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THE WORLD  作者: SEASONS
第1部 <A Love Story> : Prologue
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入学式

学園の正門から最も近い場所に建つ会場。


入学式のために解放されている式典会場は、

私が来た時にはすでに新入生1024名と数多くの保護者や手の空いている教員の過半数が集まっていたわ。



この辺りまではまあ、例年通りと言えるわね。


特に気になることもなかったわ。



午前9時から始まった入学式。



開始からすでに30分近く経過しているけれど。


今のところ特に変わった出来事は起きてないわね。



去年とほぼ同じ流れだから、

平穏そのものって感じかしら。



新入生達の誰もが緊張した様子で静かに話を聞いているわ。


現状を説明するなら生徒指導部主任の磯部隆志いそべたかしが学園の方針と校則に関して時間を気にすることなく延々と説明しているところよ。



…この辺りの流れに関してはどこの学校も同じなのかしら?



入学式の説明は長いのよね。



生徒達にとっては初めての話だから良いでしょうけど。


毎年同じ話を聞かされる参列者側はさすがに飽きてるんじゃないかしら?



私としても実際にこの学園で入学式を経験したことがあるし、

参列側としても今日が二回目だからすでに聞き飽きた感があるわ。



今日で3回目なのよ。



出来ることなら違う話を聞きたいと思うけれど。


普通の学校と違って説明しなければいけない事前情報が非常に多いから、

ひたすら時間がかかるのは仕方がないわね。



…だけど、どうなのかしら?



去年も思ったことだけど。


大人しく話を聞いてる新入生達があまりにも静かすぎるから、

全員寝てるんじゃない?って疑ってしまうほどなのよ。



そもそも私語を慎むべき場所だから普通に雑談されても困るんだけど。


それでも静かすぎるっていうのも変な感じがするわ。



さすがに目を開けたままで寝てる…なんてことはないはず…よね?


そんなくだらない事を考えながら、

何気なく新入生達の様子を眺めてみる。



…う~ん。



思うことはただ一つ。


いえ、実際にはいくつもあるんだけど。


とりあえず言いたいことは一つかしら。



…うん。



これは、まあ、あれよね。


実際に寝てしまっている生徒達が…………結構いるわ。



…うう~ん。



良い度胸というべきか、府抜けてるというべきか。


決して誉められる状況ではないわよね?



個人的には問題ありありだと思うわ。



…でもね~。



この入学式で行う説明の内容は全て生徒手帳にも記されているから、

実は今ここで話を聞いていなくても特に問題がなかったりするのよ。


その気になればいつでも調べることができるからあとで困ることはないの。



…とはいえ。



はっきり言って好感は持てないわよね。



私は教師じゃないけど。


それでも一教師としての意見を言わせてもらうなら、

ちゃんと話を聞く子と聞かない子がいたらどう考えても話を聞く子のほうが可愛いわ。



だから寝ちゃってる生徒は好きになれないのよ。



本来なら起こすべきだとは思うんだけど、

最終的には自分の身に関わることだからその辺りは自己責任かしら。



真面目に話を聞いてる生徒達の緊張感を壊すのもどうかと思うし、

わざわざ式を中断してまで新入生達を注意する気にもならないし。



良識ある大人としてビシッと言い聞かせるのも大事だとは思うけどね。


そんなことよりも私は私で着々と襲いかかってくる睡魔と戦うことが重要なのよ。



…って、私も他人のことは言えないわね。



こっそりあくびを堪えながら出番を待つことに集中してみる。



…だけどね。



眠い時は眠いのよ。


むしろ寝ないように頑張ろうと思えば思うほど眠くなってくるの。



どうあがいても睡魔には勝てないわ。



誰だってそうでしょ?


気合ではどうにも出来ないことってあるわよね?



油断したら今すぐにでも眠れると思う。



…って。



ここで眠ってしまうと理事長としての威厳が地に落ちてしまうから駄目よ。



それだけは避けなければいけないわ。


単純に格好悪いし、

他の教員にまで迷惑をかけちゃうしね。



だから絶対に寝ないって心の中で誓いつつ、

良くも悪くも順調に進んでいく入学式の様子を静かに眺め続けてる。



…うんうん。



ちゃんとね。


催眠術と思えるくらい眠気を誘う説明も聞き続けているのよ。



…これはもう、アレよね?



早く寝なさいっていう意味よね?


わざと話を引き伸ばしてるのよね?


そう思えてしまうほど、

説明に終わりが見えないのよ。



…わりと本気でもう無理かも?



とりあえずこのまま寝れる自信があるわ。



本当はダメなんだけど。


やっちゃいけないんだけど。


話を聞いているふりをして、そっと目を閉じてみる。



そして『おやすみなさい…』なんて思い始めたところで、

誰かが近づいてくる気配を感じたわ。



…と言っても。



私に、ではなくて隣が目的のようね。


隣の席に座っている学園長の近藤誠治こんどうせいじに一人の教師が歩みよってきたのよ。



眠気覚ましに視線を向けてみると、

学園長の耳元に顔を寄せて小声で何かを話していたわ。



…ん~?



何の話かしら?



式の最中なのに内緒話なんて珍しいわね。


普段ならありえない行動なのよ。


居眠りをしている生徒達に匹敵するほど礼儀に反する行為じゃないかしら?



式典の進行には何の支障もないけれど、

さすがに一生懸命演説している彼に同情してしまうわ。



だって、生徒達にも学園長にも、

ついでに言えば私にも見向きさえしてもらえないのよ?



この状況は学年主任が哀れに思えるわよね。



だけどまあ、それはそれとして。


何があったのかは気になるわ。



どこかで緊急の問題でも起きたのかしら?



急いで報告しなければいけないような内容なんて…?



うん。


全く心当たりがないわ。



だとしたら突発的な何かかしら?



もしもそうだとすると推測のしようもないんだけど。


よほどの問題でもない限り、

こういう状況はあり得ないはずなのよ。



少なくとも去年の入学式でこういう行動はなかったから。



だから、ちょっと気になるのよね。


何を話しているのかしら?



こっそり聞き耳を立ててみるけれど。


ボソボソと小さな声で話しているせいで会話の内容は聞き取れなかったわ。



もしかして聞かれて困るような内容なのかしら?



だとしたらそんな重要な会話を今ここでする必要はないと思うけど、

こういうのって聞こえないと余計に気になるのよね。



知ることに意味があるかないかは別として、

聞きたくなるのが人の性だと思うのよ。



いっそのこと、直接聞いてみる?



あるいは共和国代表の権力を行使して強制的に話をさせるという方法もあるわね。



だけど生徒達が大人しくしてる時に場を乱すのは良くないし、

立場的な問題もそうだけど雰囲気を乱すのは趣味じゃないわ。



だから隣の会話を気にするのは諦めることにしたの。



気になるけど、気にしない。



そんなふうに思いながら、

ただただ一人寂しく職務を全うしている学年主任を眺めていたんだけど。


その間も学園長に話しかけていた教師は何かを取り出していたわ。



「…こちらになります。」



何らかの書類を手渡したあとで、

目立たないようにそそくさと去っていったのよ。



どうやら報告は終わったようね。



だけどそんなことよりも気になることが増えてしまったわ。



…う~ん。



書類ねぇ。


何の書類かしら?



気になるけど、覗き見るのは趣味じゃないからしないわよ。



見るなら見るで、堂々と手に取るわ。



だから書類は一旦気付かったことにして、

立ち去る教師の後ろ姿を見送っただけで

あまり気にしないようにしていたんだけど。


受け取った書類に目を通した学園長は何故か楽しそうに微笑んでいたわ。


そして唐突に私に話しかけてきたのよ。



「…理事長、少々お時間よろしいですか?」


「ええ、いいけど、手短にね。」



なんて強がってみるけれど、

本当は興味津々だったりするわ。


だけど表面上はどうでもいいという雰囲気を忘れないのが大事なのよ。


ささやかな駆け引きだけどね。


それが大人の対応というものよ。



そもそもそれなりに立場っていうものがあるし。


場の空気を読める程度の配慮は必要でしょ?



一応、入学式の最中なのよ。


それなのに話しかけてくるなんて、ってね。



普段なら考えられない行動に対して疑問を感じているような素振りを見せながら振り向いてみると、

含み笑いを浮かべる学園長は受け取ったばかりの書類を差し出してきたわ。



「こちらをご覧下さい。今年の新入生の中に少し面白い少年がいるようです。」



…ん~?



面白い少年?



それだけだとちょっと意味がわからないわね。



…どういう意味かしら?



受け取った書類に視線を向けてみる。


まあ、見た目はただの書類よね。



表紙には報告書としか書かれていないから、

何を目的とした報告書なのかは分からないわ。



枚数は3枚かしら?



一枚目は表紙だから報告書そのものは2枚だけということになるわね。



さてさて。


これは本当にどういうことかしら?



無言で書類に記されている文面にゆっくりと目を通してみる。



そして、思わず呟いてしまったわ。



「…はあ?何よ、これ?」



面白いっていうか、意味不明すぎる内容だったのよ。



報告書の一枚目は一人の男子生徒の入学届けなんだけど。


その内容が異端の一言に尽きるわ。



誰がどう見ても不審に思う入学届けの内容は名前と年齢以外の全てが空白だったのよ。



出身地も、生年月日も、血液型も、何もかもが不記載。



それなのに入学試験の成績は全科目満点。


文句無しの入学試験首位っていう結果になっているわ。



…って!?



嘘でしょ!?


全科目満点っ!?


そんな成績ってありえるの!?



私でさえ、そんな結果は出せなかったのよっ!?



…って、言うか。



これって、あれよね?


もしかして学園の歴史上、初じゃない?



…さすがにこれは異常ね。



色々と思うことはあるけど。


書類に書かれている内容が疑問だらけで、

眉をひそめることになってしまったわ。



「いくらこの学園が入学自由と言っても、さすがにこれは気になるわね。」


「…ええ。ですから私も気になって調べさせていたのですが、調査の結果は二枚目の報告書を見てもらった通りです。」



…2枚目って言われても。



実質最後の1枚ということよ。



正式な報告書に書かれている一行の文章。



それは『過去の経歴は全て抹消済み』という簡潔な結論だけだったわ。



「抹消部みって、どういう事なの?」



驚きさえ感じつつ報告書の内容を問いかけてみたんだけど。


学園長は面白そうに微笑みながら一言だけ囁いたのよ。



「読んで字の如くです。」



…う~ん。



言いたいことは分からなくもないけど、それでいいの?



これでも一応、冒険者ギルド、魔術師ギルド、共和国内外の情報屋。


調べられる範囲内において調べた結果っていうことよね?



それでも情報は皆無だったっていうこと?



…そんなことがあり得るの?



おそらく試験結果を知ってから密かに調査させていたんでしょうけど、

一週間の調査結果が手元の資料だけだったということでしょうね。



「ぎりぎりまで調べさせていましたが、結局何も分かりませんでした。」



そして今に至る、ってわけね。



…ふ~ん。



なるほど、なるほど。


確かにこれは面白いわ。


こんなわけのわからない報告書なんて初めて見たからよ。



「これは興味をそそられるわね。」


「同感です。しばらくは様子を見るつもりでしたが、必要であればいつでも『彼等』を動かせます。いかが致しますか?」



…そうね~。



それもありだとは思うけれど。


現時点では警戒する必要があるのかどうかさえ判断できないのよね〜。



「まずはこの子が何者なのか、じっくり判断させてもらうべきかしら?」



どうするかを考えるのはそのあとでも良いと思うんだけど。



…そういえば、ちょうど手の空いてる子がいたわね。



書類の生徒が何者かは知らないけど。


学園内なら調査の手段はいくらでもあるから、

こっそり手配してみようかしら。



「ちょうど打ち合わせの予定があるから、式が終わったらお願いしてみるわ。」


「そうですか。では、お任せいたします。」



見る価値のなくなった書類を返却すると、

学園長は報告書を片付けながら何かを企むように笑っていたわ。



「さほど気に止めるほどの者ではない可能性もありますので、『期待』するのはある程度実力を判断してからで良いでしょう。」



ええ、そうね。



去年は不作だったけれど。


今年は期待できるかもしれないわ。



「久々に楽しめそうじゃない。あんまり無茶して潰さないでよ?」


「潰れてしまう程度であれば、それまでの事ですよ。」


「まあ、それもそうね。」



わりと勝手な言い分だとは思うけど、

実際そういうことなのよ。



危険な人物か?


有能な人物か?



どちらだとしても潰れてしまえばそれまでだから。


とりあえず笑って聞き流してみると、

学園長は書類を片付けてあっさりと話を終えたわ。



…で、それから一時間後。



いつの間にか睡魔が消えていたおかげで、

笑顔で入学式の挨拶を終えられたわ。


そうして最後まで入学式を見届けた後に、

校舎の最上階にある自室に向かって歩きだすことにしたのよ。



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