『風』対『風』
《サイド:深海優奈》
…うわわわわわっ。
ど、ど、ど…どうなるのでしょうかっ?
い、いよいよ…始まってしまうんですよね?
私まで出番が回ってくるかどうかは分かりませんけれど。
ついに試合が始まってしまうようです。
学園での試合とは違う賑やかなお祭り騒ぎ中で、
審判員さんがしっかりと右手を振り上げました。
そして試合開始を宣言してしまうんです。
「試合、始めっ!!!」
「っしゃあああっ!!」
審判員さんの合図があってからすぐに、
北条先輩はルーンを発動させました。
右手に現れる長い槍。
ラングリッサーを構える北条先輩ですが、
対する笹倉さんは両手を前に突き出しただけで特に何かをする様子はありません。
武器を構える北条先輩と何も持たない笹倉さん。
どう考えても北条先輩の方が有利な気がするのですが、
笹倉さんは前大会で北条先輩に勝っているそうです。
だとしたら素手が不利…ということはないのでしょうか?
よくわかりません。
これからどんな試合になるのでしょうか?
静かに視線を向ける試合場で北条先輩が動き出しました。
「行くぜっ!!」
体勢を低く構える北条先輩の槍の先端が赤く光り輝き出します。
学園でも何度か目にしたボルガノンですね。
私では到底対応できそうにない大技なのですが、
笹倉さんは冷静な態度で向き合っています。
「またそれなの?何度やっても無駄なのに…」
「さあ、どうだろうな。」
ため息混じりに呟く笹倉さんに、
北条先輩が攻め込みます。
「ボルガノン!!!」
炎を纏いながら突き出される槍なのですが、
笹倉さんは逃げようともしていません。
「シールド!!」
総魔さんも得意としている防御結界を展開していました。
笹倉さんを取り囲む結界に遮られてしまったことで、
北条先輩の槍は動きを止めています。
攻撃は失敗してしまったようでした。
「絶対防御結界。どれほど強力なルーンでも、私の魔力に劣る限り突き抜けることは出来ないって前回も教えたはずよね?支援特化の私の結界はそうそう簡単には破れないわよ。」
余裕の態度を見せる笹倉さんですが、
動きを止めた北条先輩も笑みを絶やしていませんでした。
「ははっ。すっかり忘れてたぜ。その程度の力なんてな。」
「ふふっ。記憶力が弱いのね。」
北条先輩を見下すような発言でしたが、
それでも北条先輩に気にした様子はありません。
笑顔を浮かべたままで笹倉さんに話し掛けています。
「厄介な魔術だとは認めるさ。だがな。その程度の結界じゃ、今の俺は止められねえぜ。」
『その程度』と言いきる北条先輩の言葉の意味までは私にも分かりませんけれど。
おそらくそれは総魔さんに関することではないでしょうか?
「だったらどうするつもり?結界を突破出来るとでも言うの?」
「突き抜けるのはちっとばかし厳しいな。だがその結界は解除しない限り、攻撃も出来ない完全な魔力遮断結界だ。結界の内側にいながら俺に勝てるつもりでいるのか?」
「解除とともに攻撃。そして結界による防御。攻守の切り替えこそが私の戦術。そして以前のあなたはそれで負けたわ。そしてそれは今回も同じことよ。」
自信満々で微笑む笹倉さんですが、
北条先輩は再び槍を構えています。
低く…低く構えるその体勢はボルガノンではありませんね。
北条先輩の槍が炎の赤ではなくて、
風を示す緑色に輝きだしたからです。
「やってみようぜ。俺が先か、お前が先か。どっちの攻撃が先手をとるか。それが俺とお前の『実力の差』だ。」
「ふふっ。だとしたら結果は見えてると思うけどね。」
自信たっぷりの態度で北条先輩に向けて両手を突き出した笹倉さんの手に魔術の光が生まれます。
「ホールド・ウインド!!」
笹倉さんの両手の前に現れたのは小さな風の塊でした。
そのまま発動すれば結界に阻まれて消滅してしまいますが、
結界さえ解除すれば攻撃ができる状態でもあります。
「さあ、始めましょう。どちらの『風』が上回るのか。」
試合再開を宣言した直後に、
笹倉さんは結界を解除しました。
「捕縛!!」
笹倉さんの風が動き出して、
北条先輩へと襲い掛かります。
ですがその前に北条先輩も動きました。
「ソニックブーム!!」
全力で飛び出す北条先輩の攻撃はボルガノンとは勢いが違いますね。
攻撃よりも速度を重視する突撃によって、
試合場を破壊しながら突き進む北条先輩の速度は瞬きの瞬間だけで笹倉さんの目前に迫る勢いだからです。
ですが。
笹倉さんに届く前に風の塊が立ち塞がっています。
まともにぶつかれば何らかの影響を受けてしまうと思うのですが、
直進する北条先輩は真正面から風の塊に飛び込みました。
そして『バシュッ!!』と槍が風を貫いた瞬間に、
突き破られた風は瞬時に格子状に広がって北条先輩の体を包み込もうとしたんです。
瞬時に広がる風の格子はまるで投網のようですね。
北条先輩を飲み込んで捕獲しようとする風の檻は完全に北条先輩を捕らえていたと思います。
…ですが。
風の檻に捕われたはずの北条先輩は何事もなかったかのように、
あっさりと風の檻を突き抜けました。
「弱ぇぜっ!!」
北条先輩の特攻は止まりません。
風の檻の影響でホンの数秒間だけ動きが鈍くなったように思えましたが、
その影響もすでになくなっています。
それでも僅かに稼いだ時間の間に、
笹倉さんは結界を発動しようとしていました。
…ですが。
詠唱はすでに手遅れのようですね。
「もう遅ぇっ!!」
「シール…っ!?」
結界が発動する直前に、
北条先輩の槍が笹倉さんに届きました。
「ぶっとべ!!」
「きゃ、あ…っ!?」
ソニックブームから生まれる衝撃によって、
笹倉さんの体が弾き飛ばされてしまいました。
その勢いは学園で見た威力を上回っているように思えます。
翔子先輩はあっさりと受け止めていましたけれど。
体格の小さな女性の体ではまともに受ければ本当に吹き飛んでしまうようです。
多少なりとも威力を弱めることができていればここまで大きく吹き飛ばされることはなかったのかもしれませんけれど。
迎撃が間に合わない状態で受けたために直撃だったと思います。
学園よりも広大なはずの試合場で、
笹倉さんの体は数十メートルの距離を弾き飛ばされていました。
そして試合場の周囲を取り囲む結界の上部に『どんっ!』と激しくぶつかり、
試合場の片隅に落ちた笹倉さんはごろごろと試合場を転がっていました。
それでも諦めずに体勢を整えようとする笹倉さんでしたが、
試合場を転がる動きが止まる前に北条先輩が追撃を仕掛けました。
「エクスカリバー!!!!」
北条先輩も魔術師ですので遠距離攻撃が行えるようです。
近接戦闘しか出来ないわけではなかったようですね。
笹倉さんを吹き飛ばしたことで距離が離れてしまった北条先輩は風の魔術による追撃を仕掛けていました。
「このまま押しきってやるぜっ!!」
「いやっ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
会場全体に響き渡るような大きな悲鳴をあげた笹倉さんの体を圧倒的な数の風の刃が切り裂いていきます。
「ぁぁ、ぁ…ぁ…。」
僅か数秒間で悲鳴を上げる気力さえ失った笹倉さんは、
意識を途絶えさせて倒れてしまいました。
『風』対『風』
その試合結果は、
北条先輩の圧勝で終わりました。




