場違いな雰囲気
およそ2時間ぶりに訪れた試合場。
今回はBー3だ。
試合場に到着してしばらくすると、
今回の対戦相手である工藤美弥子もやってきた。
「えっと…あなたが挑戦者なの?」
俺の番号を確認したことで少し驚いた様子を見せてはいたが、
特に追求する気はないのだろう。
感情を見せずに静かにこちらを眺めている。
「…まあ、誰が相手でも構わないけどね。」
興味すらないといった態度だ。
実際に何を考えているかは知らないが、
番号が離れすぎているせいで敵意を感じることすらなかったのかもしれない。
こちらを見下しはしなかったが、
美春のような友好的な態度も感じられなかった。
おそらくは格下とすら思われていないだろう。
完全に場違いな生徒を相手に義務で応じているという雰囲気が感じられる。
そしてそれは周りも同じだ。
他の生徒達も俺に興味はないらしく、
審判員ですら同じような雰囲気だった。
…時間の無駄だと思われているかもしれないな。
無謀な挑戦ですらなく、
ただの雑事だと思われている雰囲気さえある。
だから、と言うわけではないだろうが。
これから始まる試合に視線を向ける者はごく小数でしかない。
俺をここに案内した翔子と、
たまたま通りかかった通行人程度だ。
…完全に場違いな雰囲気だな。
これまでもそうだったが、
ここで感じる雰囲気は今まで以上に冷え切っている。
…会場を一つ飛ばした結果だな。
だからこそ言えることがある。
どうやらここにはまだ『噂が広がっていない』ということだ。
ざっと見た限り。
誰も俺を見ていない。
つまり。
誰も俺を知らないということだ。
この会場までは噂が流れてきてない。
その結果として。
場違いな挑戦者という扱いのように感じられた。
…この状況はむしろ好都合だな。
周りがどう思おうと興味はないが、
互いに手の内がわからない状況の方が相手も真剣になれるだろう。
これまでと同様に中途半端な噂で判断されてばかりでは面白くはないからな。
何も知らないのなら、
そのほうが都合がいい。
予備知識がない状況でどういう対応をとるかを見るほうが、
より価値のある実験結果になるはずだ。
…まずは最上位一歩手前の実力を見せてもらおうか。
上位陣の実力に期待しながら、
いつもと同じように試合場に足を踏み入れる。
その間。
美弥子はどう話しかけるか迷っているような複雑な表情を見せていたが結局一言も話さないまま試合場に立った。
おそらく無理に話しかける必要はないと判断したのだろう。
「………。」
お互いに何も話さない。
そんな二人の準備が整った事を確認した審判員が中心に立って試合開始を宣言する。
「それでは…試合、始めっ!」
「頑張れ~!総魔~!」
やる気の感じられない審判員の合図に反して翔子は大声で叫んでいた。
今回も声援は聞こえているのだが当然のように無視しておく。
…まずは圧縮魔術の展開だな。
「エクスカリバー!!」
掛け声と共に突き出した両手から数千に及ぶ風の刃が飛び出す。
「え…っ!?うそっ!!圧縮魔術!?」
ただの格下だと思っていたからだろう。
こちらの先制攻撃を見た美弥子の表情に驚愕の色が浮かんだ。
「…ちょっ!もう、間に合わない!?」
直撃を避けるために必死に回避しようとしていたが、
攻撃範囲からは逃れられていなかった。
上手く逃げ切れずに衝撃の余波を受けてしまい、
大きく後方へと弾き飛ばされてしまっている。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…っ!!」
周囲に響き渡るほどの悲鳴を上げながら試合場を転がる。
そして数メートルの距離を吹き飛ばされてからぴたりと動きを止めた。
いや、正確に言うなら試合場を包み込む防御結界に遮られて強制的に止められたというべきか。
「っ…うっ…!!」
痛む体をふらつかせながらも必死に立ち上がろうとしているが、
すでにまともに動けるようには見えない。
…それでも倒しきれなかったか。
試合場を包み込む結界を壁代わりにしながら立ち上がる美弥子の様子を眺めながら、
静かにため息を吐いてしまう。
…やはり、この程度だったな。
予想していた通りの結果になってしまったからだ。
…と、言っても。
それは美弥子に対してではない。
圧縮魔術に対してだ。
失望ともいえる感情が沸き起こる。
圧縮魔術の有用性に疑問を感じたからだ。
詠唱を短縮できるという点だけは価値を感じるが、
詠唱時間を短縮したところでそれだけでしかない。
不意打ちとしては使えるかもしれないが、
通常の速度で放たれる魔術は回避が可能だからな。
もしも相手の魔術が追いつけば相殺も可能になるはずだ。
もちろん圧縮する魔術によって結果は様々に変わっていくだろう。
だが、どんな魔術を使用したとしてもおおよそ似たような結果になるはず。
…予想はしていたが。
やはり圧縮魔術のみでは有効的な効果は期待出来なかった。
さらに踏み込んで考えるなら、
他にも圧縮魔術の使い手はいるはずだからな。
この程度の能力では頂点を目指せないだろう。
たった一度の実験。
一度だけ圧縮魔術を使ったのだが、
それだけで圧縮魔術の欠点を実感してしまった。
だからこそ言える。
俺としては不満の残る攻撃でしかなった。
圧縮魔術そのものの価値は低い。
欠点が利点を上回る状況は限られるからだ。
…やはり使い方を考える必要があるな。
圧縮魔術の運用方法。
その価値を考えながら周囲を見回してみると。
少し離れた場所にいる翔子は、
美弥子と同様に驚愕の表情を見せていた。




