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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
40/185

魔術師の国で

《サイド:米倉美由紀》



…うう~ん。



これはまずいわね。


完全に想定外としか言いようがない事態になってしまっているわ。



一応ね。


当初の予定ではね。


もしも天城総魔が危険な人物だと判断された場合。


早急に翔子に対処してもらうつもりでいたのよ。



天城総魔が本性を現す前に。


不必要に成長してしまう前に。


排除するつもりでいたの。



…それなのに。



肝心の翔子がすでに戦意を失いつつあるのよ。


戦う前から、いえ、それ以前の段階で心が負けてしまっているの。



これでは彼に対する抑止力としての意味がなくなってしまったわ。



…こうなるとすぐにでも別の手を考える必要があるんだけど。



「それなら最悪は…一対一で勝ち目がなくても『貴方達』ならなんとかなる。そうでしょう?」


「それは…どう、でしょうか。」



期待を込めて問いかけてみたけれど。


翔子は首を左右に振ってしまったわ。



「吸収の能力がある限り数は力になりません。それに何より『彼』が多対一を認めませんから。」



…うぅ。



そう言えばそうだったわね。


翔子の回答は正論よ。


そのせいで更に唇を噛み締める結果になってしまったわ。



…確かに翔子の言う通りなのよ。



こちらの切り札である『彼』は、

いじめまがいのやり方には賛同しないわ。



正々堂々と戦う事を望む『彼』に、

多対一の戦いを強制するのは難しいのよ。


その事実によって私の期待はあっさりと砕かれてしまったわ。



「だったら、どうするべきかしら?」


「信じるしかありません。」



私は悩んでいるのに。


翔子は笑顔を浮かべていたわ。



「天城総魔は敵ではない、と。」



そうね。


それが出来れば苦労はしないわ。


だけどね。


今はそんな話をしてるわけじゃないの。



「…私はね。信じて裏切られた場合を考えているのよ?」


「だからそうならないと信じればいいんです。少なくとも私は彼を信じてあげてもいいと思っていますよ。まあ、ホンの数時間ほど一緒に行動しただけなので、彼の本心までは分からないですけどね。」



それは矛盾だらけじゃないかしら?


何一つ解決していないのよ?



「分からないのに信じるの?」


「最初から疑っていたら、向こうだって心を開いてくれませんから」



それは、まあ。


そうなんだけど。



『疑う前に信じること』


その前提を宣言する翔子の笑顔に嘘偽りは感じられないわ。


本気で本当に信じているということよ。



…いつ見ても思うけど。



「翔子はお気楽ね。」


「それが私の取り柄ですから。」



…知ってるわ。



だから翔子に今回の役目をお願いしたのよ。


誰とでも気軽に接することのできる翔子だから、

天城総魔の監視を任せたの。


下手に敵対せずに上手く友好関係を築いてくれると期待していたから任せたのよ。



だけどこうなってしまうと失敗だったとしか思えないわ。


仲良くなるのは構わないけれど、

信用しすぎるのは困るのよ。



「翔子はもう少し緊張感を持ったほうがいいんじゃないかしら?」


「そうですか?それなりに持ってるとは思うんですけど」



…本当にそうかしら?



とてもそうは思えないわ。


とはいえ。


本人に自覚がないのなら、

これ以上は何を言っても無駄ね。



「まあ、翔子の気持ちはいいんだけど、彼に対してはもう少し慎重に行動したほうがいいんじゃないかしら?」


「影でこそこそするのって苦手なんですよね~。っていうか、そういうのが『得意な生徒』って他にいますよね?」


「ええ…まあ、ね。」



それはそうなんだけど。


人選を変えてしまったら失敗する未来しか見えないのよ。


少なくとも、新入生相手に好意的に接することのできる人材なんてそれほど多くはないわ。


誰だって自分のほうが優れてると思うのが普通なんだから。


その壁を感じさせない人柄を持つ人材なんて翔子以外思い浮かばないのよ。



「それこそ彼と対立しかねないから難しいわね。」


「理事長は考えすぎなんですよ。」


「常に最悪を考えるのが私の仕事なのよ」


「大変ですね~。」


「…他人事みたいに言わないで」


「他人事なんですけど?」



…はあ。



気楽に答える翔子の言葉を聞いて、

ただただため息を繰り返してしまったわ。



本当にもう別の方法を考えないといけないみたい。



…どうしたものかしらね。



言葉に悩みながら翔子の顔を見つめてみる。



「どうかしましたか?」



翔子はまるで危機感を感じていないようなお気楽な表情で笑ってる。


ここまで危機感がないと真剣に考えるのが馬鹿馬鹿しくなってくるわ。



…もう少し様子を見るべきかしら?



ついつい気持ちを緩めそうになってしまうけれど。



…ダメよ。厄介ごとをどうにかするのが私の仕事なんだから。



すぐに自分の立場を思い直して、

軽く首を振ってから気持ちを落ち着けることにしたわ。



「…まあ、いいわ。あとの事はこっちで何とかしておくから、翔子は引き続き彼の調査を続けてくれる?」


「は~い」



笑顔で返事をした翔子は足早に部屋から出て行ったわ。



…本当に大丈夫かしら?



ちゃんと分かっているのかどうか不安に感じてしまうわね。



それでも他に適任と思える人材がいないのよ。




…本気で諜報部隊を動かすわけにはいかないし。



一生徒相手に大人げない、と思わなくもないし。


そもそもの大前提として敵対しないように配慮する必要があるのよ。


彼がこちら寄りになってくれるかどうかはともかく、

下手に刺激して敵対関係にならないようにするのが現状の方針なんだから。



そうなると職務に忠実な部隊に友好的な対応というのは期待できないわ。


最悪、面倒だから排除しようと考えてもおかしくないのよ。



…必要であれば躊躇するつもりはないけれど。



だけどそれは最後の手段よ。


今はまだその判断は早すぎる。



この国の代表としては未知の能力が成長する前に排除することが最善だとは思うけれど。


どうにかして味方に取り込むことこそが最高の結果のはずなのよ。



そう思うからこそ、

力業で行くわけにはいかないの。



だからと言って、ただただ友好的な人材を派遣しても情報収集ができるとは限らないわ。



…そもそもまじめな人間ほど諜報活動には向いてないのよ。



スジを通そうとして、正面から話し合いに行く姿が思い浮かんでしまうから。



…それで解決するなら話が早いんだけど。



翔子にさえ心を開かない相手なのに、

話し合いで解決できる気がしないわよね。



…現状では手詰まり。



お気楽な表情で立ち去ってしまった翔子を見送ってからもため息を吐いてしまったわ。



…祈るような心境ってこういう状況で言うのかしら?



ソファーから立ち上がって大きく背を伸ばしてみる。


そしてもう一度、天城総魔に関して考えてみたわ。



…もしも。



もしも天城総魔が本当に安全な人物だったなら?


悩む必要は何もないわね。



…ないんだけれど。



だけどもしも万が一にも危険人物であれば?



それは学園のみならず、

この国の存亡そのものにも影響を与えかねないと思っているのよ。



国内最大級の学園においても圧倒的な結果を見せ続ける天城総魔。


彼を世に解き放ったとなれば、

善悪を問わず何らかの影響が巻き起こるのは間違いないわ。



もしも善であれば。


学園の評判が上がって、

自然と私の評価も上がるかもしれないけれど。


もしも悪であれば。


それはこの学園だけではなくて、

この国全土を脅かす存在になりかねないのよ。



…魔力の吸収という能力が厄介すぎるから。



対魔術師戦において無敵ともいえる能力。



その能力が悪用されて、

国内で問題を起こされてしまった場合。


事実上、彼を止める手段が存在しないことになってしまうわ。



物理的な手段なら対抗できるかもしれないけれど、

魔術師の国で魔術が戦力にならないという事態は決して見過ごせる話じゃないわよね?



そもそも物理的な手段と言っても、

向こうは魔術を使いたい放題なんだから接近すること自体が難しいのよ。


結界に触れただけで魔力が奪われてしまうという事実を考えれば、

直接殴りかかることも武器を持って戦いを挑むことさえ難しいから。



最善策として弓矢による長距離射撃が唯一有効的な攻撃方法かもしれないけれど。


その程度の攻撃では防御されたらそれまで。


確実に効果があるとは言えない作戦になってしまうでしょうね。



…最終的には暗殺しかない、のよね。



この国が魔術師の為の国だとしても、

手におえない魔術師を野放しにはできないから。


国の頂点に立つ者として管理できない力は害悪でしかないから。



だからこそ。


いかに天城総魔を味方として取り込むかが最大の焦点になっているの。



だけど現時点ではそれが最大の難問なのよ。



うまく翔子の説得が通じればいいけれど。


当初の期待はすでに崩壊してしまっているわ。


現状は翔子が天城総魔に協力しかねない危険な状況になってしまっているのよ。



…まあ、翔子が裏切ることはないって信じているけれど。



彼が野放しになるのは困るのよね。


何かの問題が起きたときに私が責任を負うだけで済むのならまだいいわ。


だけど最悪の場合。


対立している隣国から攻め込まれる大義名分を与えかねないのよ。



いつ戦争が起きてもおかしくない微妙な関係の隣国との戦争。


その可能性を避けて現状を維持する為にも。


魔術師の評判を下げる行為は極力避けるようにしなければいけないわ。



戦争だけは絶対に許されない。


歴代の代表者達の努力を無駄にするわけには行かないから。



「さてさて、これからどうするべきかしら?」



今はまだ絶望するような状況ではないはずよ。


けれど希望を持てる状況でもないわね。



早々に天城総魔を暗殺できれば面倒事は消えるけれど。


もしも暗殺に失敗した場合、

彼とは確実に敵対関係になってしまうわ。



…さすがに危険すぎる。



最善は説得。


時点で交渉。


暗殺は最後の手段よ。



年下で一生徒でしかない天城総魔にそこまで気を使う必要があるかどうかさえ現時点では不明だけど。


吸収という能力を確認した以上は何らかの対策を考えなければいけないわ。



例えわずかな可能性であったとしても。


なんとか望みを残すために。


彼に対する新たな抑止力の準備を考える必要があるのよ。



「頼むわよ、天城総魔。これでもあなたには期待してるんだから…」



彼の存在は面倒ごとばかりじゃないわ。


上手く進めば利益のほうが大きいの。



「…大丈夫。交渉は私の得意分野よ。」



密かに進めている『とある計画』を進めるためにも彼の協力は必要になる。



「絶対に引き入れて見せるわ。」



そのために。


次の作戦を考えることにしたのよ。

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