復讐の相手
《サイド:天城総魔》
「…なるほどな。きみの気持ちは良く分かった。だが、これからきみはどうするつもりなんだ?わざわざ、俺に会いに来て感謝するというのは何か別の目的があるように思えるんだがな。」
「もちろん俺自身の目的は別にある。どういう理由で魔術師狩りが行われているのかは知らないが、いずれ『復讐』するつもりでいる。村が焼き払われた時のように、両親を殺されて多くの知り合いが殺された時のように、俺も『奴ら』をこの手で始末するつもりだ。」
「…ちょっ!?む、無理よ!そんなことは不可能なのよ!!絶対に出来はしないわっ!!」
戸惑う美由紀は机を叩いて大きな音を立てていた。
それだけ動揺しているということだろう。
宗一郎は冷静だが、
美由紀の勢いは止まらなかった。
「自分が何を言ってるか分かっているの!?あなたの復讐相手は個人で戦える相手なんかじゃないのよ!?」
…そうだな。
それは十分、分かっているつもりだ。
だからこそ。
無理を重ねてまで魔導学園に入学したのだ。
…復讐の力を手に入れるために。
「あなた一人でどうにか出来る問題じゃないのよ!?」
「…まあ、待て。」
必死に怒鳴る美由紀だが、
宗一郎が片手で制してから俺に問い掛けてきた。
「戦うべき相手が誰なのか…きみは知っているのか?」
「ああ、もちろんだ。」
「全てを理解した上で、戦うつもりだと考えて良いんだな?」
「ああ、そうだ。」
宗一郎の確認に俺はしっかりと頷いて答えた。
あの日から15年近い月日が流れたが、
その間に何もしなかったわけではない。
故郷に何が起こり。
誰が攻め込んできたのか?
すでに調べは済ませてある。
「敵が誰かは分かっている。だからこそ俺は力を求めた。全ての敵を滅ぼすために、だ。」
「だから、それは無理だって言って…!」
「落ち着け、美由紀っ!!」
「…ぅ…。」
俺の発言に対して美由紀は立ち上がって抗議しようとしたのだが、
宗一郎の一括によって沈黙してしまった。
「………。」
黙り込んでしまった美由紀を眺めてから、
宗一郎は落ち着いた様子で俺に話しかけてきた。
「きみの目的は簡単な話ではないぞ?もしも実行すれば多くの犠牲と引き換えに大切なものを失うことになるだろう。夢も、希望も、未来も、そして、きみ自身の命でさえもだ。」
その程度は問題ない。
すでに夢も希望も存在しない。
望むべき未来さえもない。
「俺の命一つで目的が果たせるのなら、たやすいことだ。」
「それだけの覚悟を持っているということか?」
いや、覚悟と言う程ではないな。
「目的を果たす為なら命くらい惜しくはない。ただ、それだけのことだ。」
「そう考えられる人間などそうはいない。きみの意思は…すでにそれ自体を『覚悟』と呼ぶのだ。」
…どうだろうな。
これは俺のわがままでしかない。
「俺は俺自身の意志で戦って、俺自身の意思で死んでいくつもりだ。誰かを巻き込むつもりもなければ、誰かに助けを求めるつもりもない。」
「一人で目的を果たせると思っているのか?」
「その為の『力』だ。」
はっきりと答えてから、
美由紀に問い掛けてみることにした。
「俺の実力を考慮した上で、俺が目的を果たせる可能性はどの程度だと考える?」
「そんな可能性は考慮するまでもないわ!0%!!絶対に不可能!それが答えよ!!」
「…そうか。だったら質問を変えよう。」
次に宗一郎に問い掛ける。
「この会場にいる全ての人間を殺せる力があるとすれば、どの程度の確率だと考える?」
「随分と物騒な発言だな。だが…それが可能であるとすれば、おそらく1割程度。その程度には実現可能かも知れんな。」
「だったら、この会場を一撃で消滅出来るとすればどうだ?」
俺の問い掛けに、宗一郎は悩みながら答える。
「到底、実現可能な仮説とは思えんが…万が一にもそれが出来るのならば、決して不可能とは言えないだろう。それほどの力があるのであれば、まさしく災害級の脅威と言えるだろうからな。」
…そうか。
「だったら手に入れて見せよう。それだけの『力』を。」
「…正気じゃないわ。」
俺の言葉を聞いて、美由紀が尋ねてきた。
「本気で言っているの…?」
「ああ、当然だ。」
「一人で何とかなるような相手じゃないのよ!!」
「…分かっている。」
だが、だからと言って諦めることなど出来はしない。
「この憎悪と絶望を…『奴ら』にも味わわせる。それだけが俺の生きる目的だ。」
「総司も一葉も…きみの死を望みはしないだろう。」
俺の発言に対して、
宗一郎は冷ややかな視線を向けてきた。
「二人はきみに生きてほしいと願ったのではないか?」
ああ、そうかもしれないな。
だが、『奴ら』を許すことなど出来はしない。
「俺の心に潜む憎悪が消えない限り、『奴ら』を忘れることなど出来はしない。」
「上手く復讐を果たせたとしても、もうあとには戻れないぞ?復讐の先に幸福などありはしない。待っているのは殺人という名の罪だけだ。」
「構わない。」
幸福など最初から求めるつもりはないからな。
「俺の幸せは15年前に全て奪われた。今の俺に残っているのは『復讐』という言葉に捕われた愚かな心だけだ。」
「自分で愚かだと思っていながらも、やめるつもりはないのか?」
「天城総魔という人間は15年前に死んだ。今の俺は復讐の為だけに生きている。今更…別の道など見えはしない。」
「だが今ならまだ戻れるだろう?復讐を諦めて、天城家の血を受け継いでいくことが、きみにはまだ出来るはずだ。」
俺を説得しようとしているのだろうか。
その気持ちを踏みにじるつもりはないが、
その考えはすでに手遅れだ。
「復讐を捨てるには遅すぎた。その『事実』を貴方も知っているはずだ。奴らはすでに動き出している。この国へと向かってな。」
「っ…!?」
俺の言葉を聞いた宗一郎は表情を歪めていた。
やはり知っているのだ。
すでに把握していることが確信できた。
…だが。
美由紀はまだ何も知らないらしい。
「どういうことなのっ!?」
宗一郎の表情を見て戸惑う美由紀は何も知らない様子だな。
さすがにこの反応は予想外だった。
「まさかこの国の代表にも関わらず、まだ何も知らないとはな…。」
「いや…。」
呆れて呟く俺の言葉を、
宗一郎が即座に訂正した。
「あえて伝えなかったのだ。俺が情報を封鎖したからな。」
「…え?お父さん?どういうことなの!?」
「まだ確定していないからだ。今も調べさせてはいるが、まだ目的が明らかになっていない。だから余計な心配はかけないようにと、せめて事実が明らかになるまではと思い。様子を見ていたのだ。」
今まで隠していた事実を告白した宗一郎だが、
すでに俺と同じ情報を掴んでいるようだな。
美由紀はまだ何も知らない様子だが、
宗一郎はすでに把握しているらしい。
「何が…起きているの?」
美由紀の戸惑いに俺が答えることにした。
「北部の国境沿いに軍事用の砦が建築され始めた。おそらくはこの国への『進軍』を目的とした砦だろう。」
「そ…そんなっ!?」
驚愕の染まる表情を見ていた宗一郎が苦々しく言葉を続けた。
「向こうからは国境の警備の強化と盗賊退治という公的な文書が届いた。だがこれは明らかに共和国への進軍を目的にしているとしか思えない。だが…な。そうは思っても、うかつに手を出すことも出来ん。下手に争いが起きればそれこそ『戦争』に発展しかねんからな。」
「どう…してっ!?」
突然の報告を受けて戸惑う美由紀だが、
それは仕方のないことだとも思う。
相手は…俺が倒すべき相手は『アストリア王国』そのものだからだ。
魔術師を認めない国家の軍隊と戦わなければならない。
その事実によって、
本格的な『戦争』が始まろうとしていた。




