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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
53/185

魔力の波動

《サイド:美袋翔子》


さてさて。


色々と思うことはあるけれど。


実は私も密かにルーン研究所にいるのよね~。



ここはさっき総魔も立ち会いのもとで実験が行われた実験室の隣の部屋。


単純に控室と呼ばれる小さな部屋なんだけど。


実験を終えて体を休めている人物と机をはさんで向かい合ってるところよ。



…さて、と。



まずは挨拶かな~?



「とりあえずは実験お疲れ様って感じで挨拶しておくわね~」


「ありがとう。でも、疲れてるのは翔子の方じゃないかい?僕はここで力を解放するだけの簡単な仕事だから疲れてはいないよ」



そこはほら、社交辞令ってやつよ。


個人的な意見を言うなら、

さっさと自分の部屋に帰って寝ちゃいたい気分なんだけどね。


そうも言ってられない事情があるんだから仕方ないわよね。



…でもまあ。



わりと本当に。


心の底から。


何もかも忘れて眠ってしまいたいけどね。



だ〜〜け〜〜ど〜〜!!



現状ではそんなわがままは許されないのよ。



押し付けられた任務を丸投げできない立場にいるせいで、ね。



「私はまあ、最低限やることをやってから考えるわ」


「うーん。そこまではっきり言われると本当に大変そうだね」


「歴代の任務の中で最高難易度って感じ?」



…って言っても。



私が今の役職になってからまだ1年経ってないんだけどね。



「そこまで大変なのかい?」



…そうなのよね~。



「わりと本気で胃に穴が空きそうな気分よ」



主に総魔の成長が早すぎて身の危険を感じてるだけなんだけど。


精神的な苦痛を感じてることに間違いないわ。



「しばらくのんびり過ごしたいって切望しちゃうわね。」


「それはまあ、ご愁傷様としか言い様がないのかな?」


「そう思うなら変わってくれない?」


「僕はいいけど、理事長は納得しないと思うよ?」



…う~ん。


…理事長ね〜?



「そもそも納得してもらう必要ってあるの?」


「それなりに立場的な問題はあるんじゃないかな?現段階での最善策は彼を味方に引き入れることだよね?だけど僕が直接話し合いに行って、彼が素直に話を聞いてくれるかどうかはかなり疑問だと思うよ?」


「そこを何とかするのが委員長の役目でしょ?」


「委員長って、普段そういう呼ばれ方をしたことってないよね?」



…それはまあ、そうでしょうね。



私も言わないし。



「いつも通り名前で呼べばいいんじゃないかな?」



それはまあ、そうなんだけどね~。



「それだと代わり映えしないから何となく言ってみたい気分だったのよ。」


「ははっ。翔子らしいね。」



…何が?



っていうか、どういう意味?



「何がどう私らしいのか分からないんだけど?」


「そうやって話題をそらすのが得意なところ、とかかな」


「あんまり嬉しくない評価よね~。」


「僕も同意見だよ。立場的にはともかく、誰かに委員長と呼んでもらえるような仕事はしてないからね。」


「それじゃあ、番長って呼んであげよっか?」


「いや、それこそ僕じゃないし…。というか、その話題はもういいよ。」


「そう?まあ、呼び方なんてどうでもいいんだけどね。」


「ははっ。翔子は本当に変わってるね。本人を目の前にしてそんなふうに言えるのは翔子だけだよ。」



…う~ん。



「じゃあ、素直に先輩って呼んであげるわ」


「いや、それこそ今更って感じで馴染めないよ。」



私の発言によって彼は苦笑いを浮かべながら深々とため息を吐いてる。


ちょっと呆れてる感じ?



「素直に名前で呼んでくれないかな?」



何故か彼から頼み込むような結果になっているけれど、

彼の年齢は私よりも二つ上だったりするわ。



そして学年も二つ上だから本来は先輩と呼ぶべきなのよ。



だけど、基本的にそんな呼び方をすることはないし、

彼もそう呼ばれることを望んでないみたい。



その辺りの理由はまあ、私達しか知らない話になっちゃうけど。



本来なら先輩であるはずの彼が成績を伸ばしてきたのは『私達』よりも後だったからよ。



遅咲きっていう表現は少し違うんだけど。


成績を伸ばすことよりも他にやりたいことがあったみたい。


だから試合が後回しになっていただけで、

実力的には私達よりも早い段階で上位の実力があったらしいわ。



…まあ、単に目立つのが苦手だっただけらしいけど。



だけど理事長に『本気を出しなさい』って急かされた結果。


あっさり私達を超えてしまったのよ。



…本当に、あっさりと、ね。



今でこそ総魔の成長も異常だと思うけど。


本気を出した彼もなかなかの規格外なのよ。



でもまあ、そういう流れもあってね。



普段からお互いを名前で呼んでるから上下関係なんて考えてなかったし。


いつもと同じようにお気楽に向かい合っているの。



まあ、お互いに心の中では全く別のことを考えてるみたいだけど。


態度そのものは普段と何も変わらないように見えるわ。



…ひとまず冗談はこれくらいにしておくとして。



そろそろちゃんと話をするべきね。



「それよりも相変わらず規格外の強さよね~。見ていて正直、呆れるわ。」


「はははっ。ようやく話が本題に戻ったと思ったら、そこから始まるのかい?」


「だって本当のことだもの」


「だとしても、見ていて呆れるなんて本人には言わないものじゃないかい?」


「それこそ、いまさらでしょ?」



ちゃんと実力を知ってるし。


これまでに何度も試合を見てきたしね。


それに今日みたいな実験が数え切れないほど繰り返されてることも十分に知ってるわ。



だからさっきの実験も控え室から見ていたのよ。



…今更驚きはしないわね〜。



むしろデタラメな強さに呆れてしまうだけで、

すでに見慣れた結果なんだから。



「さすがに委員長は別格よね~。」


「いや、だから委員長ではないんだけど…って、また話を逸らしてるよね?」


「ん~。バレた?」


「バレないほうがおかしいよね?」



…かもね。



目の前にいる人物に関してはすでに観察を必要としないくらい、

お互いの実力差を理解しているのよ。


だから彼の指摘を否定しないし、しようとも思わないわ。



「ははっ、本当に翔子は変わってるね。」


「そうかもね~。自分で言うのもどうかと思うけど、真面目な性格ではないでしょうね〜。」


「だから良いんだよ。」


「それってどういう評価?」


「みんな翔子のことが好きだってことだよ」


「そういう発言、言ってて恥ずかしくないの?」



聞き取り方によっては告白と同義だと思うけど。


彼にとっては他の意味でしかないでしょうね。



「みんなの士気を高めるのが僕の仕事だからね」



それこそが委員長と呼ばれる所以だと思うんだけど、

本人は頑なに拒否し続けてる。



「ふ~ん。みんなの士気を高めるのが仕事ね~。だとしたら有能な仕事ぶりだと思うわ」



私としては言葉の中に皮肉をたっぷり含めてみたんだけど。



「ありがとう」



彼は皮肉部分をさらりと聞き流して嬉しそうに微笑んでる。



「言っておくけど、褒めてないわよ?」


「ああ、分かってるよ。」


「………。」



彼は私の発言を意図的に好意的に解釈したみたい。



「悪意のない笑顔ってたまに殺意が沸くわよね?」


「そうかい?」



愛想のない総魔とは違った意味で疲れるわ。


笑顔を崩さない彼の表情をしばらく見つめてみたけれど。


とりあえず面倒になってきたから追求は諦めるしかないわね。



「もういいわ。無駄に疲れるし」


「それじゃあ、本題に入るかい?」



話題を変えるために姿勢を正した彼の表情から一切の笑みが消えていく。



さっきまでの気さくな雰囲気は消えて、

上司としての貫禄を漂わせ始めたのよ。



…ったく、本当に真面目なんだから。



私でさえ呆れてしまうほど真面目な性格。



そんな彼の名前を知らない人は一人としていないはずよ。


数日前に入学したばかりの新入生を除いて、

という条件付きではあるけれど。


教師も生徒も学園の全ての人達が彼の名前を知っているわ。



たぶん、直接出会ったことがない町の人達でさえも、

彼の名前だけは知ってるでしょうね。



この学園における『恐怖の象徴』として。


彼の名前は知れ渡っているからよ。



そんな圧倒的存在感を放つ人物に、

私も今だけは真剣な表情で話しかけることにしたわ。



「それで、どうだった?」


「それは、どっちの意味かな?」



すでに答えは知っていると暗に示す笑顔を浮かべる彼を見て、

私も微笑みながらいたずらっぽく答えてみる。



「もちろん、両方よ。」



私が何を聞きたがってるかなんて、

今更言葉にするまでもないわよね。


だから彼はひとまず別の話題から答えることにしたみたい。



「実験に関しては失敗だよ。僕の限界を計るには、まだまだ時間がかかるだろうね。」



…でしょうね~。



予想通りの答えに頷いてから次の言葉を待ってみる。



「それで、もう一つは?」


「そうだね。本題だけれど、『彼』のことなら今はまだ分からないとしか言いようがないよ。実力を判断するにはまだまだ早すぎる。まずは一度、彼のルーンを確認してからだね。」



…う~ん。



やっぱりそうなるわよね。


直接、対面したわけじゃないし。


実際に試合を見たわけでもないし。


判断できないのは当然だと思うわ。



「まあ、ルーンに関してはそうなんだけど、他には何かないの?思ったこととか…」


「他に…か。一応、一つだけ気になることがあるかな?理由は分からないけど、彼には『魔力の波動』が感じられなかったからね。」



…あ~。



そこまで気づいていたのね。


今の指摘にはちょっとだけ戸惑ってしまったわ。



『その事実』なら私もすでに気付いていたからよ。


たぶん黒柳所長辺りも気付いていたと思うけど。


だけどね。


そんなことは有り得ないと判断していたの。



…本来なら絶対に有り得ないんだから。



魔術師っていうのは魔力を持つ者なのよ。


そしてその魔力は人それぞれ異なる波動を持っているの。


その波動の違いがあるからこそ、

個々に得意とする分野に違い出るって公表されてるくらいだしね。



回復魔術を得意とする人がいたり。


攻撃魔術を得意とする人がいたり。


あるいは補助魔術を得意とする人がいたり。



様々な分野に分かれる中で、

さらに細分化されて各種属性の得手不得手が分かれるのは魔力の波動が人それぞれ異なるからって言われているのよ。



だから。


魔力を持っているのに。


魔術の資質とも呼ぶべき波動が存在しないという事実は、

共和国が定める定義に真っ向から対立することになるわ。



だから気にしないようにしていたの。


その事実には気づいていたけれど、

あえて触れないようにしていたのよ。



…実はこのことは理事長にもまだ報告してないのよね~。



まあ、今回のことで黒柳所長から理事長に報告がいく可能性はあるんだけど。



「やっぱり、勘違いじゃなかったのね。」


「僕と翔子の二人して判断を誤るとは思いにくいね」


「そうよね…。」



魔術師である限り必ず在るべき『魔力の波動』が何故か総魔には存在してないの。



その事実に気づいていながらも、

その事実を認められずにいたのよ。



「どうしてだと思う?」



魔力の波動そのものは個人の性格といってもいいような微弱な差でしかないけれど。


それぞれがそれぞれに違う波動を持っているから、

全く同じ波動は存在しないって断言されているのよ。


あくまでも理論上の定義だから絶対とは言い切れないのも確かなんだけど、

同じ波動が存在する事を証明出来た人もいないの。



…それと、同時に。



魔力の波動が存在しない魔術師は、

天城総魔を除いて今だかつて誰一人として存在していなかったのよ。



…だとしたら?



どうして総魔には魔力の波動が感じられないのかしら?



その理由が私には分からないの。


これまでの全試合を監視していた私でさえ、

総魔の魔力の波動を感知出来ずにいるのよ。



「どうして魔力の波動が感じられないのかしら?」


「さあ?理由は僕にもわからないし、今まで報告にもなかったから考えてもいなかったよ。だけど、やっぱり翔子は気付いていたんだね。」



微笑む彼を見て、

大きくため息を吐いてしまう。



「ええ。出会ってすぐ…というよりも、初めて見た瞬間に気付いたわ。このことは理事長にもまだ報告してないんだけどね。というよりも、報告しようにも説明が出来ないでしょ?。普通に考えて有り得ないことなんだから…。」



何もかもが意味不明なのよ。


そんな状況に頭を抱えてしまったわ。



「まあそうだね。今までに例のないことだから、確信めいたことは言えないけれど。現時点で仮説を立てるとすれば…『吸収』の能力。それが答えかも知れないね。」



…ん?



吸収が答え?



「どういう事?」


「波動がない。それはつまり『癖や相性がない』とも言えるよね。だから、それこそが吸収の能力の条件なのかも知れないと思っただけだよ。」



…う~ん。



そうなのかな〜?



「それって…あらゆる波動と波長を合わせられるから、魔力の吸収が出来るっていう感じ?」


「あくまでも仮説でしかないけどね。だけどあらゆる魔力に適応できる事実を考慮すれば、波動がないことが最大の理由なのかもしれないね。」



…なるほど。



現実に起きていることを理論で説明するなら、

確かに納得出来そうな話だとは思うわ。



…だけど。



それでもまだ。


それだけで解決できる話だとはどうしても思えないのよね〜。



まだ他にも『何か』あるような気がするの。


どんな理論を並べても総魔を定義出来ないような、そんな気がするのよ。



そんな私の心の葛藤に気付いているのかどうか知らないけれど。


彼は優しい微笑みを浮かべたまま話を続けていたわ。



「実際に戦ってみなければ分からないこともあるから。あれこれ考えるよりも、今はもう少し彼の様子を見た方がいいんじゃないかな?」



…まあ、そうね。



否定も肯定も出来なくて、

今は頷くことしかできなかったわ。



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