脅迫
「これより先は立入禁止区画になります。お引き取りください。」
20人を越える武装した兵士達が道を塞いでいる。
どうやらこの先に守るべき重要な人物がいるようだな。
だとすれば。
目的の米倉宗一郎がいる可能性も高いだろう。
…とは言え。
説得して道を開けてもらえるような雰囲気ではなかった。
「ここから先は無理よ。戻るわよ!」
俺を連れ戻そうとする美由紀だが、
ここを通る方法は幾つか存在する。
その一手として、
まずは美由紀に視線を向けて尋ねることにした。
「美由紀がいれば通れるはずだ。」
「悪いけど、協力するつもりなんてないわ!少なくとも私が納得出来るまでわね!!」
…そうか。
事情を説明しない限り、
協力するつもりはないらしい。
…だが。
すでに何も覚えていない美由紀を説得するのは難しいだろう。
仮に上手く記憶をよみがえらせたとしても協力してもらえるという保証もない。
だとすれば。
美由紀の協力は得られないという方向で動くしかないだろうな。
「…だったら仕方がないな。」
美由紀の協力を諦めてから、
警備員へと向き直る。
「な、なにをする気なのっ!?」
慌てふためく美由紀に宣言する。
「協力を求めるつもりはない。だから強制させてもらう。今すぐに道を開けさせろ。出来なければ力付くで押し通る。」
「…なっ!?」
俺の脅迫によって言葉を失う美由紀だったが、
兵士達は一斉に俺に対して武器を構えた。
さすがは軍の兵士だな。
即座に戦闘態勢を整えられる判断力はなかなかのものだ。
…もっとも。
俺を止められるかどうかは別問題だがな。
「ちょ…ちょっと待って!!」
慌てて間に入る美由紀の制止によって、
兵士達はゆっくりと武器を下げていたが。
それでも俺を警戒する視線は変わらない。
美由紀が間に入ったとは言え、
俺が動き出せばすぐにでも戦闘が発生するだろう。
それが分かっているからこそ、
この状況は利用できる。
…現時点では美由紀に対して恩も仇もないからな。
強引な手法だとは思うが、
これが最も効果的な方法のはずだ。
争いを避けさせるために、
美由紀への脅迫を強行し続けることにした。
「もう一度言う。道を開けさせろ。出来なければ…」
攻撃を開始する。
その宣言を知らしめるために、
右手を突き出して魔術を展開する。
発動したのは光魔術のホーリーだ。
光の球が生まれて『パチパチ』と小さな音を発している。
今はまだ攻撃直前の状態で止めているが、
美由紀の判断一つでこの付近一帯は破壊の嵐が襲うことになるだろう。
限られた通路という空間において回避する術は存在しないからな。
上手く防御結界を展開したとしても、
俺の能力で突き抜ける自信はある。
少なくとも周囲を取り囲む美由紀と兵士達は無事では済まないだろう。
「…私を脅迫するつもりなのっ!?」
目の前の光に臆することなく睨みつけてくる美由紀だが、
俺を止めたいと思うのなら方法は一つだ。
「会って話がしたい。ただそれだけだ。道を開けるかどうかは自分で決めろ。」
警告した直後に左手からも魔術を展開して光の球を生み出す。
ただそれだけだ。
それだけで両手に輝く二つの光の球を見た兵士達の表情が恐怖に染まり始めた。
どうやら警備兵達は本能的に悟ったようだな。
魔術が発動すれば全員が死亡する。
その可能性に気づいたようだ。
「美由紀。お前の判断一つで状況は一変する。俺を通すか、通さないか、それだけを判断しろ。」
「く…っ!」
唇を噛み締める美由紀だが、
今の美由紀に選べる選択肢は存在していない。
今ここで騒ぎを起こせば大会どころではなくなるからだ。
場合によっては大会の優勝どころか強制退場もあり得る。
その可能性を考えていることは簡単に見て取れた。
「もめ事を起こすつもりはない。俺は『あの男』と話がしたい。ただそれだけだ」
「この状況で…その言葉を信じろって言うの!?」
「お前が俺を信じるかどうか。そして真実を知りたいと思うかどうか。ただそれだけのことだ。」
「…真実?」
俺を睨みつけながらも、
真実という言葉に反応する美由紀から警戒心が和らいだように思える。
その変化に気づいたことで、
一旦魔術を解除してから美由紀に話し掛けることにした。
「俺の目的と俺達の過去。全ては『あの男』と話し合うことから始まる。」
「私達の…過去?」
戸惑う美由紀の肩に手を置いて、
兵士達へと振り返らせる。
「道を開けさせろ。それが唯一の解決策だ。」
「…ぅぅ…。」
俺の言葉に思い悩む様子の美由紀だったが、
僅かな沈黙のあとで俺に向けて呟いた。
「…裏切りは許さないわよ?」
「心配するな。俺の目的は会話であって争いではない。」
「暴動を起こしかけていた人物の言葉とは思えないわね?」
「俺には俺の優先順位がある。目的を達するためなら罪を犯すこともためらわない。それは以前にも伝えたはずだ。」
「…御堂君に勝利したあの日のことね?」
「ああ、そうだ。」
かつて俺は美由紀に宣言した。
俺の目的によって『誰かに迷惑をかけること』は有り得ると。
それが今回のこの状況であり、
今後も同様の問題は起きると思っている。
「…一応、聞いてもいい?」
「何だ?」
「あなたの目的は『復讐』なのよね?」
「ああ、そうだ。」
「だとしたら…父さんがあなたの復讐相手なの?」
「気になるか?」
「…ならないと思う?」
「いや、そう思うのが当然の流れかもしれないな。」
「その言い方だと…やっぱりそうなのね?父さんは…あなたに何をしたの?」
「何を、か。その説明をする前に言っておくが、俺の復讐相手は別にいる。決してお前の父親ではない。」
「え…?父さんじゃないの?」
「無関係…とは言えないが、俺の復讐相手ではない。」
「それじゃあ、どうして…?」
「その理由が知りたければ俺を通せばいい。そうすれば全てが理解できる。」
「…本当でしょうね?」
「俺が嘘を言ったことがあるか?」
「何も言わないことと、嘘をつかないことは同義じゃないわよ?」
「それでも俺は現時点でお前を裏切るような発言をした覚えはない。」
「まあ…そうね。この状況自体がすでに裏切りとしか思えないけれど…今はその言葉を信じるわ。」
ようやく納得してくれた美由紀が兵士達に指示を出した。
「今ここで起こったことは他言無用よ。ただし、もしも何か起こった時は早急に対処するように…。」
俺が裏切った場合に即座に対応するように指示を出した美由紀が通路の先へと歩みだす。
そのあとを追って歩きだす俺を警戒する兵士達だが、
命令を受けたことによって俺を引き止めるのは諦めたらしい。
それでも俺を睨みつける警戒心は薄れていないようだが、
仮にここで背後から取り押さえられたとしても問題はない。
例え斬られようが、
魔術による攻撃を受けようが、
即死さえしなければ魔術で回復できる。
そして生きてさえいればどうにでも出来る。
…俺にとってはその辺の盗賊と何も代わりはしない。
必要なら始末する。
ただそれだけだ。
武器をしまっても警戒を続ける兵士達の冷ややかな視線を浴びながらも、
ひとまず立入禁止区画へ進むことが出来た。




