苦情
《サイド:御堂龍馬》
…やっと戻ってこれた。
大体3時間ぶりかな。
寮に戻って。
お風呂や着替えを終えて。
食堂に向かって。
朝食を終えて。
再びここまで帰ってきたんだ。
…あと数分で午前9時になりそうだね。
往復したせいで普段よりも遅くなってしまったけれど。
ようやく特風会に戻ってこれた。
本日2度目の会議室。
入り口の扉を開けてみると。
会議室の中にはすでに淳弥がいた。
どうやら今は一人で仕事をしてるらしい。
「今日は一人なのかい?」
「ああ。今の所はまだ誰も来てないな。」
淳弥は眠そうに欠伸をしてから頷いてくれた。
…だとすると。
誰かが帰った後とかではなくて、
そもそも誰も来なかったということだろうね。
「遅くなってごめん。」
「いや、それはいいが、御堂にしては珍しく遅い時間だな。」
…そうだね。
一度、出直したからではあるんだけど。
敦弥は知らないだろうからね。
これまでの出来事を説明しようかな?と思ったんだけど。
その前に淳弥は時計に視線を向けてから、
もう一度僕に振り返ったんだ。
「もしかしてあれか?御堂も試合を観戦してたのか?」
…ん?
…試合?
誰の試合だろうか?
何のことか分からなくて首を傾げていると。
淳弥は小さくため息を吐いていた。
「あー。その様子だと何も知らないみたいだな。」
「…知らないって、何かあったのかい?」
「ついさっき、翔子と北条が試合をしたらしいぞ。」
…なっ!?
翔子と真哉が!?
どうして二人が試合をすることになったのか分からないけれど。
驚く僕に、淳弥は話を聞かせてくれたんだ。
「まあ、詳しい話は俺もまだ知らないんだけどな…。またまた試合場がぶっ壊れたっていう苦情が生徒会からきてるから間違いないと思うぞ。」
「試合の結果は!?」
「翔子が勝ったらしいな。現時点では北条の番号が低いから順位に変動はないが、事実上、御堂に次ぐ実力があることを証明したと言えるんじゃないか?」
…は?
…翔子が?
…真哉に?
…勝った?
その言葉が事実だとすれば。
翔子は僕の予想を遥かに越える成長を示していることになる。
…僕でさえ。
真哉を相手にすれば苦戦を強いられたからだ。
もちろん彼も無傷ではいられなかった。
真哉の実力は決して低くはない。
それなのに。
あの真哉を相手にして『翔子が勝った』という事実は驚くべき出来事だと思う。
…こうなるともう彼だけじゃない。
翔子も警戒すべき実力を持っていると考える必要があるのかもしれない。
「二人は…今どこに?」
「どうだろうな?俺も報告として聞いてるだけで、詳しい話はまだ知らないからな。ただ、結構な激戦だったらしいから、治療のために医務室にいる可能性が高いんじゃないか?」
医務室にいるかもしれない?
そんな淳弥の予想を信じて、
医務室に向かうことにした。
「出掛けて来る!」
「お、おい御堂っ!仕事はどうするんだっ?」
急いで会議室を飛び出した僕に向けて、
背後から淳弥の呼ぶ声が聞こえたけれど。
今の僕に振り返る余裕なんてなかった。
仕事よりも何よりも。
試合の事実を確認したいと思ったことで、
再び会議室を離れることにしたんだ。




