傍観
《サイド:近藤悠理》
会場で観戦を始めてから1時間以上が過ぎた頃。
偶然、先輩の姿を見つけたわ。
だけど、向こうは気付いてなかったと思う。
話し掛けに行けば良かったのかもしれないけれど。
何となくだけどね。
出来なかったの。
優奈やみんなとはぐれて一人になったことで、
今は誰とも関わるつもりがなかったから。
誰かに助けを求めるようなことはしたくなかったんだと思う。
だから私は先輩にも声をかけられなかったの。
ただ遠くで見ていることしか出来なかったのよ。
試合場に向かう先輩。
そこにはすでに対戦相手が待っていたわ。
彼女の名前は知ってる。
ずっと見学していたから、
彼女のことも見覚えがあったのよ。
生徒番号4019番の絹川慶子さん。
おそらくこの会場で最強の生徒。
幾つもの挑戦を受けながら、
無敗で勝ち続けている女子生徒だったわ。
彼女の試合を観戦した私の正直な感想は一つ。
絶対に勝てない相手だって思ったことだけ。
弱点と呼べるような隙なんて全くないし、
一日一回の強制という校則も気にせずに何度も挑戦を受け入れていたのよ。
それなのに。
疲れを見せずに圧勝し続けていたの。
たぶん。
次の会場に向かうための最後の調整なのかな。
この会場にいることが不思議に思えるくらい圧倒的な実力差を見せ続けていたの。
だから私なんかじゃ絶対に勝てない。
そういう相手なのよ。
…でもね。
先輩ならきっと簡単に勝ててしまうと思う。
先輩が負けるなんて思えないから。
先輩が負ける姿なんて想像できないから。
そう思えたから。
私は離れた場所から試合を眺めることにしたの。
先輩に気づかれないように。
こっそり見ていたの。
…先輩はどんな戦いを見せてくれるのかな?
試合場に入った先輩と絹川さんがそれぞれの開始位置につく。
そして審判員が二人の間に立ったことで、
すぐに試合が始まったわ。




