総魔の動揺
《サイド:深海優奈》
………?
どうしてでしょうか?
なんとなくですけど。
いつもと違う雰囲気を感じてしまいました。
…総魔さんの雰囲気が。
いつもと何かが違うんです。
普段感情を見せない総魔さんの表情がはっきりと変わったような。
そんな気がしたんです。
一瞬のことでしたので見間違いかもしれないと思いました。
ですが。
今もまだ何かに対して戸惑っているような。
そんな雰囲気を感じます。
どうしてなのかは分かりません。
ですが。
総魔さんが変化を見せたのは『あの人』が姿を見せてからだと思います。
…お知り合いなのでしょうか?
少し気になったので。
前代表の米倉宗一郎さんに視線を向けてみました。
米倉さんは理事長さんのお父さんのはずです。
さすがの私も国の代表を知らないほど世間知らずではありませんので。
理事長さんと前代表の米倉宗一郎さんのお名前くらいは知っています。
…と言っても。
お名前くらいしか知りませんし。
直接お話したことなんて一度もありませんけれど。
理事長さんが跡を継ぐ前までは、
米倉さんがジェノスの知事で学園の理事長をしていたそうです。
その辺りの世代交代は悠理ちゃんからお話を聞いていますので、
一般的な知識はあると思っています。
ですが。
共和国出身ではないらしい総魔さんは、
米倉さんのことをどの程度知っているのでしょうか?
私には何もわかりませんが。
簡単な挨拶を終えてから壇上を下りようとしている米倉さんは総魔さんに気付いていないようですね。
それでも総魔さんはずっと米倉さんの姿を視線で追っています。
…やっぱり。
お知り合いなのでしょうか?
ですが。
そうだとしたら驚くようなことではないと思います。
…だとしたら?
もしかしたら。
総魔さんは米倉さんのことを知らなかったのではないでしょうか?
だから米倉さんを見て驚いていたのではないでしょうか?
あくまでも推測ですので、
実際にどうなのかはわかりません。
…こういう時はどうするのが良いでしょうか?
聞いてみても良いんでしょうか?
聞いても答えてもらえない可能性が高い気がしますけれど。
聞かない限り答えてもらえない気もします。
「…総魔さん?」
話し掛ける私に、
総魔さんはゆっくりと振り向いてくれました。
「どうした?」
「あ…いえ、その…どうかしたのかな?って思いまして…。」
どう表現して良いか分からずに言葉に迷ってしまったのですが。
総魔さんは何故か微笑んでくれました。
「気にするな。大したことではない。」
………。
総魔さんは気にするなと言いました。
ですが。
今まで一度も見せたことのない動揺を見てしまったんです。
気にするなと言われても、
気にしないなんて出来ません。
もっと話を聞きたいと思ってしまいました。
…ですが。
そうは思っても上手く話し掛けられません。
「総魔さん…?」
「問題ない。」
私から視線を逸らした総魔さんは…今でもまだ米倉さんを探しているような。
そんな気がしました。




