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THE WORLD  作者: SEASONS
4月10日
432/1318

甘党

《サイド:美袋翔子》



…着いちゃったわね。



色々と思うことがあってね。


目的地に着いちゃったんだけど。



治癒魔術研究室と書かれた扉の前で、

一度だけ深呼吸をしてみたわ。



…ふぅ〜。



ちょっぴり緊張しちゃうからなんだけどね。



実はここに来るのって初めてなのよ。



別に立ち入り禁止っていうわけじゃないんだけど。


普段行かない場所に行くのって緊張するのよね〜。



…でもね?


…だけどね?



行ってみないことには話が始まらないし。


呼びかけずに放っておくと、

延々と出てこない気がするの。



沙織もそうだけど。


とくに総魔が、ね。



まあ、確証はないんだけど。


それでも間違いなく、

二人共ここにいると思って研究室までやってきたのよ。



…す~、は~。



気持ちを落ち着けてから『コンコン』と静かにノックをしてみる。



これで返事がなかったら困っちゃうんだけど。


思っていたよりもすぐに扉が開かれたわ。



もしかして、たまたま近くにいたのかな?



即座に開かれた扉の向こう側に沙織がいてくれたのよ。



「あら?翔子、ここまで来るのは珍しいわね。」



驚きながらも沙織は私を中へと案内してくれたわ。



「どうぞ、入っていいわよ。」


「えっと…やっぱりお邪魔だったかな?」



控えめに尋ねてみるけれど。



「ふふっ。大丈夫よ。」



沙織は笑顔を浮かべたまま、

私の手をとって優しく手を繋いでくれたわ。



「案内するわね。」


「う、うん。ごめんね。お邪魔します。」



挨拶しながら研究室を進んでみる。


沢山の人達が仕事をしてる姿が見えるわ。


こういう職場って普通に緊張するわよね?



職員室とかもそうだけど。


場違い感がすごいのよ。



だけど。



肝心の総魔の姿は…わりとすぐに見つかったわ。



まだ作業中なのかな?



真剣な表情で資料に向き合う総魔は何となく声をかけづらい雰囲気だったわ。



「やっぱりお邪魔だったかな~」



来ないほうがよかったかな?


なんて思ったけれど。


沙織は総魔がいる席まで案内してくれたわ。



その結果。


総魔の正面に着いちゃったことで、

ゆっくりと顔を上げた総魔と思いっきり目が合っちゃったのよ。



…うあ…っ。



これはちょっとどころじゃなく緊張するわね。



知らない場所に入るよりも、

総魔と向き合うことに緊張してしまったのよ。



「…や、やっほ~。総魔、調子はどう?」



ちょっと声が震えちゃったけど。


総魔は気にしてないみたいね。



あっさりと聞き流して逆に質問してきたわ。



「翔子もここには良く来るのか?」


「えっ?あっ、わ、私?私は、その、違うわよ。滅多に来ない、というか初めて来たんだけど、何となく、今日は…」



総魔がいると思ったから、なんて言えないわよね。



恥ずかしいっていうこともあるけど。


それ以前に、そんな理由で沙織の職場に乱入したなんて言えないわ。



「た、たまたま近くを通り掛かったから…っ!」



そんな適当な言い訳が精一杯だったのよ。


だけどそれでも総魔は納得してくれたみたい。



「…そうか。」



あっさりと話を終えたのよ。



…と言うか。



追求する気がないのかな?



どっちか分からないけど。


特に何も言わずに資料に視線を戻しちゃったわ。



う~ん。


これはこれでどうなのかな?



なんて言うかこう、私に対して興味がないっていう雰囲気をひしひしと感じちゃうのよね~。



もっと思い切って攻めるべきなのかな?



でも、ね~。



失敗したら絶望的な感じになるわよね?



どうするのが正解なのかな~?



総魔に相手にしてもらえないまま。


どう話しかけようか悩んでいたら、

不意に沙織が話しかけてきたわ。



「はい、どうぞ。」



声をかけられたことで振り向いてみる。



…わざわざ用意してくれたのかな?



すぐ隣でオレンジジュースを差し出してくれていたのよ。



「…あ、ありがとう。」



オレンジジュースを受けとってすぐに一口飲み込んでみる。



………。………。………。


………。………。


………。



え?



なにこれ?


オレンジジュース…よね?



そのはずよね?



だけど。


何かがおかしいわよね?



なんて言うのかな?



この微妙な味は絶対に何かが混ざってるはずなのよ。



だってね。



尋常じゃなく『甘い』の。



一体、どれだけの砂糖を混ぜたらこうなるの?っていうくらいの甘さ。



さすがにこれは甘党の私でも飲めないわ。



「…ね、ねえ?沙織って甘いのが好きだったっけ?」



そんな記憶はないのにな~?なんて思いながら尋ねてみると。



「…違うわ。」



沙織は苦笑しながら答えてくれたのよ。



「これは私の好みとかじゃなくて、神崎さんが用意してくれた物なの。」



…あ。


…あぁ~。



なるほどね。


苦笑いを浮かべる沙織を見てすぐに思い出したわ。



確か神崎さんってびっくりするぐらい甘党なんだっけ?


沙織から噂を聞いた程度の微かな記憶でかろうじて覚えていたけど…。



まさかここまでとは思っていなかったわ。



「よ、予想以上の甘党だったみたいね…。」


「…え、ええ、そうでしょうね。」



断りきれずに受け取ってしまった沙織も、

オレンジジュースを手にしてちょっぴり辛そうな表情で飲み続けてる。



これって…ある意味、罰ゲームじゃない?



好きな人は好きでしょうけど。


苦手な人には拷問だと思うからよ。



「甘さもここまでくると頭痛を感じるわね。」


「…そ、そうね。ちょっと、きついわね…。」



本当なら断りたいんだろうな~って思うわ。



でもね?


立場上断れないんだろうな~とも思うのよ。



う~ん。


沙織も意外なところで苦労してるのね~。



「まずくはないんだけどね〜。でも、これってどうなの?」


「神崎所長は糖分の補給が大事だって言ってたわ。確かに必要な栄養素だとは思うけれど…。」



まあ、ね。



必要なのは分かるけど。


過剰摂取は逆効果よね?



糖分がどうこう以前に、

これだけ甘いジュースを毎日飲み続けていたらいつかきっと病気になると思うわ。



…糖尿病?だっけ?



知り合いにそういう人はいないけど。


これは結構危険だと思うのよ。



…って言うか。



ただでさえ毎日のように沙織の家でケーキを食べてるのに、

これ以上の糖分は丁重にお断りしたいところなのよね〜。



少なくとも太った姿を総魔に見せるようなぶざまな醜態を晒すのだけは絶対に嫌よ!!



そんな未来は想像さえしたくないわ!



総魔にはね。


綺麗とか可愛いとか思ってもらいたいから、

太るのは絶対に嫌っ!!



…なんてね。



心の中では全力で思えるんだけど。



お邪魔してる立場を考えたら飲めないとは言えないわよね。



…う~ん。



仕方ないかな。



本当は飲みたくないけど。


沙織だって我慢してるんだし。


ここは嫌でも飲むしか選択肢はないわね。



「す~は~」



思いっきり深呼吸をしてから一気にオレンジジュースを飲み干してみる。



その結果。



尋常じゃないくらいの胸焼けを感じたけれど。


今はそんなことよりも大事なことが…っ!!



あとで…!!


あとでダイエットをするわっ!!



心の中で決意しながらね。


肝心の目的のために、

沙織に話しかけることにしたのよ。



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