斬らない
《サイド:天城総魔》
「あなたらしい、って言うべきかしら?」
「さあ、どうだろうな。」
ルーンは術者の心を映す鏡だと黒柳は言っていた。
だからもしもその言葉が真実だとすれば、
光でも闇でもない不確かな光を放つ魔剣が俺の心の色なのだろう。
…心、か。
自分でもよくわからない部分だが、
もしかしたらそうなのかもしれない。
自らの力を疑うことに意味はないからな。
ルーンが真に鏡として術者の能力を映し出すのかどうかはわからないが、
それが真実だと信じた結果として魔剣は生まれたのだ。
…疑う余地はないだろう。
いや、疑う必要がないというべきか。
一度でも疑ってしまったら、
ルーンはルーンでなくなってしまう。
自らの能力に疑問を感じた時点で、
ルーンは使えなくなってしまうはずだ。
「一応言っておくが、心配しなくても腕を切り落とすようなことはしない。」
「そ、そうなんだ…。」
前もって伝えておいたことによって
翔子の緊張が少しだけ和らいだように見えた。
恐怖はまだ消えていないようだが、
少しだけ笑みが戻ったような気がした。
「ふふっ。やっぱり、総魔らしい能力ね。」
「…何故、そう思う?」
「無差別に殺し合う力を求めていたわけじゃないんでしょ?もしもそうなら『斬らない』なんていう選択肢があるわけないもの。」
………。
「総魔って不思議よね。誰よりも強くなることを求めているのに、それなのに誰かを傷つける力を求めているようには思えないわ。相手の力を奪って戦闘不能にはするけど、相手を傷つけようという悪意が感じられないのよ。」
「それは偶然だ。」
意図してそうしてきたつもりはない。
「だから、思うのよ。そうしようとか、そうしなきゃいけないとか、そういう考えじゃなくて、自然とそうしてしまうことが総魔の優しさなんだって私は思うの。」
「…買いかぶりすぎだな。」
俺は決して善人ではない。
だからと言って悪人になりたいわけではないが、
誰かに褒めてもらえるような人間ではないことは自覚しているつもりだ。
「そうかな~?でも、私はそう思うの。だから、私がどう思うかは私の勝手でしょ?」
…ああ、そうだな。
「翔子の自由だ。」
他人の考えを矯正する権利は誰にもない。
当然、自分の考えを否定される理由もどこにもない。
そう判断して翔子の発言を認めたのだが…
「あはっ。やっと私のことを名前で呼んでくれたね♪」
俺の様子を見ていた翔子は今までの恐怖を忘れたかのように嬉しそうな表情を見せていた。
「…良かった。ちゃんと、仲直りできて良かった…。」
精一杯の笑顔で力説する翔子の心に嘘偽りは感じられない。
今までと同じように、
あるいは今まで以上に誇らしげな笑顔を見せている。
「もう大丈夫。総魔のことを信じられるから。だから、遠慮はしないで。」
笑顔で告げる翔子を見て、
最後の迷いが吹っ切れた。
今の翔子なら願いを叶えることが出来るだろう。
「良いだろう。そして見届けろ。これが、俺の力だ!!」
翔子の左腕に狙いを定める。
そして翔子の願いを叶えるために、
迷う事なく翔子の左腕に切り掛かった。
上段から下段へ。
垂直に振るった魔剣の刃が翔子の左腕を襲う。
その瞬間。
物理的ではない『何か』を斬り裂く音が響き。
魔剣が翔子の左腕を突き抜けた。
「…っ!?」
物理的な負傷によって左腕を失うことはないと分かっていても、
左腕をすり抜けるルーンの感触は感じてしまったのだろう。
鋭い刃の感触をまざまざと感じさせられる翔子の表情が一瞬にして絶望に彩られていく。
「総…魔…っ!」
これからどんな結果になるのか?
心の中を恐怖で一杯にしながらも、
翔子は最後まで視線を逸らす事なく魔剣を見定め続けていた。
そして。
一瞬で翔子は意識を失った。
おそらく魔力を斬られた事が原因だろう。
それに伴って奪われた翔子の魔力が急激に失われた。
魔力を破壊されるという強制力。
魔剣の影響によって急激な疲労感が翔子の意識を途絶えさせたようだ。




