もしかして?
《サイド:深海優奈》
…あうぅぅ~。
やっぱりここは広すぎます。
総魔さんを捜したいのですが、
どこからどう調べればいいのかが分かりません。
それでも試合場を離れた私達は、
ひとまず1階の探索から始めることにしました。
「とりあえず、どこから捜そっか?」
私の意見を聞いてくれる翔子先輩ですが、
私は何も答えられません。
総魔さんがどこにいるかなんてわからないからです。
なので、私と翔子先輩は1階の大きな通路をあてもないまま彷徨うことになりました。
「う~ん。どこまで行ったのかしらね~?」
キョロキョロと周辺を見回す翔子先輩ですが、
総魔さんは見つからないようです。
もちろん私も総魔さんを探して視線を泳がせていましたが、
全く見つかる気がしません。
こういう時に悠理ちゃんがいてくるとすぐに見つけてくれそうな気がするんですけれど。
悠理ちゃんは学園にいるはずですので頼ることは出来ません。
「どこにいるんでしょうか…?」
「さあ?」
私もそうですが、
翔子先輩も全く見当がつかないみたいです。
「ここって適当に捜すにしても広すぎるのよね~。」
「…ですよね。」
見つかる気がしないまま歩いていたのですが。
しばらく歩いていると、
一般禁止区画と書かれた通路を発見しました。
各地に警備の方々はいますけど。
他は特に誰もいないような気がします。
「ここから先は一般禁止なんだけどね…。」
通路の先に視線を向ける翔子先輩は、
人気の少ない通路を眺めながら隣にいる私に問い掛けてきました。
「…ここっぽくない?」
「え…?そうですか?」
どうしてそう思うのでしょうか?
「だって、大事な話なら人の少ないところに行くでしょ?」
それは…そうかも知れませんけど。
「…でも、ここって立入禁止ですよね?」
「ええ、そうよ。」
そもそも入ってはいけないと思う私に、
翔子先輩は笑顔で頷きました。
「一般は禁止よ。でもね?私達は関係者なのよ。」
翔子先輩は自慢げに一枚の貼紙を指差しました。
…何でしょうか?
何が書いてあるのか気になって貼紙に視線を向けてみると。
『ここから先は選手控室区画』と書かれていました。
「控室…ですか?」
「ええ、そうよ。ここはね。試合に参加していない学園の控室があるの。まあ、それ以外にも昼食はここに届くから、ご飯を食べる時にも皆で集まるんだけどね。」
…へぇ~。
そうなんですね。
「この奥には購買とか図書室とか学生用の設備も色々とあるから、一般の人は立入禁止なのよ。」
一通りの説明してくれた翔子先輩は、
立ち入り禁止区画に堂々と歩みを進めてしまいました。
当然、周囲の警備の方々に見られているのですが本当に入れてしまうみたいです。
誰も止めに来ませんでした。
「私はこっち側を探していくから優奈ちゃんは反対側を探してくれない?」
「あ…はい。分かりました。」
通路の左右に別れて総魔さんを捜すことになりました。
通路そのものは広々としているのですが、
会場を支える大きな柱が数え切れないほど並んでいるので、
立ち位置によっては翔子先輩の姿が見えなくなることが何度かあります。
ですので。
迷子になったらどうしようと不安を感じながら歩みを進めていたのですが。
歩いている途中で、
ふと一枚の貼紙に視線が止まりました。
『ジェノス魔導学園控室』と書かれていたんです。
…もしかしたらここで昼食を食べるのでしょうか?
最初はそう思っただけだったのですが。
貼紙のされている扉を見ていたら、
何故か扉の向こう側から人の話し声が聞こえるような気がしたんです。
…あれ?
誰かいるのでしょうか?
私と翔子先輩は通路にいますし、
御堂先輩と沙織先輩と北条先輩は試合場にいるはずです。
ですので。
控え室は使われていないはずです。
それなのに。
誰かが室内にいるみたいなんです。
誰がいるのでしょうか?
総魔さんでしょうか?
それとも係の方がお掃除か昼食の準備でもしているのでしょうか?
普通に考えればどちらかだと思うのですが。
総魔さんだとしたらジェノスの生徒ですので、
ここにいても不思議ではありません。
なにより理事長さんと一緒にいるとすれば、
むしろここにいるほうが自然な気がします。
もしかして?と思いながら、
そっと扉を開けてみました。
出来るだけ音を立てないように隙間から覗き込んでみると。
室内には総魔さんと理事長さんと『あの人』がいたんです。
…米倉さん、ですよね?
どうしてここにいるのかは分かりませんけれど。
総魔さんは米倉さんとお会いすることが出来たみたいです。
そして総魔さん達は何かを話し合っている途中のようでした。
こっそり覗いてしまったので当然かもしれませんが私の存在には気付いていないようです。
…今なら。
ここを離れても総魔さんを見失う心配はなさそうです。
そう思って翔子先輩に知らせるために振り返ってみたのですが、
ここから見える範囲内に翔子先輩の姿は見当たりませんでした。
柱の陰に隠れて見えないのかな?と思って遠くを捜そうとしてみると、
柱と柱の間から一瞬だけ翔子先輩の姿が見えました。
急いで追いかけるべきでしょうか?
歩みを進めて離れていく翔子先輩とは距離がありますので、
ここから呼び掛けるには少し無理があると思います。
そもそも大きな声を出せば中で話をしている総魔さん達のご迷惑になるかもしれません。
そう思ったことで声を出すことが出来なくて、
どうしようか悩んでしまいました。
もちろん翔子先輩を呼びに行ったほうが良いとは思います。
…ですが。
不意に聞こえた話の内容が気になってしまったせいで、
ここから動き出すことが出来ませんでした。
…だって。
「…復讐するつもりだ。」
総魔さんの声が聞こえてしまったんです。
…復讐?
翔子先輩から視線を逸らして、
慌てて室内を覗きこみました。
真剣な表情で話し合う3人はまだ私に気づいていないようです。
改めてその状況に気づいたことで、
私は総魔さん達の会話を盗み聞きしてしまいました。




