スペルブレイカー
《サイド:深海優奈》
はふぅぅ…。
岩永さんに勝利したことで、
私の生徒番号は4番にまで上がりました。
1万人を越える学園で『4位』ということです。
そう考えるととても凄いことに思えて、
自然と体が震えてしまいます。
こういう感覚を達成感と言うのでしょうか?
今はまだ実感がありませんが、
自分自身の力でここまで来ることが出来たんです。
そのことは喜んでもいいのではないでしょうか?
もちろん今でもまだ能力に頼っているという罪悪感はあるのですが、
能力そのものは私の力として認めるべきものです。
ただ…肝心の能力が吸魔という反則的な力なのですが、
それでも私自身の力なのは事実です。
決して変えることのできない私自身の能力です。
まだまだ誇らしく堂々と…とは言いにくいのですが、
だからと言って恥ずかしく思う必要はないと思います。
…だから。
だからちゃんと。
前を向いて進もうと思います。
後ろめたい気持ちを抱えるのではなくて、
私自身が成長して戦えるようになるためにです。
そうすればきっと。
いつかきっと。
この罪悪感から解放される日がくると思うからです。
それまで努力し続けたいと思います。
「見て…頂けましたか?」
「ああ、確認した。」
試合を終えて尋ねる私に、
総魔さんは静かに頷いてくれました。
「予想していた通りに成長しているな。所持者と戦うことでルーンに覚醒するだろうと考えていたが、たどり着いた答えは『遠隔型の魔力吸収』か、良い力だ。」
「はい!」
総魔さんに褒められたことが、
嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。
こんなに嬉しいと思ったことなんて今までなかったかも知れません。
「あ…ありがとうございますっ。」
幸せ一杯の気分で微笑んでいると。
「おめでとう、深海さん。」
百花先輩が話し掛けてくれました。
「せっかくだからルーンの名前を聞いておきたいんだけど、もう決めてるかしら?」
落ち着いた雰囲気と冷静さを感じさせる百花先輩ですが、
瞳からは興味津々という感じがします。
私のルーンが気になるのでしょうか?
…ですが。
どう答えればいいのかわかりません。
ルーンの名前って、誰が考えるんですか?
私ですか?
それとも何か参考になるような歴史上の武器から名前をつけるのでしょうか?
よくわかりません。
「え~っと。特には、何も…」
「ふ~ん。それなら、今ここで適当に決めてしまえば?」
「え?でも、思い付く名前なんて…」
頭を悩ませていると。
「ねえねえ!ヴァンガードなんてどう?」
会話に入り込んできた里沙先輩が名前をつけてくれました。
「えっと…何か意味があるんですか?」
「ううん。ただの響き」
………。
里沙先輩は自信満々の笑顔で適当に答えていました。
そんな投げやりな感じで良いんでしょうか?
黙り込んでしまった私に。
「確か『神将』という意味の名前だったと思うけれど…」
百花先輩が説明してくれました。
「そうなんだ?」
里沙先輩は気にした様子もなく、
笑顔で聞き返しています。
「言葉そのものしか知らないのね?」
「うん!てきとう!てきとう!」
「………。」
どこまでも楽しそうな感じの里沙先輩の姿を見つめながら、
百花先輩は大きなため息を吐いています。
「まあ、何でもいいけどね。」
良いんですか?
私の意見はどこに行ってしまったのでしょうか?
発言する機会さえないまま。
二人の先輩の会話によって、
何故かルーンの名前はほぼ強制的にヴァンガード(仮名)ということになってしまいました。
あぅぅぅ~。
名前そのものに不満があるわけではないのですが、
勝手に決まってしまったことに、
もやもやとした気持ちを感じてしまいます。
とは言え。
他につけたい名前があるわけでもありませんので、
このままでもいいのかもしれません。
それよりも。
個人的には他に気になることがあります。
「あ、あの…。」
総魔さんに話し掛けてみました。
「総魔さんは?」
これからの試合でルーンの実験を行うのなら、
総魔さんのルーンの名前は何なのでしょうか?
尋ねてみたことで、
総魔さんは隠さずに答えてくれました。
「ひとまず『スペルブレイカー』と名付けた。」
スペルブレイカー?
それはどういう意味でしょうか?
名前の意味までは分かりませんが、
総魔さんはルーンの名前を言い残してから試合場へと向かって行ってしまいます。
そして総魔さんは一言も話すことなく試合場に立ちました。
…実際に見て確認するしかないのかな。
同じように考えていたのかどうか分かりませんが、
総魔さんの様子を黙って見ていたもう一人の男子生徒も静かに試合場へと入っていきました。
…この方は総魔さんのお知り合いではないみたいですね。
傍にいてくれる里沙先輩に聞いてみたところ、
彼の名前は三津井隆典さんと言うそうです。
生徒番号は5番なので、
私が戦った岩永さんよりも一つ下の番号ですね。
ですが今は正直、三津井さんの実力がどうこうよりも総魔さんのルーンが気になって仕方がありません。
これから見ることになる『スペルブレイカー』
それがどんな能力なのかをこの試合で見ることが出来ると思うだけで、
待ち遠しくて仕方がありません。
「「………。」」
試合場で向き合う二人。
三津井さんは今、何を思っているのでしょうか?
そして総魔さんはどうするのでしょうか?
私と里沙先輩と百花先輩。
それに所長さん達。
他にも多くの人達がこの試合に注目しています。
この試合の行く末に。
誰もが視線を外すことが出来ないでいる様子に見えました。




