そよ風
私と真哉。
それぞれの両手が異なる色彩の輝きを放つ。
ホンの数秒で姿を見せるルーンに、
お互いの視線が釘付けになったわ。
真哉のルーンは見慣れた『ラングリッサー』だけどね。
私のルーンはみんなにとって初見になる『グロリアスクイーン』よ。
槍を構える真哉に向けて、
ひとまず閉じたままの扇を向けてみる。
さすがにね。
最初からアルテマを展開するつもりはないわ。
まずは力を抑えた状態で様子を見るつもりなの。
「これが私のルーンよ!」
自信を持って宣言したんだけどね〜。
「…はあ!?なんだそれは!?」
真哉は疑問を感じてるみたい。
そんな真哉と同じように、
審判として試合を見ている沙織も首を傾げているように見えたわ。
…うん。
やっぱりね。
戸惑う二人の反応を見て確信したのよ。
私の予想通り。
二人はまだ何も知らないようね。
真哉も。
沙織も。
私の力を何も知らないの。
そう判断した私は真哉に宣言しておくことにしたわ。
「最初にこれだけは言っておくわね。私の特性は融合よ。」
あらゆる魔術を自由に組み合わせられる力でもあるわ。
「だから私の魔術はただの魔術じゃないの。それだけは覚えておくことね。」
「はっ!大した自信じゃねえか!!その自信が本物かどうか俺が試してやるぜっ!!」
体勢を低く構える真哉の槍の先端が、
赤い光を帯び始める。
これはアレね。
『ボルガノン』がくるわね。
真哉と戦うのは今回が初めてじゃないから、
魔術の見分けくらいはすぐにできるのよ。
真哉の攻撃を直感的に判断した私は、
扇に魔力を送り込みながら真哉が動くのを待ち構えることにしたわ。
「見せてあげるわ!覚醒した私の本当の力をねっ!!」
「だったら俺が見定めてやるぜ!!行くぜ、翔子っ!ボルガノン!!!!」
炎を帯びた最速の一撃で襲い掛かる真哉。
…だけどね?
今の私にはね。
そもそも逃げるなんていう選択肢が必要ないの。
ホンの少し扇の角度を変えるだけ。
ただそれだけでいいの。
突撃する真哉と一歩も動かない私。
真正面から激突し合うルーンの先端。
真哉の槍が放つ強力な衝撃をものともせずに、
私の扇は真哉の突きをしっかりと受け止めてみせたわ。
「ふふん♪」
楽勝ね。
痛くも痒くもないわ。
「んな…馬鹿なっ!?」
「あれあれ~?もう終わりなの~?」
「くっ!」
動揺する真哉の表情はなかなか笑えるわね~。
…って、言ってもね?
この状況で笑い出すほど私の心は腐ってないわよ?
…お〜ほっほ!!
なんて。
馬鹿みたいな笑い方なんてしたら、
それこそ敦弥が言うように女王様風になっちゃうしね。
…むしろ。
気持ち的は正反対なの。
わりと本気でビビってるのが本音なのよ。
ひとまず初手を凌げた事実に関しては、
ちょっとした優越感を感じるけどね。
それでも試合が終わるまでは油断なんてしないわ。
だから今はね。
お互いのルーンが突き合わさる状態で動きを止めた真哉にね。
話しかけてみることにしたの。
「…ねえ、真哉?」
語りかける私の次の言葉を聞いた真哉はどう思うのかな?
「生温いわよ。まるで『そよ風』ね♪」
「…んなっ!?」
一瞬で怒りに染まる真哉の表情だけど。
私は冷静さを装いながら真哉に微笑んであげたわ。
私にはまだ余裕があるって思わせるためよ。
こうでもしないと気持ちで負けちゃうの。
そもそも一度も勝てたことがないんだから。
実力が知られていない間に精神的に優位に立っておかないと物理的に負けちゃうのよ。
「手加減なんていらないから、早めに本気を出したほうがいいわよ?」
「…ちっ!」
だいぶ良い感じに苛ついてるわね。
まあ、ここまでは予定通りの結果ではあるんだけどね。
それでもこんなに上手く行くとは思ってなかったから、
正直に言えば心の中では焦りと不安で一杯だったわ。
ドクドクと早まる鼓動。
強がっては見せても、
心はごまかせないのよ。
だけどね。
それでもね。
気持ちで負けるわけには行かないの。
最後まで強気で戦い抜くしかないから。
必死に強がりながら扇に力を込めてみる。
…さあ、反撃の時間よ。




