追われる理由
…はぁ。
今回は北条先輩が助けてくれたからこの程度ですみましたが、
もしも北条先輩がいなかったらどうなっていたのでしょうか?
私は何も出来ませんでしたし、
悠理ちゃんも抵抗できませんでした。
次にまたこういうことがあった場合。
私達は何が出来るのでしょうか?
漠然とした不安を感じて戸惑う私と呆然と立ち尽くす悠理ちゃん。
そんな私達を見ていた北条先輩が声をかけてくれました。
「お前ら、大丈夫か?」
「…え?あっ、は、はい。多分…大丈夫、です…。」
曖昧に答える悠理ちゃんでしたが
ひとまず助かったことで気持ちを切り替えたようですね。
ほっと安堵の息を吐きながら北条先輩と向き合っていました。
「あの…ありがとうございます。助かりました。本当にありがとうございました。」
「ああ、いや、それはまあいいんだが、何があったんだ?」
何度もお礼を言う悠理ちゃんを見て、
北条先輩が事情を尋ねてくれました。
「え~っと、その…。何て言うか、変質者に追われてると言うか何と言うか…まあ、そんな感じです。」
変質者?
言われてみればそんなふうに見えなくもないですね。
無理やり悠理ちゃんを抱きしめようとしていましたし。
私達の話を聞いてくれるようには見えませんでしたので、
単に仲が悪いとかそんなふうには思えませんでした。
どうしてそうなってしまったのかが、
わからないままですけど…。
悠理ちゃんが困ってるというのはものすごく伝わってきます。
「言いたいことは何となく分かるが、どうして追われてるんだ?」
「そ、それは…。」
もう一度質問されたことで、
悠理ちゃんは言葉を整理しながら説明してくれました。
「あんまり、思い出したくないんだけどね…。」
できれば思い出したくもないと言ってから、
悠理ちゃんは彼の話を始めてくれたんです。
「あの馬鹿の名前は鎌田俊雄だったと思います。」
私や総魔さん達と別行動をとるようになってから試合をした対戦相手の一人だそうです。
「私が何を言っても話を聞かないし、変になれなれしいし、とにかく気持ち悪くて関わりたくないんですけど…。」
向こうは悠理ちゃんのことが気に入ったみたいで、
試合をした日以降もずっと目をつけられていたそうです。
「できる限り出会わないように気をつけてはいたんですけど、さすがに今回は近すぎたというかなんというか…。」
逃げるのが間に合わなかったようですね。
言葉を途切れさせた悠理ちゃんは深々と溜息を吐いていました。
その姿を見て私もため息を吐いてしまいます。
今まで何も気づかなかったからです。
ずっと一緒にいたのに、
悠理ちゃんの苦労に気づいていませんでした。
ですが悠理ちゃんは今日以外も彼から逃げていたそうです。
その事実を知ったことで、
北条先輩もため息を吐きながら彼が逃げて行った方向へと視線を向けました。
「…ったく。そうなるとこのまま放置はできねえな。」
呆れ顔の北条先輩に続いて、
悠理ちゃんも頭を抱えながら深々とため息を吐いています。
「出来れば2度と会いたくないです…。」
心の底から吐き出すようかの言葉でした。
ですがその気持ちは私にも分かります。
悠理ちゃんを無理矢理連れ去ろうとしたあの態度を見て、
彼の弁護をする気にはなれないからです。
出来ればもう二度と悠理ちゃんには近付かないでほしいと思います。
そんなふうに思いながら、
私もため息を吐いていると…。
「あれ、真哉じゃないか?」
不意に聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「深海さんと悠理も一緒のようだけど、こんなところでどうしたんだい?」
気さくに話しかけてくれたのは御堂先輩です。
「ああ、龍馬か。ちょっと色々あってな。」
北条先輩は静かに御堂先輩に歩み寄って、
小声で話しかけました。
話の内容は聞こえませんが、
おそらく今の出来事を説明しているんだと思います。
「…ってことだ。」
「へー。そんなことがあったんだ?」
北条先輩から説明を聞き終えた御堂先輩が落ち込んだ様子の悠理ちゃんに歩み寄りました。
「事情は聞いたよ。大丈夫。あとのことは僕達に任せておいて。」
悠理ちゃんを励ますために声をかけてくれた御堂先輩の笑顔を見て元気が出たのでしょうか。
「あ…はい!」
悠理ちゃんも笑顔を見せながら頷いていました。
「ありがとうございます!」
「うん。大丈夫。もう二度と彼を悠理には近付けさせないからね。」
え?
もう二度と?
…えっと。
二度と近づけさせないというのはどういう意味でしょうか?
御堂先輩はどうするつもりなのでしょうか?
先輩達が何を考えているのかは分かりませんが、
悠理ちゃんは御堂先輩の言葉を信じることにしたようです。
とても嬉しそうな笑顔でした。
「あ、ありがとうございます!」
「ははっ。お礼はまだいいよ。それよりも怪我はないかい?」
御堂先輩に尋ねられたことで、
悠理ちゃんは私に視線を向けました。
「えっと、その…優奈が…。」
「深海さん?」
私の名前を聞いたことで、
御堂先輩は私に歩み寄ってくれました。
そして、私の頬を見てくれたんです。
「あ~。殴られたんだね。」
唇の端が切れていることに気付いてくれた御堂先輩は、
ポケットに入れていたハンカチを私の口元に当ててから回復魔術を詠唱してくれました。




