名目上は
《サイド:天城総魔》
「それにしても…。」
呟く宗一郎が俺と美由紀の視線を受けながら問い掛けてきた。
「まさかきみがその事実を知っているとはな…。砦に関しては情報を封鎖していたつもりだったが、どこでその情報を手に入れた?」
…砦の情報か。
俺の情報源が気になるようだが、
入手経路に大した理由はない。
最も単純な答えしかないからだ。
「この国に向かう途中で建造中の砦を見た。ただそれだけだ。」
今から20日ほど前の話になるが、
直接この目で確認したから知っている。
「大規模な工事があったおかげで、他の国境の警備が手薄になったからな。結果的に共和国に亡命しやすくなって助かったと思っている。」
「…なるほどな。きみはその目で直接確認したのだな?」
「ああ、そうだ。」
…とは言っても。
まだ始まったばかりで具体的な建設までには至っていなかったが工事が行われていたのは間違いない。
「俺が見たのは基礎工事部分だけだが、アストリアの軍が関与していたのははっきりと確認している。」
「そうか…。」
宗一郎は服の内ポケットから、
一枚の書類を取り出した。
「明日、必要になると思って用意していたものなのだが…。」
宗一郎が机の上に広げた書類は『ある場所』の見取り図だった。
「これを手に入れるのにはかなりの苦労があったのだが、これが『どこの図面』か分かるか?」
…どこの、か。
これまでの話の流れを考えれば答えは一つしかないだろう。
「砦の図面だな?」
「ああ、そうだ。そして問題の砦はすでに完成している。」
「え…っ!?そんなっ!?いくらなんでも早過ぎるわ!これだけの規模の砦が3週間程度で完成するなんて!!」
予想以上に早さに驚く美由紀だが、
宗一郎は冷静に説明を続けていた。
「…驚くのも無理はない。だが、な。どれほど否定したところで現実は変わらん。事実として砦は完成し、すでに多くの兵が送り込まれたという情報が入ってきているからな。」
「…嘘でしょ?そんなはずは…」
…はず?
美由紀の言葉に微かな疑問を感じた。
「はず、とはどういう意味だ?」
「どう…っていうか、明日には来るのよ。問題の彼等が…。」
…彼等?
「どういうことだ?」
重ねて尋ねてみると、
美由紀ではなく宗一郎が答えてくれた。
「アストリア王国の『王族』が、魔術大会の観戦に来るのだ。名目上は隣国同士の友好関係の向上のための視察ということになっているがな。」
…どういうことだ?
魔術師を認めない国が友好関係?
有り得ない話だ。
それが事実であれば、
俺の村が滅ぼされることもなかったはずだ。
「本気で言っているのか?」
「私にも理解できないわ。向こうから一方的に親書が届いただけだから、どういうつもりなのかは分からないのよ。」
「だが、おそらくは…」
戸惑うばかりの美由紀に、
宗一郎が仮説を答えた。
「おそらくは最初から話し合うつもりなどなかったということだろう。」
「で、でも…っ。だったらどうしてわざわざ視察なんて…?」
…この状況で考えられる可能性か。
あり得る可能性から、
あり得ない可能性まで。
その全てを議論する時間はないが。
二人の会話を聞けたお陰で、
一つの結論にはたどり着いた。
「状況的に考えれば『宣戦布告』だな。」
「…なっ!?」
驚く美由紀だが、
宗一郎はすでにその可能性を考えていたらしい。
「考えたくはないが、おそらくそうだろうな。戦争を行うか、それとも潔く降伏するか。その決断を迫るつもりなのだろう。」
「そんな…っ!?そんなことを決められるはずがないわ!!」
…だろうな。
美由紀の言い分は理解出来る。
…だが。
向こうは最初から共和国の意見を聞くつもりはないはずだ。
武力による強制介入。
それを『避ける方法』は一つしかない。
「戦いたくなければ…全ての魔術師を自らの手で根絶やしにするしか方法はないな。」
「馬鹿を言わないでっ!!そんなことが出来るわけないでしょ!?この国は全ての魔術師達の最後の希望なのよ!魔術師を根絶やしにするなんて、それじゃあ、この国が存続する意味がないわっ!!」
美由紀の言い分はもっともだ。
だが、魔術師を庇うのなら戦争は避けられない。
「だったら戦うしかないだろう?魔術師を守る為には立ち向かうしかない。」
「…そんなっ。でも、戦争なんて…」
言葉を失う美由紀だが、
それでもすでに気付いているはずだ。
他に選ぶべき選択肢がないことくらいは分かっているはず。
そして。
俺の選ぶべき選択肢も一つしかない。
「明日、王族が来ると言ったな?」
確認してみると宗一郎はしっかりと頷いた。
「ああ、時間までは不明だが、午前中には着くだろう。今日中に『砦』を出発して、近隣の町で宿泊してから、この会場へ訪れることになっている。」
「そうか…。」
宗一郎の言葉を聞いたことで、
俺は目的の人物に出会える可能性を考慮した。
『アストリアの王族』
奴らは全ての元凶であり、倒すべき存在だ。
復讐するべき国の代表でもある。
実際に誰が来るのかは知らないが、
復讐すべき相手の一人であることに違いはない。
「時間をとらせて悪かったな。俺の話は以上だ。」
話を終えて席を立つ俺に、
宗一郎が話し掛けてきた。
「…暗殺するつもりか?」
「え…っ!?だ、ダメよっ!」
宗一郎の言葉に即座に反応した美由紀がすぐさま俺に視線を向けて鋭い目で睨みつけてきた。
「そんなことをすれば、本当にもう取り返しの付かないことになってしまうわ!!」
俺の行動を止めるために怒鳴る美由紀だが、
俺としてはまだ行動を起こすつもりはない。
この場ではまだ動けない理由があるからな。
だから今は美由紀の考えを否定しておくことにした。
「今はまだ暗殺するつもりはない。必要であれば考えなくもないが、俺の個人的な目的の為に御堂達を巻き込む状況は避けたいからな。俺一人が罪を負うのは構わないが、御堂達を巻き込むような行動はとれない。」
御堂達がいなければ迷わずに行動を起こしていた可能性が高いが、
今は御堂達がこの地にいるからな。
俺の個人的な事情に御堂達を巻き込まないために。
暗殺は行わないと断言してから、
二人に背中を向けて歩きだすことにした。
「美由紀とも約束したからな。心配しなくても大会は必ず優勝させる。そして御堂との決着を付ける。だが、そのあとは…俺の自由にさせてもらう。」
卒業試験を受ける前に学園を…。
いや、共和国を去ることになるだろう。
そんなふうに考えながら、
部屋の扉に手をかけようとしたのだが。
その瞬間に慌てて離れていく人影が見えた。
今の後ろ姿が誰なのか?
答えを考えるよりも先に、
この場に残る微かな匂いで分かってしまう。
…まさかここで盗み聞きとはな。
だからと言って怒りも動揺も感じない。
あるとすれば気配に気づかなかった自分自身の無能さを笑いたくなる気持ちだろうか。
何も言わずに静かに扉を開いてみる。
本人は隠れているつもりだろうが、
どこに隠れているかはすぐに把握できた。
どの段階から話を聞かれていたのだろうか?
宗一郎との会話に集中していたせいで接近されていたことに気付けなかったのだが。
知られてしまった以上は仕方がない。
事実を知ってどうするかは本人次第だ。
そんなふうに考えながら部屋を出ようとする俺に、
宗一郎が声をかけてきた。
「見せてもらおうか。きみの実力と、目的に向かう意志の強さを、な。」
「…好きにすればいい。」
全ての話し合いを終えたことで。
控え室の扉を閉めることにした。




