凶暴化
「ありがとう、真哉。」
「礼はいい!それよりもはやく逃げろっ!」
轟音を響かせながら洞窟に激突して止まった大猪だけど。
それでもまだ倒せたわけではないようだ。
むしろトドメをさせなかったことで、
今まで以上に凶暴化しているかもしれない。
こうなるともう本気でトドメを刺しに行かないと僕達が殺られてしまうだろうね。
だけど今は、
それ以上に気になることがあった。
先ほどの突撃によって洞窟内が激しく揺れてしまっていることだ。
このままでは大猪を倒す前に生き埋めになってしまう可能性だってある。
「…ちっ!これでもまだダメかっ!!」
致命傷を与えるに至らずに舌打ちする真哉だけど。
今は早急に洞窟から脱出する方法を考えなければいけないと思う。
僅か数秒遅れるだけで生き埋めになりかねないからだ。
危険を感じたことで、
僕は震える足で必死に立ち上がった。
「さすがに洞窟内では分が悪すぎる。何とか外におびき出して全力で攻撃しないと…。」
「ああ、そうだな。こんな狭い洞窟内じゃ全力で動けねえし、使える魔術にも制限があるからな。」
僕の提案に頷く真哉は再び大猪にルーンを構えた。
その間にも大猪はゆっくりと向きを変えて、
僕達に襲いかかろうとしている。
「ブオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「はっ。相当キレてやがるな」
様子を見る真哉に大猪が駆け出す。
「…ったく。がむしゃらに突進してくるのか。こういうのは自分を見てるみたいで気に食わねえな。」
不満を感じながらも突撃を回避しようと動き出して大猪の直線上から逃げ出す真哉だったけど。
「グゴオオオッ!!!」
「なっ…!?」
突然進行方向を変えた大猪が真哉に狙いを定めたんだ。
「マジかっ…!?」
避けきれない突進によって、
真哉の体が再び吹き飛んでしまう。
「ぐ!?がはっ!ごほっ!」
突然、方向を変えた大猪と激突してしまい。
真哉はまたもや吹き飛んでしまっていた。
だけど弾き飛ばされてもルーンを手放さなかったのは流石だね。
…って、ルーンは!?
手放してしまっていたルーンを急いで回収してから真哉へと走り出す。
幸いにも真哉が吹き飛ばされたのは出口側だ。
脱出の難易度は下がったといってもいい。
だけどそれだけじゃ逃げ切れるとは思えない。
まずは大猪の行動を阻害するために、
後方へと回り込んで全力で切り掛かることにした。
「倒れろっ!!!」
大猪の体に刃を突き立てる。
これ以上洞窟を刺激しないために威力を抑えているとは言え。
僕の攻撃は大猪の分厚い皮膚を切り裂くことに成功していた。
「グゴオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!」
大猪の絶叫が洞窟内にこだまする。
そのせいだろうか?
残存していたコウモリ達が次々と異常をきたして落下していく様子が見えた。
だけどそれは僕達も同じだったかもしれない。
「くぅ…っ!?」
洞窟内に反響する大猪の悲鳴があまりにも大き過ぎて、
耳をふさいでも頭痛を感じてしまうほどだったからだ。
「大丈夫か!?真哉っ!」
耳を押さえながら必死に洞窟の外へと向かって走り出すけれど。
「…ぁあ!?聞こえねえっ!!」
大猪の叫び声のせいで聞こえなかったらしい。
それでも外に向かう意思は通じたようだ。
二人並んで外へと走りだしたんだけど。
怒り狂った大猪が僕達の後方から突進して来ている。
「くそっ!間に合わねえ!!」
真哉が足を止めて大猪に振り返る。
出口は近いけれど。
大猪の足が圧倒的に早くて逃げきれる状況ではなかった。
「こうなったら死ぬ気で突っ込んでやるぜ!!」
体制を低く構える真哉が反撃に出る。
「ソニックブーム!!!」
風を纏う真哉の最高最速の突撃によって発生する衝撃波が地面を削り取っていく。
洞窟を削り取る真哉と洞窟を激しく揺らす大猪。
二人の巻き起こす振動が、
確実に洞窟を崩壊へと近付けている。
このままだとあと何分ももたないかもしれない。
洞窟が崩れ落ちてしまう危険性が非常に高いんだ。
崩落の危険性を考慮する僕の視線の先で激突する真哉と大猪。
だけど。
崩落を恐れた真哉の一撃が大猪の勢いに負けてしまったようだ。
「ぐあっ!?」
とどめを刺すどころか再び弾き飛ばされる結果になってしまっていた。
大猪に弾かれ。
天井へと激突してから。
重力にひかれて落下する真哉に、
大猪が突き進んでくる。
「真哉ぁぁっ!!」
真哉を助ける為。
慌てて駆け出した僕は、
手にしていたルーンを大猪に向けて全力で投げ飛ばした。
その行動が良かったのかな?
僕の投げたルーンが運良く大猪の足に突き刺さったんだ。
そのおかげかどうかは分からないけれど。
大猪の突進が明らかに緩んだ気がした。
「ブオオオオオッ!!!!グゴオオオオオッ!!!!!!」
悲鳴を上げる大猪が僅かに動きを止めた瞬間に、
どうにか真哉を救出することが出来たんだ。
「ブオ!!!!!グオオオオッ!!!!」
足を負傷しても背後から迫ってくる。
だけどその速度は明らかに低下している。
今なら普通に走っても逃げ切れるんじゃないかな。
「もうすぐだっ!」
真哉の腕を引きながら走り続けたことで、
僕達は洞窟の外へ飛び出すことに成功したんだ。




