圧縮の有用性
《サイド:天城総魔》
…戻って来れたな。
翔子と美春を検定会場に置き去りにした後。
校舎に隣接する図書館へと移動した。
早朝に一度訪れてからまだ2時間もたっていない。
もうすぐ11時になるだろうか。
今も数多くの生徒達がそれぞれに勉強している姿が見えるが、
しばらくすれば昼食のためにいなくなるのかもしれないな。
…ひとまず昼食は後回しでいい。
せっかくここまで来たからな。
まずは調査が優先だ。
案内板に記されている書棚から幾つかの書物を探し出す。
美春の助言通り特殊魔術に分類される魔道書を集めて調査を行うことにしたのだが、
今回はそれほど調べることが多くはない。
ある程度の内容はすでに翔子から聞いているからな。
「重要なのは基礎理論だが…。」
圧縮魔術基礎理論と題された魔導書をゆっくりと読み進めてみる。
すでに理論自体は理解しているからな。
事細かに調べる必要はない。
魔導書の内容も翔子の説明とそれほど大差がないように思える。
軽く読み進めるだけでも特に問題はなさそうだ。
…まずは圧縮の方法だけ調べられれば十分か。
すでに理解している概要は軽く目を通すだけで読み飛ばす。
そのままいくつかの項目を確認しつつ、
圧縮魔術の習得に必要な記述だけを探していく。
『圧縮魔術』
これは基本的に一つだけ発動寸前の魔術を待機させて、
長時間維持出来るようにするという技術だ。
ある程度の練習を繰り返して上達すれば複数の魔術を同時に維持する事も出来なくはないようだが、
数が増えれば増えるほど調整が難しくなってしまうからな。
一つ増えるごとに極端に難易度が高くなるらしい。
そのうえ魔術の圧縮と維持に失敗すれば自身の中で暴発してしまう可能性があるようだ。
最悪の場合。
死に至る可能性も有るだろう。
…失敗時の欠点が問題だな。
魔術が発動しないだけなら問題はない。
だが暴発による負傷は笑って見過ごせる程度の規模では収まらないはずだ。
強力な魔術を待機させておければ確実に戦闘は有利になるが、
暴発すれば自らが死に至ることになる。
これは利点よりも欠点のほうが大きいかもしれない。
だが、上手く使いこなせれば複数の魔術を同時に展開する事も可能になる技術だ。
炎と氷を同時に作り出す事も。
攻撃と回復を同時に行う事も可能になるだろう。
安全面を考慮すれば回復魔術を圧縮しておいて、
有事の際に発動するのが最も有効的な運用方法かもしれない。
回復魔術が暴発しても即死することはないからな。
魔術の暴走という弊害がどの程度になるのか今はまだ推測さえできないが、
よほどのことがない限り行動不能に陥ることはないだろう。
現状ではまだ回復魔術を使えないが、
結局のところは使い方次第ということだ。
…霧と翼なら暴走しても害はないか?
攻撃魔術とは違って致命的な問題はないように思える。
吸収と高速化魔術だからな。
…失敗しても自分自身に被害はないはずだ。
可能性としては周囲の生徒達が無差別に魔力を失うという状況が起こり得るかもしれないが、
実際に確かめるわけにはいかないからな。
暴走させないように配慮する必要はある。
それら利点と欠点を考えた場合。
使用するにあたって危険性は大きいが、
欠点を最小限に抑えることさえできれば十分な有効性があるはずだ。
擬似的な無詠唱が圧縮魔術の特徴といえるだろう。
実際に使ってみない事にはどの程度の効果が期待できるか予想できないものの。
魔術の圧縮という技術そのものは学ぶべき価値が十分にある。
この理論を応用すれば翼が更なる進化を遂げられるかもしれないからな。
圧縮の有用性は十分に期待できる。
その期待を実現するために。
新たな構想を思い浮かべながら、
集めた魔導書を幾つも並べて翼の魔術の理論を構築し直していく。
実践で使えるようにする為には、
細部まで突き詰めて研究を繰り返すしかないからな。
今は時間を忘れて研究に没頭することにした。




