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THE WORLD  作者: SEASONS
4月14日
553/1307

質問が二つ

《サイド:天城総魔》



………。



試合場を離れてから10分ほど歩いた。



…そろそろ良いだろうか?



ゆっくりと周囲を確認してみる。



現在地は大会会場を取り囲むように広がる通路の一画だが、人の気配はほとんど感じられない。



まもなく試合が始まるからかもしれないが、

警備の兵士も含め大多数が観客席にいるのだろう。



見える範囲には誰もいないように思える。



全くいないとは言い切れないが、

仮に通行人がいたとしても気にする必要はない。



聞かれて困るような話ではないからな。



まずは一度、美由紀と話し合おうと思う。



…これからどこに向かえばいいのか。



話を聞いておかなければ肝心の目的が進まないからだ。



向かうべき目的地を問いかけるために、

一旦足を止めてから美由紀に振り返ることにした。



「この辺りで良いだろう。」



俺が足を止めたことで、

美由紀も足を止めた。



そして向き合う俺を不審そうに見つめている。



「…それで?話って何なの?」



美由紀は目的がわからずに困惑している様子だが、

それでも視線を逸らすことはしなかった。



さすがは共和国の代表というべきか。


どんな状況でも視線をそらさない度胸は尊敬に値する。



…と、言っても。



評価を改めたのは美由紀が知り合いだったことに気付いたからであって、

正直に言えば今まで全く気にしていなかった。



だが今は俺達の関係に気づいたことで、

美由紀への警戒心はほぼ0になりつつある。



だからこそ。


今なら好意的に接することもできる気がしていた。



「質問は二つある。」



どうしても確認しなければならない『ある事』に関して質問することにした。



「まず一つ目だが、開会式で挨拶を行っていた『米倉宗一郎』とは父娘で間違いないな?」


「…へ?…って、はあ!?」



俺の質問を聞いた瞬間に、

美由紀は驚いたような表情で首を傾げていた。



どうやら予測していた質問と異なっていたようだ。



首を傾げた美由紀は、

返答に困っているようにさえ見える。



「わざわざ呼び出して何かと思えば、そんなことが聞きたかったの?」



美由紀には理解できないようだが、

俺としては重要な質問だからな。



念のためにもう一度尋ねることにした。



「もう一度聞く、父娘で間違いないな?」


「ええ、そうよ。だけど、それがどうかしたの?…と言うか、それって大会とは関係ないわよね?」



疑問を感じている様子の美由紀に説明するのは簡単だが、

今ここで話をしてもおそらく何も思い出さないだろう。



美由紀自身と俺には接点がないからな。


俺は美由紀を見たことがあるが、

直接会って話をしたわけではない。



少なくともそんな記憶はなかった。



昔の記憶だから単に覚えていないだけという可能性もあるが、

美由紀が俺を覚えているかどうかもわからないからな。



だから今は二つ目の質問を問いかけることにした。



「どこに行けば会える?」


「どこ、って?父さんに会いたいの?」


「ああ、そうだ。どうしても会わなければならない。」


「会わなければって、どうして?」



疑問を問い続ける美由紀だが、

その態度を見ることで分かることがある。



つまり。


美由紀は『俺を覚えていない』ということだ。



あるい面識さえなかったのかもしれない。



だとすれば。


今ここで美由紀と話し合う意味はないだろう。



おそらく何を言っても通じないはずだ。



そう思ったことで。


美由紀の質問に答えずに、

再度、問い掛けることにした。



「どこに行けば会える?」


「どこって言われても…。」


「知らないのか?」


「いいえ。どこにいるのかは知ってるわ。だけど関係者以外は立入禁止の特別観戦席にいるから、基本的に部外者は中に入れないのよ。」


「それはどこにある?」


「場所は2階東側の中心部だけど…。一応言っておくけど、生徒も立ち入り禁止なのよ?」


「…そうか。」



2階東側の中心辺りにいるらしい。



それはつまり。


俺達の部屋のほぼ真下にいるということだ。



「あの辺りか。」



ここからは見えないが、

大体の見当をつけたことで再び歩きだすことにした。



「質問は以上だ。」


「ちょ、ちょっと!天城君!」



慌てて追い掛けて来る美由紀が歩き続ける俺の隣に並んで話し掛けてくる。



「一体、何を考えているの?」


「会って話がしたい。ただ、それだけだ。」


「それだけ、って…。」



俺の言葉を聞いてため息を吐く美由紀は不満げな表情を浮かべながら問い掛けてきた。



「どうして父さんに会いたいの?」


「会う必要があるからだ。」


「だから、どうして?」



しつこく問い続けてくるが、

今の美由紀に説明をする気にはなれない。



ある程度の説明をすれば思い出すかもしれないが、

思い出したところで美由紀自身に用はないからな。



あくまでも俺が話をしたいのは米倉宗一郎であって、

その娘の美由紀ではない。



直接『あの男』に会って話をしなければ意味がないからだ。



「会って話をする必要がある。それ以上の説明に意味はない。」



それだけを答えて歩みを進める俺に、

美由紀は別の質問を問い掛けてきた。



「もしかして、父さんのことを何か知っているの?」


「…それはどういう意味だ?」


「意味って言うほどでもないけど、わざわざ会って話をしたいって言うくらいなら。何か父さんと関係があるのかな?って、思っただけよ。」



…関係か。



あるとは言い難いな。


俺自身と米倉宗一郎は無関係だ。


かつて一度だけ目にしたに過ぎないからな。



それでもあの男は『俺達』にとって重要な存在であることに間違いはない。



「直接会ったことはない。かつて一度だけ見たことがあるという程度だ。」


「はあ?たったそれだけなの!?…って、まさかそれだけの理由で父さんを探してるっていうの!?」



驚くと言うよりは呆れているといった表情で俺を見つめる美由紀だが、

その程度の不満を気にするつもりは一切ない。



すでに目的地は判明しているからな。


美由紀にはもう用がない。



「ただ会いにいくだけだ。問題はないだろう?」


「あるに決まってるでしょう!!」



黙々と歩みを進めながら2階に繋がる階段を登り始めようとしたのだが、

俺を足止めしようとする美由紀は強引に俺の前に回り込んできた。



「わざわざ試合を放棄してまでどんな理由があるのかと思えば、ったく…もうっ!面識もないのに父さんを捜してるなんて…。一体、何を考えているの!?」



…何を、か。



全力で怒鳴る美由紀の気持ちは分からなくもないが、

目的を確認するまで邪魔をするつもりなのだろうか?



説明するだけなら簡単だ。


だが仮に説明したとしても理解してもらえるようには見えない。


結局は何を言っても無駄な気がする。



…時間の無駄だな。



ひとまず道を塞ぐ美由紀を片手で押しのけてから先を急ぐことにした。



「会って話がしたいだけだ。その先のことは分からない。」



会ったからといって。


話をしたからといって。


何がどうなるわけでもない。



ただ挨拶をするだけで終わる可能性もあれば、

それ以上の出来事に発展する可能性もあるだろう。


だがそれらは実際に会ってみなければわからないことだ。



「今は話し合うことに意味があると思えばいい。」



美由紀を押しのけて階段を登り。


2階へとたどり着いてからすぐに東側に向かって歩き始めることにした。



だが、その道中でも美由紀の妨害は止まらないらしい。



「だから!待ちなさいって言ってるでしょっ!!」



俺の腕をつかみ取って強引に足止めを試みる美由紀のせいで周囲の注目を集めることになってしまっている。



それ自体で困ることはないが、

このままでは埒があかないだろう。



仕方なく足を止めてから、

美由紀に問いかけることにした。



「一応聞くが、何故邪魔をする?」


「何故って、普通止めるわよ!」



感情か?


それとも防犯や立場の問題か?



何にしても苛立つ美由紀の言い分は分からなくもない。


だが美由紀を納得させる方法がない以上、

自ら動くしかないのが現状だ。



「全てを説明しても理解出来ないはずだ。それは今の美由紀を見ていれば分かる。」


「え…っ!?」



俺の言葉が理解出来ずに戸惑う美由紀の手の力が僅かに緩んだ瞬間に、

美由紀の手を振り払って再び歩きだす。



「ね、ねえっ!!今の私ってどういう意味なの!?…と言うか、そもそも年上に対して呼び捨て…っていうか、急に馴れ馴れしくなった感じがするんだけど!?」



…煩いな。



翔子ほどではないが、

美由紀も落ち着きが足りないな。



「日数はともかく、付き合いだけは一番長いからな。」


「…はぁ!?」



慌てて追い掛けて来る美由紀の表情からは、

怒りでも戸惑いでもない純粋な疑問が感じられる。



「付き合いって…どういうこと?」


「自分で思い出せば良い。」


「………?」



説明は無駄だと判断したのだが、

どうやら少しは冷静になれたようだな。



だとしたら。


少しくらいは話してみても良いかも知れない。



「かつて一度だけあの男を見かけたように美由紀の姿も一度だけ見たことがある。…とは言っても俺は米倉の名前を知らなかったうえに15年近く昔の話だ。そのせいで今日まで気付けずにいた。」


「…え?15年前?それって私がまだ9歳の時ってこと?」


「覚えてないか?その年に何があったのかを…。いや、俺の名前を知ってもまだ思い出せないのか?」


「9歳の時?天城君の名前?」



情報を与えても美由紀はまだ思い出せずにいる。


どうやら本当に俺の存在を忘れているらしい。



「俺の名前を聞いても思い出せないのなら説明するだけ時間の無駄だ。」



美由紀を放置して歩みを進めようとしたのだが、

先を急ぐ俺の前に今度は陸軍の兵士達が立ちはだかった。



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