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THE WORLD  作者: SEASONS
4月14日
582/1294

沙織の成長

《サイド:天城総魔》



「自分の力で優奈を救え。」



俺の指示によって、

沙織は優奈と向き合った。



だが、それだけだ。


すぐに動こうとはしなかった。



「…無理です。私には…出来ません。」



自信を持てずに俯いてしまう沙織は挑戦する前からすでに諦めてしまっているようだな。



今は辛うじて沙織の治療で即死を回避しているが、

このまま血が流れ続ければ優奈は確実に死んでしまうだろう。



その状況にあっても沙織は諦めようとしている。



自分では出来ないと思うことで優奈を助ける意思を持てずにいる。



そんな沙織を見つめながら、

もう一度だけ問い掛けることにした。



「助けられないのなら優奈が死ぬことになる。もしも、ここに、俺がいなかったとしたら…お前はこのまま何もせずに優奈を見捨てるのか?」


「………。」




戸惑う様子の沙織だが、

いつも俺が傍にいられるわけではないからな。



沙織には俺がいなくても対処できるようになってもらいたかった。



だが、その前に。


沙織に理解させるよりも先に。


苛立ちを抑えきれなくなった翔子が掴みかかってきた。



「ふざけないでよっ!!何もしないのは総魔でしょっ!?早く優奈ちゃんを助けてよっ!じゃないと、本当に優奈ちゃんが…!」



全力で叫ぶ翔子の気持ちも分かるが、

今ここで言い争うつもりはない。



今の優奈に時間はないからな。



無駄な時間をかければ間違いなく優奈は死んでしまうだろう。



そうなってしまえば俺でも治療できない。



…死者を蘇らせることなどできはしないからな。



だからこそ。


限りある時間を無駄にしないために。


翔子を退けてから再び沙織に話しかけることにした。



「沙織なら出来るはずだ。誰かに決められた常識を捨てて、目の前の現実だけを受け入れろ。」



すでに沙織にはそれだけの力があるはずだ。



「他人の限界に縛られるのではなく、自分自身の意思で偽りの限界を乗り越えろ。」


「自分…で?」



戸惑いながらも優奈と向き合う沙織は、

傷口に添える手に僅かに力を込めたようだ。



「私にも…出来ますか?」



ああ、沙織なら必ず出来る。



俺の知る限り、

沙織以上に優秀な魔術師は存在しない。



美由紀でも、黒柳でも、西園寺でもなく。


沙織だけは俺の言葉を理解できるはずだ。



「すでにお前は俺の魔術を目にしているはずだ。その結果を逆算して新たに理論を組み直せ。その先に『見えるもの』があるはずだ。」


「その先に…見えるもの?」



瞳を閉じた沙織は、深く…深く…思考を始めた。



「魔術の逆算…。」



解析は沙織の得意分野だからな。


必ずできる。



「必要なのは気付くことだ。」


「気付く…こと?」


「出来ないと思う気持ちが幻想だと思えば良い。」


「幻想…。」



俺の言葉を復唱する沙織は緊迫した状況の中で新たな理論を構築したようだな。



「…やってみます!」



宣言した沙織が新たな魔術を発動させた。



「ライブ・ア・ライブ!!」



魔力のきらめきが優奈の体を包み込んでいく。



その光は俺の魔術と同様に優奈の体を光で満たし、

血の再生さえも実現させながら優奈の傷口を瞬く間に塞いでいった。



その結果として。


優奈は無事に意識を取り戻すことができたようだな。



「…ん…っ…?」


「優奈ちゃん!!!」



目覚めた優奈が視線をさまよわせる姿を見た翔子が慌てて優奈に抱き着いていた。



「…え?え…?」



状況が飲み込めない様子の優奈だが。


翔子は喜びを表現するかのように、

強く優奈を抱きしめていた。



「無事で良かった~。本気で心配したのよ?」


「あ、あの…その、私…。」



戸惑い続ける優奈だったが、

御堂は優奈の努力を褒め称えていた。



「良く頑張ったね。」


「で、でも…私、試合に…。」



負けたと言い終える前に、

北条も優奈に話し掛けていた。



「あれだけ出来れば十分じゃねえか?今回の結果は素直に受け止めて、次の試合で頑張れば良いんだよ。誰だって勝てないことはある。そこで諦めれば終わりだが、諦めなければまだまだ強くなれる。勝負ってのはそういうもんだ。」


「…先輩。」



御堂と北条の二人の言葉を聞いた優奈は静かに涙を流していた。



「お役に立てなくて…すみません。でも…次は…次は必ず勝ちます。だから、だからっ…!」



願いを込めて御堂達を見つめる優奈だが、

想いを口に出す前に翔子が優奈の頭を撫でていた。



「大丈夫よ。次は勝てるわ。きっとね♪」



敗北を経験することで得られるものもある。


次の試合に込める想いは優奈を確実に成長させるだろう。



例えそれが僅かな差異だとしても、

その成長は認める価値がある。



…今はこれで十分だ。



強くなりたいと願う思いさえあれば、

人は必ず成長できる。



今回の敗北によって優奈の気持ちは切り替わったはずだ。



魔術師としてではなく、

一人の人間としてだが。


精神的な成長こそが優奈にとって必要な課題だったと思っている。



戦うことの意味を知り。


勝つことへの意識を高めることで。


優奈は強くなれると判断していた。



「…ねえ、天城君?」



優奈の無事を確認した沙織が話しかけてきた。



「どうした?」


「その…ね。天城君は私のことも考えてくれていたの?」


「…え?ってことは?沙織の為にわざと手を貸さなかったっていうこと?」


「………。」



沙織の言葉に反応する翔子だったが、

その問い掛けに答えるつもりはなかった。



…答える必要がない。



恩を売るつもりもなければ、

礼を求めるつもりもないからな。



だから今は。


沙織に視線を向けたままで、

俺は俺の思う質問を問い掛けることにした。



「本当の意味で、魔術を『使いこなせる』ということがどういう意味か…少しは理解出来たか?」


「え…っ?」



驚き戸惑う様子の沙織だったが、

それは一瞬だけですぐに頷いてみせた。



「え、ええ。何となくだけど…。私は気付けたかもしれないわ。自分の限界に…。そしてそれが偽りだったということに…。」


「ああ、それでいい。」



『魔術師の限界』



それは沙織にとって足枷でしかない。



「その考えこそが『魔術の法を理解して魔力を行使できる力』の答えだ。」


「魔術の法を行使できる力?それじゃあ、これが魔法…なのですか?」


「ああ、そうだ。」



単純な能力の優劣ではなく、

魔法使いとしての才能。



それが沙織の能力だと俺は判断している。



「今はまだ治癒魔法だけかもしれないが、このまま腕を磨けばあらゆる魔術を魔法として行使できるようになるだろう。」



優奈が吸収の能力に特化しているように。


翔子が一撃の攻撃力に特化しているように。


沙織も全ての魔術を魔法として使えるようになる。



それが沙織の成長だと俺は考えていた。



「常識という限界を決めたのは『魔術師自身』だ。そしてその常識の中にいる限り、それ以上の成長はあり得ない。」


「ええ…そうね。そうかもしれないわ…。」



今はまだ実感がわかない様子だが。


限界が幻想だと気付いた沙織も魔法を使えるようになったはずだ。


その力によって優奈の出血は止まり、

治療は無事に成功した。



「魔法を極めれば『妹の瞳』を治療することもできるだろう。」


「…え!?ほ、本当ですかっ!?」


「幾つか方法は考えてある。だが、どの方法を試すにしても沙織自身が腕を磨かなければ実現することはできないと考えている。」


「そのために…あえて私に任せたのですか?」


「治療に協力すると約束したからな。」



例えそれが効力を持たない口約束だとしても、

約束を反故にするつもりはない。



「それに…どんな治療法を考えても実行できなければ意味がないからな。」


「…そう、そうですね。私自身も努力をするべきでしたね…。」



単に魔術を開発するだけでは意味がない。


術者自身の力量を上げなければ使いこなせないからだ。



そのために偽りの限界を壊して新たな道を切り開くこと。


それが沙織にとって必要な一手だったと思っている。



…これで神崎との約束も果たせたはずだ。



たった一度の一方的な願いではあったが、

沙織を想う神崎の期待にも応えられただろう。



…これで沙織の問題は片付いたな。



自分にはこれが限界だという『思い込み』を排除することで見える『先』がある。



そのことに沙織は気付いた。



ただそれだけのことだが、

気付けない限り前に進むことはない。



気づくことができただけで、

沙織も進むべき道が見えたはずだ。



ただ魔術を『使える』だけではなく。


魔術を『使いこなせる』ということの意味を知った今の沙織なら、

あとは俺が手を貸さなくても自分の意思で成長していくだろう。



そう判断して話を打ち切ることにした。



「あとは自分で考えろ。」



沙織との話を終えたことで、

俺はその場を離れようとしたのだが。



「…総魔さん。」



その前に優奈が話しかけてきた。



「なんだ?」


「あ、いえ…。あの、ありがとうございます…。」



優奈は恥ずかしそうに礼を言ってからうつむいてしまった。


その行動だけではどういう意味かは分からない。



…そもそも俺は何もしていないからな。



「礼を言われる覚えはない。」


「いえ。その…ただ、伝えたかっただけなんです…。」



………。



優奈が何を伝えたかったのかは分からない。


だが、悪い気はしなかった。



「良く頑張ったな。」



優奈の努力を労ってから歩きだす。


そのあとに続く翔子達も試合場から離れたことで、

事態が収まったことを確認した係員が進行を再開しようとしていた。



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