スキル・アウト
「始めっ!!」
開始の合図を出してからすぐに里沙は後方に下がってた。
だけど向き合う総魔と沙織は一歩も動かずに同時にルーンを発動させていたわ。
沙織のルーンはマテリアルよ。
見慣れた杖ね。
綺麗で鮮やかでいつ見ても惚れ惚れするわ。
さすが私の大親友。
出来ることなら今すぐにでも抱きしめたいと思うんだけど。
今は試合中だから邪魔はできないわ。
…それよりも。
総魔のルーンは私の知らない形だったのよ。
あれが…総魔の新しいルーンなの?
試合に注目する私と真哉の視線の先で、
二人の戦いが始まってしまう。
総魔と沙織の2回目の試合が始まってしまったのよ。
「ヴァジュラ!!!」
試合開始直後に先に動いたのは沙織だったわ。
炎のようにうごめく光の塊が総魔に襲い掛かっていく。
その光の炎に対して、
総魔は静かにルーンを構えてた。
ルーンの切っ先を光に向けて、
迫り来る炎を優しく受け止めてみせたのよ。
ただそれだけの行動で、
光の炎は動きを止めてしまったわ。
消えるわけでもなく、
吸収されるわけでもなく。
完全に動きを止めていたのよ。
「…そんなっ!?どうしてっ!?」
驚く沙織に向けて、
総魔は受け止めた光を反射させてしまう。
「受け取れ。」
沙織が放ったはずの光の炎が沙織自身へと襲い掛かったのよ。
「くっ…。グロウヴィル!!!」
急いで迎撃を行う沙織の足元から影が伸びて光の塊を食い止めた。
互いに相殺しあう光と影。
たった数秒間の攻防を見ただけで、
二人の実力差は明らかだったわね。
ただルーンを振っただけの総魔と魔力を消費した沙織。
二人の力の差は歴然としか思えないからよ。
「…ならっ!!」
マテリアルを天へとかざした沙織は最強の一撃を放ったわ。
「マスター・オブ・エレメント!!!」
白、黒、赤、青、黄。
五色の光が総魔に降り注いだのよ。
かつての試合で総魔を吹き飛ばした魔法。
あの時は防ぐことも耐えることもできなかったのに。
それなのに。
沙織の最大の攻撃を見つめる総魔は一歩も動かなかったわ。
「…無駄だ。」
以前の試合では致命的な被害を受けた魔術を前にしても、
余裕の表情で立ちはだかっているの。
そして降り注ぐ光にルーンを向けた総魔は何かの力を発動させたわ。
私の知らない能力。
その力が沙織を追い込んでしまうのよ。
「全ての魔力の流れを『反転』する。」
総魔が宣言した直後に。
五色の光が術者である沙織に向かって進行方向を変えたわ。
「…う、そ…?」
瞬間的に巻き起こる爆風。
轟音を響かせながら爆発した魔術が沙織の体を飲み込んでしまったのよ。
「…きゃああああああっ!?」
自分自身の魔術を受けて吹き飛ぶ。
試合場の端にまで転がった沙織は試合場を包み込む防御結界にぶつかって動きを止めたわ。
…うわああぁぁ〜〜~。
あれって結構痛いのよね〜。
私も経験があるから分かるのよ。
吹き飛んだ距離にもよるけどね。
普通に壁に激突するのと同じくらいの衝撃があるの。
場合によっては骨が砕けることだってあるから。
それくらい痛いのよ。
それでも何とか立ち上がろうとする沙織だったけど。
「く…っ、うぅ…っ。」
沙織の手足は…遠くで見ていてもわかるくらい震えていたわ。
それが痛みによるものなのか、
恐怖によるものなのかは分からないけどね。
だけど沙織の表情には明らかな絶望感が漂っているように見えたの。
…ここまできたらもう、打つ手なしよね。
そう考えてるのは私にもわかる。
それでも必死で起き上がろうとする沙織を総魔はただじっと眺めてるだけだったわ。
試合開始からまだ一歩も動いてないのよ。
開始線に立ったままなの。
その攻防を見ていただけで、
前回とは明らかに違う実力差を感じてしまうわね。
かろうじて勝てたかもしれない前回とは全く違うのよ。
今回の試合は明らかに沙織が劣勢だったの。
どう考えても勝ち目がないとしか思えない一方的な戦い。
沙織に放てる最強の攻撃でさえも、
総魔に対して傷一つ負わせることが出来ないどころか簡単に跳ね返されてしまったのよ。
だからもう沙織に攻撃手段があるとは思えないわ。
そう思ってしまったから、
もうどんな攻撃も総魔に通じる気がしなかったのよ。
負けを認めるしかないって、私は判断したの。
…だけど、ね。
沙織は諦めなかった。
「…貴方に背中は見せられない。例えこの手が届かないとしても!私は最後まで戦うわ!!」
逃げずに戦う意思を見せる沙織がルーンを構える。
そんな沙織の姿を見ていた総魔は少しだけ微笑みを浮かべていたわ。
…う~ん。
その微笑みがどういう意味なのかはわからないけどね。
…だけどきっと。
沙織の想いを受け止めるつもりなんだって思うの。
総魔は誰かを見下すとか嘲笑うような人じゃないから。
だからたぶん。
全力で向き合ってくれる沙織を見て、
沙織の気持ちを受け止めたんだと思う。
「良い選択だ。諦めればそこで全てが終わるからな。だが…諦めない限り、可能性は常に残る。最後まで戦い抜くこと。そこには確かな意味がある。」
沙織の想いを受け止めた総魔はルーンを頭上に掲げたわ。
「力尽きるその時まで戦い抜け。そして、見届けろ。これが…俺の新たな力だ。」
一気に沙織へと駆け出す総魔の特攻を見つめながら、沙織も迎撃に動き出した。
「…私は諦めません!!」
マテリアルを構える沙織は最後まで逃げなかったのよ。
傷ついた体で、とても弱々しい仕種だけどね。
それでも戦い抜く意志を示したの。
「全ての魔力を込めて、貴方を止めて見せます!!」
「ならば防ぎきってみせろ。」
総魔は手にしているルーンを沙織のマテリアルへと突き刺したわ。
そして、何かを行ったの。
「スキル・アウト!!!」
私の知らない魔術。
だけど総魔が何かの力を発動させた瞬間に。
突然、沙織のマテリアルが消失したわ。
それは一瞬の攻防。
遠くからだとはっきりと分からないけれど。
拡散するかのように粉々に砕け散ったのよ。
「…ぇ、っ!?」
戸惑う沙織が動きを止めてしまった次の瞬間に。
「これで終わりだ。」
総魔の剣が沙織の体を貫いてた。
だけどその攻撃は沙織を傷つけたようには見えない。
…たぶん、あの剣も。
物理的には切らないという選択肢があるのよ。
だから突き刺しても沙織は怪我をしない。
でもね?
総魔が再び何かを仕掛けた瞬間に。
「う、ぁぁ…っ!?」
沙織の体から鮮血が吹き出したのよ。
…えぇぇぇぇぇぇぇっ!?
い、今、なにが起きたの?
数え切れないほどの傷が、
沙織の全身を真っ赤に染め上げていく。
「………っ。」
攻撃を受けた沙織は、
声を出すことさえできずに力尽きたみたい。
すでに意識を失っているのは分かるの。
総魔に向かって倒れ込んだことで、
優しく抱きかかえられているのがちょっぴり羨ましいけれど。
今はそんなことを考えてる場合じゃないわよね。
「試合終了っ!!!」
里沙が試合終了を宣言したことで、
総魔はすぐに回復魔術を展開してた。
微かな光が沙織の体を包み込んで、
全ての傷を癒していったのよ。
いつ見ても完璧すぎる治癒魔法よね。
吹き出した出血さえも完全に消え去って、
数え切れないほどあったはずの怪我はもう痕跡さえないみたい。
それほどの奇跡を実現しながらも、
今の総魔に疲れは一切見えなかったのよ。




