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THE WORLD  作者: SEASONS
4月9日
399/1378

血筋

《サイド:深海優奈》



…はふぅ。



ため息が出てしまいますね。



悠理ちゃんに何があったのでしょうか?



その一言がなかなか聞き出せなかったからです。



ですが多分それは翔子先輩も同じだったと思います。



直接確認したわけではないのですが、

翔子先輩の表情を見ていれば何となく分かりました。



言いたくても言い出せない。


そんな気持ちが感じられたからです。



…だから。



だから私は思い切って悠理ちゃんに尋ねてみることにしました。



悠理ちゃんに何があったのかを、です。



理事長さんの言っていた『噂』って何でしょうか?



私はまだ聞いたことがありません。


そしてきっと翔子先輩達も知らないと思います。



だから。



どうして悠理ちゃんが辛そうな表情をしていたのかを尋ねてみたんです。



「…教えてくれる?」



もう一度尋ねてみると。



「…うん。良いよ…。」



悠理ちゃんは小さく頷いてから話してくれました。



「…私の家はね。自分で言うのもどうかと思うけど結構有名な家柄なのよ。」



…だと思います。



噂話とか世間の常識とか、

そういった情報が少ない私でも聞いたことがあるからです。



…と、言うよりも。



小学校の授業で習う知識の一つとして、

国中の人達が知っていると思います。



「由緒正しい…っていう表現があってるかどうかは分からないけどね。近藤家の名前は国中に広がるくらい有名な名前なの。」



共和国全土に名を広める近藤家。


それはもちろん私でも知っている名前です。



…と、言っても。



御堂先輩が指摘するまで私は何も考えていませんでした。


悠理ちゃんが近藤家の一員だと気づいていなかったんです。



名前が似てるとか、

そんなことすら思っていませんでした。



全く何も考えていなかったんです。



…ですが。



近藤という名前は、

理事長さんの米倉の名前の次くらいに有名です。



どちらもこの国を代表する人物の名前だからです。



…それくらい有名なのですが。



悠理ちゃんが学園長さんのお孫さんだと知った時も、

「そうなんだ?」と思っただけでした。



思ったからといって何が変わるわけでもないので、

今までずっと気にしていなかったのですが。



それでも凄い家系なのは知っています。



この学園の学園長である『近藤誠治』さんの名前は知らない人がいないと思うほど有名な名前だからです。



単なる学園長ではなくて、

政治家としてもすごく有名なんです。



それに。


近藤家の血筋の方々は全員が何らかの役職についていて、

この国を支える基盤になっているとも聞いています。



それほど有名な家柄なのは知っていました。



ですが。


私が知っているのはその程度です。



悠理ちゃんのことは知りませんし。


近藤家の人がどういう人かなんて私は何も知りません。



「悠理ちゃんは学園長さんのお孫さんなんだよね?」


「…うん、そうだよ。」



以前、御堂先輩が言っていました。


だから確認してみたのですが、

悠理ちゃんは少し辛そうな表情で頷いていました。



「おじいちゃんはこの学園の学園長で、お父さんはこの町の副知事だから理事長の一つ下の役職だし。お母さんも有名な魔術師で、この町の治安維持部隊の責任者をしてるわ。あとは…二人いるお兄ちゃんも国境警備隊の隊長を任せられてるくらいだから優秀な血筋だと思う。」



『優秀な血筋』



その言葉を口にした時の悠理ちゃんの表情はとても辛そうに見えました。



「…でもね。私は違うの。私は『近藤家の落ちこぼれ』だから。お父さんにも、お母さんにも、兄弟にも見捨てられた役立たずなの。だから、ね。だから家族に冷たい目で見られて、家にいることさえ出来なくなって、どこにも行き場がなくて、学園に逃げてきただけのただの弱虫。それが…私なの。」



ただの弱虫。



自分をそんなふうに表現して必死に涙を堪える悠理ちゃんの姿が…。



とても…とても可哀相に思えました。



…私には理解できないからです。



どうして家族に見捨てられる必要があるのでしょうか?



生まれた家がたまたま『近藤家』だっただけなのに。



ただそれだけのことなのに。



それだけの理由で家族から見放されるなんて私には理解できません。



悔しさに肩を震わせながら必死に涙を堪える悠理ちゃんがとても…とても可哀相に思えました。



「…おうちに、いられなかったの?」


「…うん。お前には才能がないって言われたあの日から…私は近藤家から除外された存在なの。だから、私の居場所は…あの家にはなかったと思う。」



唇を噛み締めて、辛そうな表情です。



家族に見放され。


誰にも頼ることが出来ずに生きてきた日々。


その辛さが悠理ちゃんの表情に現れていました。



だけど、そんなのおかしいです。



落ちこぼれだなんて、

家族が言う言葉だとは思えません。



もっと支え合うのが家族ではないでしょうか?



才能がないと思うのなら、

助けてあげるのが家族ではないでしょうか?



私はそう思います。



…だけど。



悠理ちゃんのおうちはそうじゃなかったみたいです。



『近藤家のおちこぼれ』



それが悠理ちゃんを苦しめる言葉の鎖になっているんです。



家族にさえ認めてもらえなかった悠理ちゃんの絶望。


その悲しみが、悠理ちゃんを苦しめている原因でした。



「…悠理ちゃん…。」



こういう時は何を言えばいいのでしょうか?


どんなふうに声をかければいいのでしょうか?



…分かりません。



悲しみを分かち合うというのは、

言葉で言えるほど簡単なことではないと思うからです。



優秀じゃないというだけの理由で、

存在さえも否定されてしまうなんて。


その苦しみや悲しみは私にも理解してあげられません。



…分かって、あげられないんです。



私も決して優秀な人間ではありません。


だから悠理ちゃんの気持ちは痛いほど分かります。



落ちこぼれの劣等生。



その悲しみは分かるんです。



だけど、それだけです。



それだけなんです。



…私自身も。



吸収の能力のせいで周りから異端児として見られてきた過去がありました。



今でこそ能力に気付けましたが、

総魔さん達と出会う前はそうではなかったからです。



正体不明の能力。


魔術が消えてしまうという不可思議な現象。



その原因が分からないことで、

多くの人達が私を恐れました。



魔術師の国において魔術が効かない存在。



そんな私を多くの人達が遠ざけていたんです。



イジメと言うほどではありませんが。


幼い頃からずっと。


沢山の人達から避けられてきた経験があります。



だから。



だから人と関わることが怖くなってしまって、

引っ込み思案な性格になってしまったのですが…。



それでも私はごく普通に、

平凡な生活をしてきたと思います。



周りの人達から冷たい目で見られることはありましたけれど。


それでもこんな私を両親は愛してくれたからです。



お父さんとお母さんだけは、

いつだって私の味方でいてくれました。



…だから。



だから私には悠理ちゃんの苦しみがわかりません。


私にはちゃんと家族がいてくれたからです。



…だから。



だから私では悠理ちゃんの苦しみは分かち合えません。



…分かってあげられないんです。




ですが。



ですがそれでも。



少しだけでもいいから。



悠理ちゃんの苦しみを和らげてあげたいとは思います。



私に出来ることがあるかどうかなんて分かりませんけれど。


私にとって悠理ちゃんは初めて出来た友達だから。



…たった一人の。



大切な友達だから。



だから、これからもずっと。



ずっとずっと。



悠理ちゃんと友達であり続けたいと思います。



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