だったら、私と
気配に気づいて振り返ってみると。
さきほどまで意識を失っていたはずの真哉が目覚めていた。
「…だりぃな…。」
ぼやく真哉の声を聞いて翔子と沙織も振り返る。
その間に真哉はゆっくりと体を起こしていた。
「よう!龍馬まで揃って、どうかしたのか?」
…どうか、って。
心配して駆けつけたんだけどね。
ため息を吐きたくなる気持ちを押さえて、
真哉に話しかけてみることにした。
「動いて大丈夫なのかい?」
体調を心配して聞いてみたけれど。
真哉はいつもの笑顔で頷くだけだった。
「ああ、心配ねえ。健康そのものって感じだな。」
ベッドを下りた真哉は軽く体を動かしながら翔子に話しかけている。
「…ったく。翔子にまで負けるとは思ってなかったが、こうなった以上は仕方がねえ。認めてやるよ、翔子。知らねえうちに強くなったな。」
「ふふ〜ん♪」
素直に敗北を認める真哉を見て、
翔子は当然とばかりに誇らしげに頷いている。
「楽勝!楽勝!」
「はっ!調子に乗るなよ。内心ビビってたことくらい分かってるんだからな。」
「んな…っ!?なっ…な、何を馬鹿なこと、言ってんのよ?そ、そんなわけ…ないじゃない…っ!」
「あー?声がどもってるぞ」
「…う、うるさいわねっ!」
「はっはっは!!」
大声で笑い声をあげる真哉を見ていると、
それほど落ち込んでいるようには思えなかった。
試合で負けたのに、
結果を気にしてないのかな?
真哉の気持ちは僕にもわからないけれど。
負けたからといって不満を口にするつもりはない様子だった。
「…まあいいさ。今回は負けを認めるが、次は勝つ!ただそれだけだ。」
素直に敗北を認めた真哉は、
僕達に背中を向けて歩きだしてしまう。
「どこに行くんだい?」
聞いてみたけれど。
真哉は足を止めることなく、
背中を向けたままで答えてくれた。
「ちょいと出掛けて来る。」
そう言ってさっさと医務室を出て行ってしまったんだ。
…どこに行くんだろうか?
気になるけれど。
今は追いかけないほうが良い気がする。
誰にでも一人になりたいと思うことはあるだろうからね。
無理に追いかけるつもりはないんだけど。
だからと言って心配がなくなるわけじゃない。
「どこに行ったのかな?」
残された僕達はそれぞれに顔を見合わせて首を傾げてしまった。
「さあ…?どうでもいいんじゃない?」
翔子は気にならないみたいだ。
「少し…心配ね。」
沙織は心配そうな表情で真哉の背中を見送っていた。
…うーん。
真哉の姿が見えなくなってもまだ入口に視線を向けていたんだだけど。
再び扉が開かれる気配はなさそうだった。
だからかな。
真っ先に気持ちを切り替えた翔子が話しだしたんだ。
「まあまあ、真哉のことは放っておくとして。とりあえず私はどうしようかな~?」
「また会場に行くつもりかい?」
「ん~。行ってもいいんだけど、なかなか対戦相手が見つからないのよね~。」
それはまあ、そうだろうね。
今の翔子の成績が何番なのか、
僕はまだ知らないけれど。
成績を上げるためには、
一桁台の生徒と戦う必要があるだろうからね。
そのために対戦相手を探す必要があるんだけど。
成績を上げたくても対戦相手が見つからないことで、
行き詰まりを感じている様子だった。
「会場に行っても試合相手が見つからないのよね〜。」
悩む翔子がため息を吐いている。
そんな翔子の様子を間近で見ていた沙織が、
何かを決意したかのような雰囲気で話しかけたんだ。
「だったら…私と試合をしてみる?」
「…へ?」
「沙織?」
突然の発言に戸惑う翔子と僕だけど。
それでも沙織は言葉を続けていった。
「私もね。翔子がどれだけ成長したのか見てみたいの。」
真哉と同じように、
沙織も翔子の実力に興味があるらしい。
「それにね。翔子になら負けても悔しくないわ。」
「………。」
翔子になら負けても良いと言って微笑む沙織だけど。
その考えはどうなんだろう?
…そもそも負けても良い試合なんてないと思うんだけど。
一体、沙織は何を考えているんだろうか?
「…どうする?翔子。」
「え?あ、ま、まあ、沙織が良いなら私は良いけど…?」
「ふふっ。それじゃあ、行きましょうか。」
いつもと変わらない笑顔のままで、
戸惑う翔子に手を差し延べている。
そして沙織に手を引かれた翔子もベッドを下りて歩き出した。
…本当に試合をするのか?
手をつないだまま会場に向かう二人。
その後を追って、
僕もついていくことにしたんだ。




