同調
悠理ちゃんと二人で抱えていた翔子先輩を、
一旦床に下ろしました。
そして翔子先輩の胸の上に手を置いてから一生懸命祈ります。
魔力が尽きた翔子先輩に魔力を送り込もうと頑張ってみたんです。
…ですが。
なかなか思うようにはいきません。
何故か魔力を送り込むことが出来ませんでした。
まるで水と油のように、
拒絶されてしまうんです。
どれだけ魔力を注ぎ込んでみても、
その全てがはじかれてしまいます。
どうすれば良いのでしょうか?
私の魔力ではダメなのでしょうか?
よくわかりません。
それでも。
「頑張れ、優奈!!」
応援してくれる悠理ちゃんに頷いてから、
もう一度試してみることにしました。
翔子先輩!!
目を覚ましてください!!
手に魔力を集めて、
何度も翔子先輩に送り込んでみます。
…ですが。
どれだけ願っても上手く行かないんです。
「どうして…っ?」
上手くできない自分が悔しくて、
落ち込んでしまって、
泣き出しそうになってしまいました。
「優奈…。」
何もできない私を見て、
悠理ちゃんも悲しそうな表情をしています。
「悠理ちゃん…。」
「うぅ~。何か他に方法が…。」
悠理ちゃんが別の方法を考えようとしたその瞬間に。
私達の背後から声が聞こえてきたんです。
「魔力が安定していないな。」
…えっ?
その声は…私が一番聞きたかった人の声でした。
「総魔さん!」
慌てて振り返る私の視線の先に、
総魔さんがいてくれました。
「供給は単純に魔力を送り込めば良いというものではないからな。」
ゆっくりと私の側に歩み寄ってくれた総魔さんは、
私の手をとってから翔子先輩の胸の上にそっとかざしました。
そして、私に教えてくれたんです。
「魔力は人ぞれぞれに異なるからな。翔子の魔力と『同調』させることを意識しなければ成功しない。」
…魔力の同調?
その意味は分かりませんが。
私の手に重なる総魔さんの手の温もりがその方法を教えてくれました。
理論を理解するよりも先に、
私の手が反応したんです。
総魔さんの導きのおかげで。
私の魔力が翔子先輩に流れていく感覚がはっきりと実感できたんです。
「…分かり…ます。」
初めての感覚でしたが、
他の誰かの魔力と同調するということの意味が理解出来たんです。
「…凄いです。」
私の体から魔力が失われていくのと同時に、
翔子先輩に魔力が戻っていくのがちゃんと感じ取れるんです。
…これが。
これが魔力の供給なんですね。
総魔さんのおかげで、
新たな技術を身につけることが出来ました。
「う…んっ…?」
意識を取り戻した翔子先輩が、
ゆっくりとまぶたを開きます。
「「翔子先輩!!」」
重なる私と悠理ちゃんの声。
私達の声に気づいた沙織先輩は、
翔子先輩の無事を確認して嬉しそうに微笑んでくれていました。
「ん?あれ…私…?」
起き上がろうとする翔子先輩を私と悠理ちゃんで支えました。
「…大丈夫ですか?」
「え、ええ。たぶん…。」
まだ意識がはっきりとしない様子ですが、
ひとまず大丈夫のようですね。
翔子先輩の無事が確認できたことで、
総魔さんはゆっくりと沙織先輩の側に歩み寄りました。
「治療に苦戦しているようだな。」
「え、ええ…。思った以上に怪我が酷くて…。」
落ち込んだ表情を見せる沙織先輩ですが、
総魔さんは特に気にした様子もないまま沙織先輩の隣に並んでから北条先輩に手をかざして魔術を発動させました。
「リ・バース」
総魔さんの手が光り輝いたと思った次の瞬間に、
北条先輩の体から全ての傷痕が消えたんです。
「…凄い…。」
一瞬で治療を終えた総魔さんに尊敬の眼差しを向ける沙織先輩ですが、
あっさりと治療を終えた総魔さんは何も言わないまま私達に背中を向けて立ち去ろうとしていました。
ですが、その前に…。
「…総…魔?」
翔子先輩が呼び掛けていました。
「ありがとう…。」
まだ意識が朦朧としている様子ですが、
お礼の言葉を聞いた総魔さんは一旦立ち止まってから背中越しに応えていました。
「良く頑張ったな、翔子。」
その一言だけを残して歩き出してしまったんです。
それでも。
それでも翔子先輩は嬉しそうでした。
「…あは…っ。」
幸せそうに微笑みながら。
再び意識を失ってしまったんです。
「「…翔子先輩!?」」
倒れた翔子先輩を見て慌ててしまった私達ですが、
沙織先輩は翔子先輩の顔を覗き込んでから微笑んでくれました。
「大丈夫よ。寝てるだけみたい。きっと疲れたんでしょうね。」
…疲れ…?
私には分かりませんが、
沙織先輩がそう言うのならきっとそうだと思います。
ほっと一息吐く私と悠理ちゃん。
気が付けばすでに総魔さんの姿は見当たりませんでした。
…どうしよう。
総魔さんを追いかけて色々とお話を聞かせていただきたいとは思うのですが。
眠りにつく翔子先輩を放っておくことはできません。
そして北条先輩もまだ目覚める様子はなさそうです。
「とりあえず移動しましょうか。」
「ぁ…はい。」
今から総魔さんを追いかけるのは難しそうなので。
会場に待機している救急班の方に協力していただいてから、
医務室に向かうために検定会場を離れることにしました。




