別れの言葉
《サイド:天城総魔》
気がつけばもう午後7時になっていた。
4日がかりの実験だったが、
ようやく全て終わる時が来たようだ。
特性の調査から始まり。
構呪という仮説は本当に正しかったのか?
それはどの程度の効果を発揮出来るのか?
そしてルーンの能力は?
疑問だらけだった全ての検証が完了した。
これでもう思い残すことは何もないと言って良い。
「…ふう。何と言うべきか…。」
黒柳の発言によって全員の視線が集まる。
「もはや構呪という能力は実証されたと言っても良いだろう。それは『素晴らしき力』だ。そして同時に『恐れるべき力』でもある。」
素晴らしくもあり、恐れるべき力。
相反する評価だが、
黒柳の言葉に反論する者はいないようだ。
「天城君。きみはその力を持って何をするつもりだ?それは…その力は『魔術という世界』に大きく影響を与えかねない異常な能力だ。それほどの力を、きみは何に使うつもりなのだ?」
…俺の目的か。
どこまで話すべきだろうか?
黒柳は信用できる男だ。
話すことに不満はない。
理解してもらえるかどうかは分からないが、
だからと言って否定してくることもないだろう。
そう思える程度には信用しているつもりだ。
…だが。
少し考えてみたが、
思い浮かぶ結論は『何も言えない』という答えだった。
もしも話せば黒柳達を。
…いや。
御堂や翔子達まで巻き込むことになってしまうだろう。
「悪いが俺の目的に関して話すことは出来ない。」
「…ふむ。どうあっても教えるつもりはない、と言うのか?」
「俺には俺の目的がある。…とは言え、この力に関しては俺が望んで手に入れたわけではない。あくまでも『自分の力』を調べて出た結果に過ぎないからな。」
「…確かにそうかもしれん。特性は自分で決められるものではないからな。だが、その力を何に使うのかは、きみ自身が決めることだ。」
…そうだな。
黒柳の言葉は理解出来る。
だがそれでも。
打ち明けるつもりはなかった。
今はまだ『その時ではない』からだ。
話せば黒柳は協力してくれるかもしれない。
だがそれは黒柳以外も巻き込むことになる。
西園寺や藤沢。
その他の職員達まで巻き込むことになるだろう。
…俺の復讐に巻き込むには…関わりすぎた。
見ず知らずの他人であれば何も感じなかっただろう。
だが同じ時を過ごし、
少なからず心を許し合える関係性を築いてしまった。
…だからこそ。
黒柳達を巻き込むことはできない。
…俺に出来ることは。
受けた恩を返すことだけだ。
「いずれ分かることだが、今はまだ言えない。」
「…そうか。」
説明を避けたことで、
黒柳は沈黙してしまった。
これ以上の追求は無駄だと判断したのだろうか?
黒柳の考えまでは分からないが、
代わりに西園寺が口を開いた。
「私もあなたの力は認めるわ。否定出来ないほどに『結果』は出てしまっているから。もう疑うことは出来ないわね。これであなたは完全に覚醒したと言えるはずよ。」
潜在能力に覚醒したと宣言した西園寺が本題に入る。
「だから…一つだけ聞いても良いかしら?」
「なんだ?」
「魔術大会には参加するみたいだけど、そのあとはどうするつもりなの?」
…大会のあとか。
西園寺の質問によって、
全員の視線が俺に集まっている。
黒柳も同様だ。
俺の今後が気になるようだな。
「すでに俺がこの学園で望んだ目的はほぼ達成出来たと言える。あとは大会に参加して異なる能力者達の実力を見極めたあとに、最後に御堂と戦うつもりだ。」
それが達成出来たなら。
「大会後は…俺がここに留まる理由はもう何もないだろうな。」
「それはつまり『学園を去る』という意味かしら?」
そうなるだろうな。
「それが卒業なのか、それとも別の道かは分からないが…。」
「卒業試験を受けないつもりなの?」
「その時の状況次第だな。」
「あなたは何を狙っているの?」
「その質問に答えることは出来ない。」
西園寺との会話を打ち切る。
そして。
出口に向かってから部屋の扉へと手をかけた。
「…黒柳…。」
振り返ることなく。
扉を開きながら黒柳に話し掛ける。
「感謝している。俺の我が儘に最後まで協力してくれたことを…俺は生涯忘れない。」
「それはまるで…これが最後になるような言い方だな。」
「…そうなるかもしれないからな。」
別れの言葉を残してから部屋を出ることにした。
おそらくこれが最後になると思うからだ。
だからこそ。
黒柳にはちゃんと挨拶がしておきたかった。
「…心から感謝している。」
その想いだけを残して。
研究所をあとにした。




