」



なんとか反撃しようとしているが、

魔術の詠唱が終わるよりも先に魔剣が日々野の目前に迫る。



「ちっ!?」



必死に逃げようとしているが、

もちろん逃亡を見逃すつもりはない。


日々野の後ろ姿を捉えて、

手にしている魔剣で突き刺す。



「うっ!?ああああああああああっ!!!!」



痛みよりも胴体を貫通した刃を見て錯乱したのだろう。


発狂して叫ぶ日比野の声が会場中に響き渡った。



「それだけ叫べれば十分だ。眠れ」



短く囁いた言葉を聞き取れたかどうかは分からないが、

試合開始から10秒と経たずに日比野は意識を途絶えさせて倒れ込んだ。



日比野の体から魔剣を引き抜く。


だが血は一滴も流れていない。


日比野の身体は無傷だから当然だ。


ただし、魔力を枯渇させて意識を失っている。


当分、起き上がることはないだろう。



「これで試合終了だ。」


「「「………。」」」



勝利を宣言してみたのだが、

審判員だけではなく周りにいる生徒達でさえも驚きのあまりに声を出せずにいる様子だった。



圧勝と言うべき結果だから驚くのは当然だろう。


たった一撃で試合を終えたことで誰もが驚きを隠せないでいる。


そのせいで試合が終わっても周囲は沈黙したままだ。



「「「………。」」」



誰も声を発しない。



何故か?



観戦者達の考えはすでに理解しているつもりだ。


だからその考えを見透かしながら無言のまま魔剣を解除した。


そして審判員に視線を向ける。



呆然とする審判員は試合終了を宣言する事も忘れて倒れた日比野を見つめ続けている。


全く動く気配を見せない日比野を不審に思っているようだ。



指一本動かさず、

呼吸をしている気配すら感じられないせいで誰もが日比野の死を予想しているのだろう。



だが、その考えは間違っている。


日比野は死んだわけではない。



「安心しろ。死んではいない。気絶してるだけだ」


「…え?」



俺の言葉を聞いて安心したのだろうか?


審判員がようやく動き出した。



「か、確認しますっ!!」



日比野に駆け寄って心臓の鼓動を確認する間も張り詰めていた緊張感だが、

安堵のため息を吐いてからゆっくりと立ち上がった審判員によって静寂に終わりが訪れる。



「しょ、勝者、天城総魔!!」



試合終了の掛け声と共に周囲に音が蘇る。



即座に救護班が駆け寄り。


日比野貴志の体をかつぎあげて慌てて会場を飛び出して行く。



魔力を失っただけで身体的には異常がないから慌てる必要はないと思うのだが、

それを理解できる人物はいなかったらしい。


吸収の能力に関する情報が流れていない現状では仕方がないことかもしれないが、

この慌ただしい騒ぎの中で誰もが俺に驚愕の眼差しを向けているように思える。



…まあいい。



結果は出たからな。


周りにどう思われようと気にする必要はない。


倒れた日比野もいずれ目を覚ますはずだからな。


今は実験の継続を優先する。



そのために。


再び受付に向かうことにした。



生徒番号、128番獲得。




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