極限の疲労
《サイド:天城総魔》
「…す、すみません。もう…限界です。」
限界を訴える藤沢がその場に座り込んでしまった。
…そして。
「…眠い。もう、無理…です。」
これまで懸命に睡魔と闘っていた西園寺も限界の様子だ。
藤沢が座り込んでしまったことで、
ため息を吐いて眠そうに目を擦っている。
「さすがに私も…そろそろ、限界です…。」
あくびを堪えながら書類から視線を逸らす西園寺の目はどこか遠くを見ているようだ。
もはや意識が朦朧としているのかもしれない。
そんな二人を眺めていた黒柳が、
実験場をゆっくりと見渡した。
「…ふむ…。」
状況は昨日と全く同じだな。
すでに峰山と大宮は脱落している。
他の研究員もほとんど全滅状態だ。
ギリギリまで堪えていた藤沢と西園寺が脱落したことで、
今日も最後まで残ったのは俺と黒柳だけになってしまっていた。
「…やはりこうなってしまったか。」
俺に振り返る黒柳の表情を見れば分かる。
今日も実験の中断を決断したようだな。
「残念だが、今日も中断するしかないらしい。」
「ああ、そうだな。」
「何とか午前中に再開の準備を進めておくが、もしかすると昨日よりも遅くなるかもしれん。」
ため息混じりに周囲に視線を向けた黒柳の視界には、
体調不良を訴える職員達が各所で倒れている姿が見えているのだろう。
「この有様ではな…。」
大きくため息を吐いて頭を抱える黒柳の言葉を聞いて、
俺も実験室を見回してみた。
ほぼ全滅と言える職員達。
さすがにこの状況からの復帰は時間がかかるだろう。
「…すまない。」
状況は昨日と同じだなのだが、
二日目ということもあって職員達の疲労は昨日よりも重度に増している様子だ。
極限の疲労によって眠りに落ちた職員の声が各地から聞こえてくる。
まるで悪夢でも見ているかのようなうめき声だ。
明らかに昨日以上の疲労感が感じられる。
「やはり迷惑をかけているか?」
「いやいや、気にすることはない。俺達研究者にとってはこれが日常なのだからな。それに彼等も知りたいのだよ。きみの本当の実力を、な。」
俺の実力か…。
どうだろうな。
現時点では俺自身にも分からない。
「研究者なら誰しも『知識欲』というものがある。何かを知りたいという気持ちで研究し、動いている。俺達はそうやって生きているのだ。だから気にすることはない。今この実験に疲れる者はいても、不満を口にする者はいない。そういうものだ。だからきみが気にする理由は何もない。」
黒柳は気にするなと言ってから、
これまでの実験で積み上げられた書類に視線を向けていた。
「調べるべきことはほぼ調べ終えた。あとは検証を重ねるだけだ。職員も少しはゆっくり出来るだろう。だから今は次の実験に備えて、きみも少し休んだ方がいい。」
「…ああ、そうだな。」
黒柳の言葉には優しさが込められているように感じられる。
こういった思慮深い所が、
黒柳が所長として任されている大きな要因なのかもしれないな。
「…と言うことで、だ。藤沢君も西園寺君も良いか?」
黒柳の言葉に無言で頷く二人は『実験の中断』にそれぞれ同意した。
そして最後の気力を振り絞りながらふらふらと実験室を出て行く。
そんな二人の後ろ姿を見送ってから、
黒柳に尋ねてみることにした。
「実験再開は何時頃の予定だ?」
「おそらく昼は過ぎるだろう。職員次第だが当分目覚めないだろうからな。昼頃に目覚めたとして、再開の準備が整うのは早くても2時か3時…まあその辺りだろうな。」
「分かった。2時以降にまた来る。」
「ああ、それまでには準備を整えておこう。」
黒柳と軽く挨拶を交わしてたあとで、
俺も実験場を出ることにした。




