総魔の過去
《サイド:天城総魔》
…ここはジェノス魔導学園の選手控室のようだな。
特別観戦席を離れた俺達は一旦1階へと戻ってから人気のない場所を選んで移動した。
それがこの場所だ。
殺風景だが、広さだけは十分にある簡素な室内だ。
部屋の中央に比較的大きな机があることと、
その周囲に6つの椅子が並んでいることを除けば、
あとは物置として使用出来る棚がある程度で他には何もない。
美由紀が言うには昼食の時だけ訪れる場所のようでそれほど長時間いる場所ではないようだ。
だとすれば。
これで十分なのかもしれないな。
無駄に飾り付ける必要はないだろう。
「さて…。」
呟きながら腰を下ろした宗一郎が席に着いたことで、
俺は向かい側の席を選んで宗一郎と向き合った。
「ようやく話ができるな。」
「ああ、そのようだな。ひとまずきみの話を聞かせてもらおうか。」
「もちろん、私も聞かせてもらうわよ。」
ようやく本題に入れることで、
美由紀は宗一郎の隣に腰を下ろしている。
元代表と現代表の二人と向かい合って座っている状況だ。
これはなかなか経験できることではないだろうな。
…とは言え。
俺にとって二人の地位は何の意味もない。
重要なのは地位ではなくて関係だからな。
宗一郎と美由紀の二人の視線を受けながら、
まずは宗一郎に事情を説明することから始めた。
「こうして直接会って話をするのは今日が初めてのはずだが、俺はどうしても『貴方』に会いたかった。」
絶望が支配するこの世界で。
ただ一人信じられる人間として、
あえて『貴方』と呼び掛けた。
「俺はずっと貴方を捜していた。」
「ふむ。その理由を聞かせてもらおうか。」
冷静に話を聞いてくれる宗一郎に。
ついに全てを話す時が来た。
俺の名と、俺の過去を、だ。
「改めて名乗らせて貰う。俺の名前は『天城総魔』だ。」
「な…っ!!そんなバカなっ!?」
俺の名前を聞いた瞬間に、
宗一郎が明らかな動揺を見せた。
その態度を見ただけで分かってしまう。
やはり俺の記憶は間違っていなかったようだ。
米倉宗一郎はやはり、
俺の記憶にある人物と同一の人物だったということだ。
「覚えていてくれたようだな。」
「きみはまさか…っ!!まさかあの『天城』なのかっ!?」
驚く宗一郎を見たことで、
美由紀は慌てた様子で宗一郎に問い掛けていた。
「…お、お父さん。この子のことを知ってるの!?」
「あ、ああ…。」
美由紀に問い掛けられた宗一郎だが、
はっきりとは答えないまま俺に視線を向けて問いかけてきた。
「…生きて、いたんだな?」
「ああ、そうだ。」
否定するつもりはない。
もちろん隠すつもりもない。
「壊滅した村で、ただ一人、俺だけが生き残った…。」
「…壊滅?」
俺の言葉を聞いた美由紀が何かを思い出そうとしている。
「15年前に…村が壊滅?」
子供の頃の記憶のはずだが、
美由紀も例の『事件』を思い出したようだな。
「確か、隣国の小さな村で…?」
思い出そうとする美由紀の言葉を引き継いで、
宗一郎が村の名前を言葉にした。
「共和国の北に隣接するアストリア王国の東部海岸に位置する小さな漁村『フルーム』だ。」
「…あっ!?」
村の名前を聞いたことで、
美由紀はおぼろげな記憶を思い出したようだ。
「あの村!?覚えているわっ!!一度だけだったけど、確かにその村には行ったことがあるはず!」
驚きの表情で俺に視線を向ける美由紀は俺の故郷を思い出せたらしい。
「あの村の出身だったの!?」
驚く美由紀と宗一郎を視界に入れながら、
あの事件での出来事を話すことにした。
「両親の決死の努力のおかげで俺だけは死なずに済んだ。村中の全ての者達が虐殺されたあの惨劇の中で、俺だけは母の手に守られて生き延びることができた。」
引き換えに全てを失うことになったが、
俺が生存できたのは両親のおかげだ。
その事実は今でも忘れていない。
「あの時点の俺はまだ何も知らなかった。何故、村が襲われたのか?何故、全員が殺されなければならなかったのか?俺はまだ何も知らなかった。」
「あの時点…か。ならば今は知っているということだな?」
ああ、そうだ。
今では理解してるつもりだ。
「貴方が全てを知っているように。そして御堂龍馬や常盤沙織が知っているように。俺の村も『魔術師狩り』によって壊滅したために地図上から姿を消した。」
「魔術師狩り…。あなたもその犠牲者だったのね。」
俺の言葉に驚き続ける美由紀だが、
宗一郎は静かに俺を見つめて話を聞いている。
「焼け落ちる村の中で、俺一人だけでも生き延びられたことが奇跡的だったと思う。だからこそ、誰も俺の生存を考えていなかったはずだ。」
「…そうだな。あの惨劇は俺も実際に経験したが、俺でさえ美由紀を守るのが精一杯で、あの村から脱出するのが限界だったからな。他の者達を守るどころか、生存者がいるなどと思ってもいなかった。」
「その思い込みのおかげで生き延びることができたのだと思う。」
結果的に魔術師狩りの部隊も俺の生存に気づいていない様子だったからな。
「もちろん両親の助けがあったから助かったというのが前提にあるが…。」
「天城総司と一葉だな。」
「ああ、そうだ。」
両親の名も覚えてくれていたらしい。
「母は俺を庇って目の前で殺された。だが父は…。」
「俺と美由紀を逃がすために最後まで戦い…朽ち果てた。」
そう。
父は戦場で倒れた。
「その結末は俺も見ていたから知っているつもりだ。」
それこそ俺が宗一郎を信じる理由でもある。
あの日。
あの時。
米倉宗一郎は確かに父と共闘し。
魔術師狩りと戦っていた。
その時に見た魔術が、
俺が最初に覚えた魔術でもある。
「全てを見ていたわけではないが、父と共に最後まで戦い、父の死を見届けた貴方に、どうしても会って言いたいことがあった。」
「…それがあれだけの騒ぎを起こしてまで、父さんに会いたかった理由ってわけ?」
「ああ、そうだ。」
俺はどうしても会いたかった。
そして、一言だけ伝えたかった。
宗一郎と向き合い。
しっかりと頭を下げ。
伝えるべき言葉を口にする。
「感謝している。貴方のおかげで俺は死なずにすんだ。そして貴方のおかげで俺は生き延びた。ただその礼が言いたかった。それだけだ。」
感謝の言葉を伝えてから話を終えた。
宗一郎がどういう理由であの場にいたのかは知らない。
俺の両親とは友好関係にあったようだが、
幼かった俺はどういう関係だったのかを知ることができなかった。
4、5歳の頃の記憶だからな。
全てを覚えていられるわけでもない。
それでも。
それでもあの戦場において。
瀕死の重傷を負ってもなお、
父を助けようとした宗一郎に。
ただ一言だけ。
礼を言っておきたかった。
…俺が『死ぬ』その前に…。




