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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
51/185

聖剣

「機材の準備はどうだ!?」


「いつでもいけます!!」


「こちらも問題ありません!」



黒柳からの問いかけに対して

複数の職員達が応えていく。



「全ての機材が正常に作動しています!」


「こちらも同様です。ですが、あくまでも仮定の理論値ですので、安全性の保証は出来ません」


「…まあ、そうだろうな。とりあえず出来る範囲内でやるしかない。まずは記録保持を優先しろ。機材は代用がきくから潰れても構わないが、情報は集め直すのが大変だからな。調査結果だけは全力で死守しろ」


「了解です!」


「何とかしてみます!」


「ああ、任せるぞ。」



即座に指示に従う職員達にさらなる指示を出し終えてから、

振り返った黒柳は再びこちらに話し掛けてきた。



「さて、これから見せるのは、おそらくこの研究所始まって以来最大の『破壊力』の調査になるはずだ。」



破壊力。


その言葉を強調した黒柳は、

今回の実験の危険性について語りだした。



「実験が失敗に終わればこの部屋共々、我々も吹き飛んでしまう可能性がある」



大規模な実験場を破壊するほどの調査。


それがどういった内容なのかは分からないが、

この場の誰もが命の危険すら覚悟している様子に見える。



「実験に成功すれば様々な研究が大きく前進するだろう。何も知らないきみを、いきなり危険な実験に巻き込むことに関しては少々気が引ける部分もあるのだが、実際にその目で確認したほうがきみ自身にとってもいい勉強になるはずだ。最善は尽くすが、万が一の時は運が悪かったと思って諦めてくれ」



命がけの実験か。



「そこまで危険な内容なのか?」


「うーむ。きみの疑問に対してどう説明するのが適切かは分からないが、根本的な方針を伝えておこう。『危険ではない実験など、この研究所には存在しない』ということだ」



…なるほどな。



おそらく上の魔術研究所とは根本的に目的が違うということだろう。


一般的な安全第一の研究ではなく、

日常的に危険な実験が行われているということだ。



「この研究所には危険度の高い実験ばかり回されてくる。だからどの実験を行うにしても命懸けなのはいつものことだ。」



だからこそ地下深くに造られた研究所なのだと説明してくれた。



「ここでなら実験に失敗しても地面に埋もれて証拠共々隠滅されて終わるからな。学園や町に迷惑をかけることもない」



実験に失敗したという事実を消せるが、

研究所で行われている様々な資料も土に埋もれて消え去るということだろう。



「まあ、そうならないように努力はしているんだがな」



自虐的な発言をした黒柳は苦笑いを浮かべながら頭を掻いて、

ゆっくりと職員達の作業の中に入って行く。


自滅覚悟の実験らしい。


一瞬だけ黒柳に着いていくべきかどうか迷ったが、

特に指示があったわけではないからな。



下手に動いて実験の失敗を誘発するような行動は避けるべきだろう。



黒柳の後を追う事はやめておく。


邪魔をするべきではないからな。



これから始まる実験が何を行う実験かすら分からない以上、

不用意に動き回って彼等の足を引っ張るわけには行かないだろう。



色々と聞きたいと思うことはあるが、

今はおとなしくしていたほうがいいはず。



何が起きるかはともかくとして、

結果的に何が起きたのかさえわかればいいからな。



…今は黙って状況を見守る事にしよう。



そう考えてから数分後。



ただ黙って実験の開始を待っていると、

全ての準備を整えた黒柳達がついに動き出した。



「よし!!それでは今から実験を始めるぞ!」



黒柳の指揮によって始まる。


実験の内容はまだ分からないが、

開始の合図によって実験の主役である人物に注目することにした。



…何が始まるのかは知らないが、見せてもらおうか。



区切られた室内の奥側にいる人物。


彼の実力を見定めるために一挙手一投足を眺める。



その間に。



彼は瞳を閉じて、ゆっくりと両手を頭上に掲げた。



まるで祈りを捧げるかのような動きだが、

宗教的な意味があるわけではないだろう。


おそらく魔術か何かを使用すると思われるが、

何らかの魔術を詠唱しているようには見えない。



…魔術ではない何かか?



そんなふうに考えた直後に事態が動き出す。



彼の両手の間に色味を帯びた輝かしい光が生まれたからだ。



…何の光だ?



ただの魔術ではない。


もちろん物理的な光源でもないだろう。



光を生み出したというよりも、

生み出した『何か』が光っているように思えるからだ。



両手が輝いたと感じてから僅か数秒。



その僅かな時間だけ輝いた光は一気に収束して光り輝く『巨大な剣』に姿を変えた。



…剣?



あれは武器なのか?


だとすると。



…あれがルーンか!



初めて見る能力。


生み出された剣は本人の姿を覆い隠すほど巨大だ。



刃渡りだけでも2メートルはあるだろう。


横幅も50センチ程度はあるように思える。


長剣と呼ぶには大きすぎる光の大剣からは、

本人よりもさらに強烈な威圧感が放たれている。



…これは、格が違いすぎる。



今の自分と比べれば、その差は歴然だ。



それなりに強くなったつもりでいたが、

大剣に込められた魔力にさえ到底及ばない。



彼が持つ魔力の何割かが使われただけのルーンが、

俺よりも遥かに膨大な魔力を放っているのだからな。



どう考えても対処法が思い浮かばない。


もしもあの剣で攻撃されたら、

霧の結界も天使の翼も一瞬で消し飛ぶだろう。



…魔力の絶対値に差がありすぎる。



今の俺では太刀打ちできない圧倒的な力だった。


いや、もっと正確に言えば立ちはだかることさえできないだろう。



正直に言って時間稼ぎすらできない。


それほどの実力差を感じてしまったからだ。



…格が。


…いや、次元が違う。



翔子はルーンとは魔力を結晶化したものだと言っていた。



その言葉が正しければ、

彼が大剣に込めた魔力は俺の数倍に及ぶだろう。



今の俺では到底敵わない。


決定的な実力差を実感してしまう。


だが、そのおかげで分かったこともある。



…これが黒柳の言っていた言葉の意味なのだろう。



目指しても届かない境地。



それでも足掻き続けて目指すのか?


それとも諦めて逃げ出すのか?



どちらを選ぶのも自由だが、

選んだ結果が自らの価値を変えてしまうということだ。



諦めるのか?


挑み続けるのか?



ルーンの力を知った俺がどの道を選ぶのか。


その選択肢の答えを、

黒柳は求めているということだ。



…だとしたら。



答えようと思う。


迷いはない。


最初から屈するつもりもない。



なぜなら。


すでに知っているからだ。



絶対的な恐怖と。


絶望的な運命を。


すでに知っている。



だから逃げるという選択肢はない。



彼の持つ力は圧倒的だが、

それすら乗り越える力を求めてこの場所に来たのだから。



力に怯えるくらいなら最初から求めたりはしない。


相手が格上の存在だからこそ乗り越える価値がある。



…その力すら制してみせる!



彼の持つ大剣を見据えながら、

いつの日にか相対する瞬間を思い浮かべる。



たとえ今は届かないとしても。


必ずたどり着いてみせる。



そんなふうに考えている間に、

彼は軽く素振りを繰り返して準備運動を行っていた。



明らかに常人では使いこなせない大剣。


それなのに一連の動きに乱れは一切感じられない。


彼自身よりもはるかに巨大な剣が、

まるで重力を無視するかのように片手で軽々と扱われているからだ。



剣に振り回されることなく、

左手にしっかりと握りこまれている。



…どういうことだ?



大剣には重量が存在しないのだろうか?


それとも強引な腕力で扱っているのだろうか?


普通に考えれば、あれほど巨大な剣を片手で振り回せるはずがない。


それなのに。


軽々と大剣を振り回す姿に疲労の色は一切見えない。



…この辺りも調べる必要があるだろうな。



魔力を結晶化して造り出されたルーンと呼ばれる武器。



その価値も能力もまだ何一つとして分からないが、

初めてルーンを見た感想はただただ純粋に凄いの一言だった。



…これは予想以上だな。



当初想像していた物とは全く異なっているからだ。


光り輝く大剣は予想を遥かに超えるものだった。



…どうやらルーンとは、ただの武器ではないらしい。



これまで想像していたのは純粋に武器の代わりになるような物だったが、

それは大きな間違いだったようだ。



単純に剣であり、槍であり、斧であり、

そういった『戦いの道具』程度に思っていたのだが、

彼のルーンを見てそれが間違いだと気付かされた。



ルーンとは単なる魔力の塊ではない。


おそらくそれ自体が力を持つ一種の魔術なのだ。



だから翔子が言っていたように、

俺が翼を造り上げたのと酷似している。



…似て非なる存在だがな。



翼は魔術で造られたものであり、

ルーンは魔力で造られている。


その決定的な違いがあるため、

決して同質のものではない。


だがそれでも共通する部分はある。



ルーンとは単純な武器ではなく、

使用者ごとに千差万別に形を変える『魔術効果を持った』武器ということだ。



あくまでも魔力の結晶である為。


厳密にいえば魔術とは全くの別物なのだが、

魔術と同等の能力を持った武器と考えるのが最も正解に近いだろうか。



もしくはルーンそのものに魔術と同等の能力があると考えるべきか。



その考えを肯定するかのように、

彼がルーンを一降りする毎に広大な実験室を揺るがすほどの爆風が巻き起こっている。



ただの素振りで最上級魔術に匹敵する破壊力だ。



光の剣にどういった能力があるのか分からないが、

実験場を揺るがすほどの破壊力を考慮すれば

霧の結界も天使の翼さえも意味をなさないだろう。



圧倒的な実力差。


莫大な魔力が光の剣から感じられる。



…これがルーンの力か。



ルーンの能力は間違いなく驚異に値する。


だからこそ改めて考えなければならない。



あれだけの性能を持つ大剣に匹敵する何かを

翔子も持っているということだ。



翔子と彼の実力は決して互角ではない。


だが例え彼の半分だとしても、

十分に驚異的な存在であることに変わりはない。



…これが最上位の力か。



これまでの検定会場では見ることのなかった最後の壁。


ルーンという圧倒的な力を見たことで、

今のままでは決して勝てないと強く実感させられてしまった。



だからこそ。


自分自身のルーンについても考えることが出来る。



…敗北感が大きいが、良い経験にはなったな。



実力差を痛感した。


それこそが最大の収穫と言えるだろう。


出来ることならもっと大剣の力が見たいと思うのだが、

残念なことに実験は終盤へと進んでしまうらしい。



「ちっ。ここまでかっ!!」



黒柳が叫ぶのと同時に実験場が大きく揺れた。


瞬間的ではあったが、

地震のような揺れを感じた。


その直後に。



部屋を仕切るガラスが小さな音を立てながらひび割れ始めた。



…直撃したわけでもないのにこの威力か。



大剣が生み出す破壊力の余波に耐えきれなかったのだろう。


実験室全体を揺るがすほどの圧倒的な威力のせいで強化ガラスが限界に達しているのだ。



刻一刻と亀裂が広がっていき、

今にも粉砕してしまいそうな状況に黒柳を含めた職員達が冷や汗を流しながら眺めている。



「…実験はここまでだな。」



残念そうに呟いている。


おそらく失敗したのだろう。


それでも死者が出なかったことは不幸中の幸いというべきか。



「中断の指示を出せ」


「「「はいっ!」」」



黒柳の言葉をきっかけとして実験が中断された。


指示を受けた職員が即座に中止の合図を送ると、

奥にいる彼は動きを止めてルーンを消滅させた。


そしてまっすぐにこちらを、

というよりは黒柳に視線を向けて次の指示を待っているようだ。



その視線を受け止めた黒柳は笑顔を見せながら一礼していた。



「協力に感謝する。ひとまず隣の部屋で休んでいてくれ」



感謝の言葉を告げた黒柳に対して一礼したあと彼は静かに実験室を出て行った。



その後ろ姿を見送ってから、

実験の中断を確認した黒柳は笑顔を消して大きくため息を吐いていた。



「ふう…。徐々に段階を上げてもらっていたとは言え、衝撃を抑えきれずに防御結界が崩壊し始めるとはな。これではまだまだ実用化は難しいか…。今よりも更に出力を上げる必要があるわけだが、分散理論でさえ一分と持たないとなると、何か別の方法を考えないといけないかもしれないな。」


「そうですね〜。単純な防御だけなら何とかなるんですけどね〜。」


「魔力消費の効率化が目的だからな。単純な力押しでは上が認めてくれないだろう」


「それだと今のままですからね〜。」


「ああ、そうだな。とりあえず別の方法も考えてみよう」


「了解です。」



今回の実験結果に対して他の職員達との打ち合わせを終えたのだろうか。


黒柳が再び歩み寄って来た。



「さて、きみも色々と聞きたい事があるだろう。場所を変えて話をしようか」


「ああ」


「それではついてきてくれ」



部屋の外に向かって歩きだす黒柳。


そのあとを追って実験室を離れることになった。



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