準備不足
《サイド:米倉美由紀》
さあ。
いよいよ始まるわね。
彼の…。
『天城総魔』の頂点を目指す戦いが、
この試合をきっかけとして動き出すのよ。
出来ることなら御堂君の到着まで待ちたいところだったけど。
ここまできてしまったらもう御堂君は間に合わないかもしれないわ。
やがて訪れる最後の『決戦』に。
天城総魔が1位に届くその瞬間に。
御堂君は間に合わないかもしれないのよ。
このまま天城君がこの試合を勝ち抜けば。
残る生徒は3位の和泉由香里と、
2位の常盤沙織と、
1位の北条真哉のたった3人だけになるわ。
すでに天城君にとって頂点は手の届くところにあるのよ。
もうすでにそこまで来ているの。
だから。
残念だけどもう。
御堂君は間に合わないかもしれないわね。
そんな様々なことに思いをはせながら試合場に視線を向けてみると。
天城君の試合がついに始まろうとしていたわ。
「…試合、始めっ!!!」
開始の合図と共に一気に駆け出す三津井君。
その手にルーンを発動させながら、
彼に向けて魔術を発動させていたわ。
「エクスカリバー!!!」
風系最強の魔術ね。
威力も速度も優秀で使い勝手がいいの。
だから高位魔術師にとって初手での使用率が結構高いのよ。
大悟のビッグ・バンと同列階級ではあるけれど。
広範囲炸裂型のビッグ・バンとは違って、
直線攻撃のエクスカリバーは破壊力が集中する分だけ一対一の戦いでは効率が良いのは間違いないわ。
圧倒的な数の不可視の真空波が天城君に襲い掛かる。
だけど。
風の魔術は天城君に接触すると同時に消滅してしまったようね。
それは魔術でもルーンでもない天城君自身の特性かしら。
おそらくだけど。
あらゆる魔術を操る天城総魔の能力によるものでしょうね。
「なっ!?魔術が消えた!?」
魔術が通用しないことに驚きながらも天城君に接近しようと試みる三津井君は、
その手にある長剣『エスカトス』を振りかざしたわ。
三津井君の剣は氷結の能力を秘めたルーンなのよ。
まともに受ければどんな相手でも凍り付いて身動き一つ取れなくなる。
それだけの力を持つルーンなの。
一気に距離を詰めた三津井君の長剣の刃が天城君の頭上から振り下ろされる。
…だけど。
三津井君の剣は彼のルーンに阻まれて動きを止めてしまったわ。
火花が飛んだんじゃないかと思えるような衝撃音が響いて、
あっさりと防がれてしまったのよ。
三津井君が両手で振るった長剣の一撃を、
彼は片手で持つルーンで受け止めてみせたの。
ただ平然と…ね。
単純な力量なんて関係ないって言わんばかりに、
三津井君の全力の一撃を受け止めてみせたのよ。
…あれがそうなの?
天城君の新たなルーン。
それは以前のソウルイーターに比べればかなり小さいわね。
長剣とは言い難い標準以下の長さなのよ。
分類上はショートソードかしら?
大きくも小さくもない剣。
見た目だけで能力は判断出来ないけれど。
あれが彼の新たなルーンなのは間違いないわ。
『ソウルイーター』とは全く異なる能力を持つ第2のルーン。
右手に握り締める剣で三津井君の長剣を弾き飛ばしてから、
今度は彼がルーンを構えたわ。
虹色の光を帯ながらも、
何故か『影』を感じさせる異様な雰囲気を放っているわね。
上手く言葉にはできないけれど、
初めて見る色かもしれないわ。
「あれが天城君のルーンなのね…。」
「ちっ。惜しいことをしたな。」
呟く私の声を聞いて、
大悟が落ち込んだ表情を見せていたわ。
「…非常に残念だ。」
「どうしたの?」
「結界に集中しすぎていたために、観測用の機材を用意していなかった。これでは彼のルーンの能力を測定出来ない。」
…ああ、なるほどね。
時間的な猶予はあったとは言え、
研究所から会場までの距離と準備を考えれば
そこまで手が回らなかったのは仕方がないと思うわ。
…でも、ね。
ため息を吐く大悟を責めることはできないけれど。
観測出来ないのは致命的な失敗だったかもしれないわね。
私も気づかなかったとは言え、
それでも時間に余裕はあったのよ。
3時間も待っていたんだから。
気付いてさえいれば間に合ったはずなの。
それなのに、準備を怠ってしまったのよ。
そんな自分達をふがいなく感じている間にも試合は進んでしまったわ。
長剣を振り回す三津井君の攻撃が天城君に迫ってる。
けれど再び二本の剣がぶつかり合って、
三津井君の攻撃は今回も防がれてしまったわ。
…だけど。
ここで事態が急変してしまったのよ。
先ほどとは明らかに違う現象が起きたことでね。
これはどう考えても天城君のルーンの影響だと思うわ。
三津井君のルーンが強制的に解除されてしまったからよ。
「な…っ!?」
戸惑う三津井君が動きを止めた隙をついて、
天城君が剣を振り切る。
袈裟懸けによる一閃。
左肩から右脇腹にかけて、
三津井君の体が一直線に斬られてしまったのよ。
「ぐっ、あっ…!?」
体を斬られて崩れ落ちた三津井君は、
試合場に血の池を作りながら意識を失ってしまったわ。
「試合終了!!!」
緊急事態として駆け寄る医療班が回復魔術を発動させながら三津井君を会場から搬送して行く。
その様子を。
私達は黙って眺めることしか出来なかったのよ。
「…何が起きたの?」
「おそらく三津井君のルーンを操作して強制的に解除したのだろう。」
戸惑う私に、大悟が推測を教えてくれる。
「『魔術破壊』あるいは『魔力破壊』だな。そういう類の能力と考えるのが妥当なところだろう。」
はぁっ!?
魔力破壊!?
そんなことまで出来るの!?
もしもそうだとすれば、
天城君は自分だけじゃなくて他人の魔力も自由自在に操作出来るということになるわ。
「…とんでもない子ね。」
「面白いじゃないか。まだこれは力の一片にすぎないはずだからな。あのルーンの本当の実力はこれから見れる。実に楽しみなことだ。」
…はぁ。
あのね~?
笑っていられる状況じゃないのよ?
ただでさえ吸収の能力が厄介なのに。
魔力そのものを自由自在に操れるなんてバケモノ以外の何者でもないわ。
…本当に。
厄介な状況になってしまったわね。
天城君のルーンの全貌はまだ分からないけれど。
その答えを知った時こそ。
彼が頂点に立つ時なのかもしれないわ。




