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THE WORLD  作者: SEASONS
4月11日
486/1318

こんな私でも

《サイド:深海優奈》



昼食を後回しにして食堂を離れたあと。


翔子先輩の案内を受けて医務室の奥に向かってみると、

魔力を失った沙織先輩が眠りについている姿が見えました。



翔子先輩と試合をしていたそうなのですが、

見た限りでは怪我はしてないように思えます。



すでに治療は終わっているようですね。



現在は魔力が回復するまで目覚めないという状況のようです。



「優奈ちゃん。お願い出来る?」


「はいっ!」



翔子先輩の期待に応えるために、

沙織先輩の側に歩み寄りました。



「頑張れ、優奈~!」



小さな声で応援してくれる悠理ちゃんに微笑みを返してから、

沙織先輩の胸の上に手を置きました。



微かに感じる沙織先輩の温もり。


私とも翔子先輩とも異なる『魔力の波動』を感じとって、

私の魔力と沙織先輩の魔力を同調させてみます。



言葉にするのは難しいのですが、

お互いの魔力を共有するような感覚ですね。



本来なら他人の魔力を変換して吸収するのが私の能力なのですが、

全く逆の手順を行うことで相手の魔力に戻すこともできるみたいです。



総魔さんに教えていただかなければ出来なかった技術ですが、

『魔力を変換する』という手法そのものはどちらも同じなのかもしれません。



私の魔力を沙織先輩の魔力に同調させながら、

限界まで魔力を送り込んでみました。



沙織先輩を包み込むように輝く魔力の光。



急激に失われていく私の魔力と引き換えに、

沙織先輩に魔力が宿っていくのがはっきりと分かります。



…凄い魔力量ですね。



翔子先輩に続いて、

沙織先輩の魔力も回復させているのですが。


二人とも莫大な量の魔力を扱えるので、

回復に必要な魔力もかなり多くなってしまいます。



そのせいでしょうか?



たった2回の供給で、

私の魔力のほとんどがなくなる勢いでした。



さすがにどう考えても、

3回目は無理だと思います。



少なくとも今まで吸収してきた魔力は全て失ったはずです。



そのため。


すでに私自身の魔力も消費しているのですが、

沙織先輩の魔力の総量は本当に翔子先輩以上のようでした。



魔力の消費量を考えてみると確かに4割以上です。


もしかしたら5割くらい違うかもしれません。


それくらい上回っているように思えました。



私自身の魔力はそれほど多くありませんので、

回復を終えるよりも先に私の魔力が底をついてしまいそうな気がします。



…ですが。



実際には私の魔力が残り2割を下回ったところで、

沙織先輩の魔力は完全に戻ったようでした。



…もう大丈夫のはずですけど。



胸の上から手を放して様子を見ます。



私と翔子先輩と悠理ちゃん。


みんなの視線が集まる中で。



「…ん…?」



意識を取り戻した沙織先輩が目を覚ましてくれました。



そして静かに体を起こした沙織先輩は、

私達が側にいることに気付いて優しく微笑んでくれました。



悠理ちゃん。


翔子先輩。


そして私に視線を向けて。


それぞれに優しく微笑んでくれたんです。



「ありがとう、優奈ちゃん。あなたが助けてくれたのね。」



感謝の気持ちが込められたとても優しい言葉でした。


沙織先輩の心からの想いが伝わってきたんです。



『ありがとう』という、

ただそれだけの言葉が。


私の心に深く響きました。



だから沙織先輩の感謝の言葉が、

何よりも嬉しく思えたんです。



「お…お役に立てて、なによりです…っ。」



本当にそう思いました。



私の能力で人助けができるのなら、

何度でも協力したいと思えたんです。



…私には。



それくらいのことしかできないからです。



今でもまだ、私は私の力を理解出来ていません。



どうして私には吸収の能力があるのでしょうか?


どうして私だけがこの能力を持っているのでしょうか?



…どうして?


…何の為に?



そんな疑問をずっと抱えているからです。



ですが。


沙織先輩の言葉のおかげで、

私は少しだけ自分に自信を持てるような気がしました。



今はまだほんの少しだけですが。


それでも。


私の力は魔力を奪うだけの能力じゃなかったからです。



私の力でも誰かを助けることが出来ると思うだけで、

少しは自分の力と向き合えるような…そんな気がしました。



「そ、その…。私は…私の出来ることをしただけですから…。」



沙織先輩の感謝が照れ臭くて、

顔を赤くしながらうつむいてしまいました。



ですが。


それでも沙織先輩は、

私のことを褒めてくれたんです。



「そんなふうに恥ずかしがることはないわ。あなたの能力はとても素敵な力よ。それは他の誰にも真似出来ないとても大切な力だと私は思うの。優奈ちゃんだから出来ることだし、優奈ちゃんにしか出来ないことなの。だから、自信を持ってね。」


「…は、はい…っ。」



私を励ましてくれる沙織先輩の言葉がとても優しくて。


その想いがすごく嬉しくて。



…自然と。



自然と涙を流していました。



「…優奈?」



心配そうな表情で私の顔を覗き込んでくれる悠理ちゃんですが。


心配してもらわなくても大丈夫です。



悲しいわけではありません。


辛いわけでもありません。



そうじゃないんです。


この涙の理由はそういうことではありません。



…ただ。



ただ嬉しかったんです。



だから今は。


涙を流しながらも。


精一杯の笑顔を浮かべました。



泣き笑い?



…いえ。



嬉し泣きというのでしょうか?



ちょっぴり恥ずかしいのですが。



こんな私でも誰かの役に立つことが出来ると思えただけで、

嬉しくて涙が止まらなかったんです。



弱くて。


臆病で。


泣き虫な。



…こんな私でも。



誰かのお役に立てるんです。



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