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THE WORLD  作者: SEASONS
4月14日
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時間を稼ぐ方法

「さあ、行くよ、お姉ちゃん!」


「あうう…。」



笑顔で駆け出すピーターとの接近戦を恐れた優奈ちゃんは遠距離から光の矢を放ったわ。



風を切り裂きながらピーターに迫る光の矢だけど。


ピーターは横に跳びはねてあっさりと回避してる。



…う~ん。



なかなか良い運動神経ね。



体が小さい分、的としても狙いにくいし。


動きが早いから狙い打つのは難しそうに見えるわ。



まあ、私なら余裕なんだけど。


優奈ちゃんの反応速度だと全く追いつけないでしょうね~。



「危ない、危ない。」



焦りを感じさせない言葉を呟くピーターは、

一気に優奈ちゃんへと駆け寄ってしまう。



「弓だと接近戦は苦手そうだよね?」



短剣を振りかざすピーターの動きは結構速いわね。



真哉のような大ぶりの一撃を狙わずに、

手数で勝負する感じなのかな?



由香里もそうだったけど。


こういう攻撃は優奈ちゃんには相性が悪いでしょうね。



事実として優奈ちゃんは逃げるヒマもないままピーターの攻撃を受けてしまっているわ。



一閃、二閃、三閃。



ピーターの刃が煌く度に、

優奈ちゃんの体が切り裂かれて真っ赤な血が流れ出しているのよ。



「っ…!!あぁ…っ!?」



悲鳴を上げながら後退する優奈ちゃんの両腕がピーターによって切り裂かれてく。



溢れ出る出血が痛々しいけれど。


それ以上に気になるのが初めて見る優奈ちゃんの苦痛の表情よ。



恐怖ではなくて苦痛。



今までならね。


魔術を受けて吹き飛んだり転がったりして、

かすり傷を負うことはあったけれど。


ここまではっきりと攻撃を受けたのは今回が初めてなんじゃない?



学園での優奈ちゃんの試合はほとんど知らないけれど。


優奈ちゃんが追い込まれる姿は初めて見た気がするわ。



だから私は慌てて総魔に確認することにしたのよ。



「まだ弱点は克服出来てないの!?」



そんな気はしてたけどね。


それでも確認してみると、

総魔は私の疑問を肯定してしまったのよ。



「残念だがまだだ。そもそも一晩で解決出来るような問題ではないからな。優奈の欠点は優奈自身が心に抱える問題だ。コンマ一秒でも早く魔力を吸収しようと思う気持ちがなければ決して解決することはない。」


「だったらっ!だったら一晩もかけて何をしてたのよ!?」



弱点が克服できないのなら、

優奈ちゃんに教育できることって他にないわよね?



だとしたら一晩中帰ってこなかった理由は何なの?



むしろそっちのほうが気になるんだけど?



むしろ教育内容が気になってしょうがないんだけど!?



「…慌てる必要はない。欠点が克服できないのは想定済みだ。」



…想定済み?



良く分からないけれど。


どうも総魔は別の方法で優奈ちゃんを鍛えようとしてたみたいね。



「吸収に時間がかかるのなら、それまでの時間を稼げば良い。ただそれだけのことだ。そしてそのための技術を優奈には伝えてある。」



時間を稼ぐための技術?



それが何なのか、

すぐには分からなかったけどね。



試合場に振り返った私の視線の先で。


優奈ちゃんは『あの魔術』を展開しようとしていたのよ。



…って!?



う、うそでしょ?


もしかして、使えちゃうの!?



攻め寄るピーターから逃げ続ける優奈ちゃんは、

手にしている弓でピーターを牽制しながら二つの魔術を発動させていたわ。



一つは回復魔術ね。



これは驚くようなすごい魔術じゃないわ。



私よりマシかな?って思う程度よ。



動きの鈍くなった両手を治療して治そうとする優奈ちゃんは、

ピーターの攻撃を恐れながらも回復魔術の詠唱を終えて負傷した両腕の治療を行っていたわ。



だけどね?


重要なのはその次よ。



次の魔術が至近距離のピーターに襲い掛かるの。



「…ホワイト・アウト!!」



『ふわっ…』と空気が流れて、

優奈ちゃんを中心にして霧の結界が発生したのよ。



…うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?



「優奈ちゃんも使えるようになったのっ!?」



思わず叫んじゃったけど。


驚いたのは私だけじゃないみたい。



龍馬も。


沙織も。


真哉でさえも。



驚きを隠せずに優奈ちゃんをじっと見つめているからよ。



だけど一番驚いたのは私達じゃなくて、

きっとピーターでしょうね。



優奈ちゃんに接近していたピーターは霧の結界の影響下にいるからよ。



当然その結果は…地獄よね?



頑張って耐えるとかそういう問題じゃないの。



結界に触れただけで魔力が急速に奪われていくからよ。



こうなるともう魔力が尽きる前に逃げるしか方法はないはず。



「…うっ?あぁぁぁぁぁぁっ!?」



悲鳴を上げながらも必死に逃げ出したピーターは魔力が尽きる前に脱出できたみたいね。



運がいいと思うわ。


初見で逃げ切れるとは思わなかったからよ。



…って?



もしかしたら魔術の効果そのものがまだ低かったのかも?



覚えたての一夜漬けの魔術だし、

まだ完成じゃないのかもね。



あるいは予想以上にピーターの魔力が多かった可能性もあるのかな?



どちらが正解なのか私には分からないけれど。


全ての魔力を失う前に結界の外へ逃げきったことは事実なのよ。



「な、なんで…っ!?」



戸惑うピーターだけど。


その気持ちは私達も良く知っているわ。



総魔と戦った経験のある私達にとって、

何よりも恐れるべき魔術だからよ。



『魔力の吸収結界』



その内部において行動出来る魔術師なんてそうそういないはず。



龍馬のように力ずくで破壊するか。


真哉のように勢いで突破するか。



どちらにしても自らの魔力を犠牲にして突き進むしかないのよ。



だからピーターの魔力が万全な状況だったら結界を破壊出来る可能性はまだあったかもしれないわね。



だけどすでに魔力の一部を奪われた今のピーターに結界を破壊できる力が残っているとは思えないわ。



「勝負はついたわね〜。」


「………。」



呟く私の推測を誰も否定しなかったのよ。


みんなも同じように考えてるみたい。



だけど優奈ちゃんは霧を維持しようとはせずに、

自らの意思で結界を解除してしまったわ。



…どうかしたのかな?



発動に成功したんだから。


維持が出来ないっていうことはないと思うんだけど?



優奈ちゃんの考えも良く分からないけれど。


霧の力でピーターを追い詰めるつもりはないみたい。



「………。」



何が起きて何をしようとしているのか理解出来ずに戸惑うピーターから視線を逸らした優奈ちゃんは、

私達と同じように試合を眺めていた総魔に話し掛けたわ。



「…すみません、総魔さん。私は…私の力で勝ちたいです。だから…だからこれで良いですよね…?」



自らの意志を示した優奈ちゃんの想いを感じ取ったのかな?


総魔は楽しそうに微笑んでいたわ。



「ああ、強くなれ。そして俺を越えて見せろ。」



総魔の声が優奈ちゃんに届いたかどうかは分からない。


だけど優奈ちゃんはしっかりとした意志を込めて頷いてから、

戸惑い続けるピーターに振り返ったのよ。



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