鳥かご
《サイド:御堂龍馬》
「試合、始めっ!!」
…さあ、ここからだ!
試合開始の合図を聞いて即座にルーンを発動した。
光と共に現れるのは『ダークネスソード』だ。
大会で初披露となる魔剣を構える。
ただそれだけで、
上矢さんも気付いたようだね。
「…あら?前回とは違うルーンね。貴方も新たな力に目覚めたの?」
「ああ、そうだよ。」
前回の僕とは違うんだ。
僕も強くなる為に、更なる力を求めた。
「これが…このルーンが、僕の新たな力だ。」
エンペラーソードではない剣の切っ先を上矢さんに向ける。
彼とは違って『物理的に斬らない』という選択肢が僕のルーンにはないから、
本気で斬りかかるわけにはいかないけれど。
『魔術』に対して手加減するつもりはないよ。
「以前の僕だとは思わないほうが良い。」
「あらあら…。」
第2のルーンであるダークネスソードを眺めていた上矢さんは小さくため息を吐いている様子だった。
「…残念ね。せっかく貴方の『支配特性』を考慮して魔術を組み立ててきたのに、この状況だと役に立ちそうにないわね。」
…対支配特性の魔術?
それがどんなものなのかは分からないけれど。
わざわざ用意してきたということは、
僕の能力を封じるつもりだったのかな?
実際に経験してみなければ判断できないけれど。
最初から僕を狙い撃ちするつもりだったのは間違いないだろうね。
…だけど。
今の僕には意味がないはずだ。
封印の影響によって支配特性は存在しないから今の僕には通じないはず。
「僕の力を封じようとしていたのなら無駄だよ。そもそも今の僕の能力は支配じゃないからね。」
「…どうやらそのようね。」
僕のルーンを眺めていた上矢さんは残念そうに呟いていた。
まあ、一ヶ月の間に考えた魔術が無駄になったわけだからね。
落ち込むのは当然かもしれない。
…とはいえ。
試合前から諦められても困るんだ。
上矢さんの全力を引き出すために。
僕と全力で戦ってもらうために。
新たに手に入れた特性をあえて伝えておこうと思う。
「今の僕の特性は『暴力』になる。あらゆる魔術を破壊する力だよ。」
「魔術を破壊?そんなことが可能なの?」
「僕は嘘をつかないよ。」
「あぁ…。そうだったわね。貴方は正々堂々と戦うのが好きな人だったわね。だったらまずは、その力を見せてもらいましょうか。」
気持ちを切り替えた上矢さんが魔術の詠唱を開始した。
「…単純な攻撃では計れなさそうね。」
右手を高く掲げた上矢さんの頭上で、
渦を巻くように空気が動き出す。
…風の魔術かな?
そう思ったのは一瞬だけだった。
…いや、雷か。
バチバチと放電しているのが見えたからだ。
…雷撃が来る!
上矢さんの上空に圧縮された雷が発生した。
「ライジング・ケージ!!!!」
圧縮された雷が一気に膨張して、
直径5メートルを越える巨大な球体に姿を変えた。
「まずは様子見かしらね?」
右手を振ると共に球体が動き出す。
轟音とも呼ぶべき炸裂音が会場全域に響き渡り、
巨大な球体が僕に向かって襲い掛かかってきたんだ。
「さあ…これは回避できるかしら?」
…どうかな?
初めて見る魔術だから、
確実とは言い切れないね。
…だけど。
広範囲魔術を回避するのは難しいけれど、
単発系の魔術なら逃げるまでもないと思う。
巨大ではあるけれど。
そこまで早くはないからね。
「逃げる必要はないよ。正面から破壊してみせるだけだ!」
放電しながら迫り来る巨大な球体をダークネスソードで切り裂いてみせた。
垂直に振るった刃によって、
球体は容易く真っ二つに別れる。
…これで僕には直撃しない。
左右に分断された球体は僕の両側を通過していくからね。
「この程度の攻撃なら…」
僕には通じない、と宣言しようと思ったんだけど。
「あらあら…それでいいの?」
上矢さんは振り下ろした右手を僅かに上げてからパチンと指を鳴らしたんだ。
「鳥かごの中へ、お入りなさい。」
上矢さんの言葉を聞いた瞬間に、
僕はこの魔術の本当の意味を知ることになる。
二つに別れたはずの球体が、
まるで磁石のように惹きつけ合ったんだ。
そのまま僕を挟み込もうとしている。
「しま…っ!?」
檻の中へ閉じ込めるかのように塞がる球体によって僕は雷撃の中心へと閉じ込められてしまった。
…く…っ!?
「あぁぁぁぁぁ…っ!!」
全身を突き抜ける激痛。
目を開けることさえできない苦痛の中で、
急速に体の感覚が失われていく。
体が痺れてしまい。
握力さえも失ってしまったらしい。
…ルーンが…っ!!
ダークネスソードを手放してしまうほどの激痛。
体も痺れて思うように動かない。
急いで魔剣を回収したいけれど。
目を開けることすら出来なくて、
周囲の状況すら把握できない状況だった。
…油断した!?
そんなつもりはなかったけれど。
上矢さんは魔術を斬られることを想定していたようだ。
…自分が、情けないね。
ルーンを探すことも。
上矢さんに狙いを定めることもできなかった。
「…うぁあぁあぁあぁっ!!!」
「あらあら…?思ったよりも呆気なかったわね。」
呆れたように呟く上矢さんの声が聞こえるけれど。
もちろんこのまま敗北を認めるつもりなんてない。
…体は動かないけれど。
右手に力を込めるくらいはできるんだ。
そしてただそれだけの動きで、
僕は僕の特性を発動させることができる。
「存在を拒絶する!」
宣言した直後に『パァンッ!!!』と弾けるような音が響き渡り。
上矢さんの魔術が消え去った。
「…えっ!?」
戸惑いの表情を浮かべる上矢さんにルーンを拾ってから向き合う。
そして改めて宣言する。
「…言ったはずだよ。僕の特性は暴力。あらゆる魔術を破壊する力だとね。」
「くっ…!」
怯えたように苦々しい表情を浮かべる上矢さんに宣告する。
「全力で戦うことを薦めるよ。それが僕の為にもなるからね。」
ここからが本番だと宣言してから、
上矢さんへと走り出すことにしたんだ。




