ルーン名
《サイド:深海優奈》
彼方さんとの試合が終了したあと。
私と総魔さんと芹沢先輩と矢野先輩の4人は、
試合場を離れてから一旦受付付近まで戻ってきました。
「圧勝だったわね~」
芹沢先輩は興味深そうに私を眺めています。
そして試合を観戦していた矢野先輩も驚いている様子でした。
「…私の時とは違うけれど。本来の吸収の能力はあんなふうに発動するのね。」
…矢野先輩の時?
それはつまり。
「総魔さんと試合をした時ですか?」
「ええ、そうよ。あの時は彼のルーンで斬られたから、あなたとは状況が違うけれど。」
…ルーン?
思い返してみれば、
今までにも何度か耳にした言葉だと思います。
ここでもそうですが、
研究所でも聞いた気がします。
ですが。
いまだにその意味は知りません。
ルーンという言葉が何か知らないままなのですが、
それが私の成長に必要なことなのでしょうか?
…聞いておいたほうが良いのかな?
話を聞くために総魔さんに振り返りました。
「あ、あの…。今更なんですけど、ルーンって何ですか?」
「特性や属性などの個人の総合的な能力が反映される武器であり、魔力の結晶でもある。それをルーンと呼んでいる。」
疑問を感じる私に、
総魔さんが説明してくれました。
ですが。
説明を聞いてもまだ上手く理解できません。
武器ということは戦いで使うものだと思うのですが、
魔力の結晶という部分が良く分かりません。
「魔力の結晶…ですか?」
「ああ、そうだ。魔術のように発動出来る独自の力だと思えば良い。」
…魔術と同じ?
「ただし、その能力は術者が決めるものではなく、総合的な能力として必然的に決まるものだがな。」
…と言うことは。
「自分では決められないんですか?」
「ああ、そうだ。一人につき、ただ一つの力。それがルーンだ。」
ただ一つの能力。
それがルーンだと教えてくれました。
ですが、説明を受けてもまだ想像しにくい話です。
何か具体的な例えがあれば良いのですが、
見せてもらうことはできないのでしょうか?
「総魔さんはルーンを使えるんですか?」
「…多分な。」
…えっと。
多分、と言うことは。
まだ使ったことはないという意味でしょうか?
だとしたら。
これから実験するつもりなのかもしれませんね。
「次の試合で確認してみようと考えている。」
やっぱりそうでした。
次の試合で総魔さんのルーンは確認出来るそうです。
もしもそれを見ることが出来たなら、
私も自分のルーンを手にすることが出来るのでしょうか?
心の中で密かに期待してみたのですが。
総魔さんとの話の途中で、
芹沢先輩が話し掛けてくれました。
「興味があるのなら、私が見せてあげるわよ〜。」
…えっ?
「芹沢先輩もルーンを使えるんですか?」
「ふふ〜ん!」
聞き返してみると、
芹沢先輩は笑顔で頷いていました。
「まあね!一応、私も所持者の一人だから、いつでも見せられるわよ〜。」
…所持者?
どういう意味でしょうか?
「あ~、えっと…。言い方はどうでもいいんだけどね。ルーンの使い手を言いやすくする為に所持者って呼んでるのよ。」
…そういうことですか。
ルーンを使える人のことを所持者と呼ぶそうです。
だとしたら。
総魔さんもそうですが、
翔子先輩や御堂先輩もそう呼ぶのでしょうか?
「まあ、あんまり気にしなくて良いんだけどね。」
芹沢先輩は照れ臭そうに笑っていました。
「あ~、あと、私のことは里沙で良いわよ。何か苗字で呼ばれるのって苦手だし。」
「私のことも百花でいいわよ。私だけ仲間はずれっていうのも変な感じがするから。」
「…あ、はい。」
名前で呼んで欲しいと言ってくれた里沙先輩に続いて百花先輩もそう言ってくれました。
「…分かりました。」
断る理由はありません。
人と話すのは苦手ですけれど。
断るのはもっと苦手だからです。
だから私も二人の先輩を名前で呼ぶことにしました。
「そ、その…。さっそくですけど…里沙先輩のルーンを見せてもらってもいいですか…?」
「ええ、もちろん!いいわよ〜。」
快く頷いてくれた里沙先輩が左手を前方に突き出しました。
「発動〜!」
里沙先輩の一声で左手が輝き出します。
そして微かな光が左手に生まれてから、
すぐに消えました。
その僅かな時間の間に、
里沙先輩の手元には一本の杖が現れていました。
「はい、これがルーンよ。」
突然現れた杖を差し出されてしまったのですが。
どうすれば良いのでしょうか?
「え、えっと…触ってもいいんですか?」
「ええ。そのつもりで出したんだけど?」
「そ、そうなんですね…。」
見るだけだと思っていたのですが、
触ってもいいそうです。
「そ、それでは…。」
差し出されたルーンをおそるおそる受け取ってみました。
…軽い?
全く重さを感じません。
しっかりとした硬さと言うか、
ちゃんと握りしめることができるのに。
羽毛にような軽さです。
見た目は金属のような綺麗な輝きなのですが、
軽すぎて不思議な感じがします。
…元が魔力だからでしょうか?
重量というものが感じられませんでした。
そして見た目も印象的です。
里沙先輩のルーンは先端にある『ハート』と『炎』の刻印が印象的で、
それらを引き立てるような装飾が全体に施されています。
一言で言い表すとすれば『天使の杖』でしょうか?
お伽噺に出てきそうな感じで、
可愛いと言うよりは綺麗と言ったほうが良いかもしれません。
「…綺麗ですね。」
ただ手にしているだけで心が癒されるような。
そんな不思議な魅力がありました。
「ふふ〜ん!そのルーンは私だけのものなのよ。他の誰にも使えないし、その形も真似出来ないわ。世界でただ一つ!私だけの力。それがルーンなのよ。」
世界に一つだけ。
自分だけの力。
…それがルーンなのですね。
里沙先輩のルーンに触れて。
里沙先輩の話を聞いて。
なんとなくですけれど。
私もルーンというものを知ることが出来たような気がしました。
「あ、ありがとうございました…。」
「どういたしまして。」
一礼しながら丁寧にルーンを返すと、
里沙先輩はすぐに解除してしまいました。
「まあ、私の特性が反映されてるんだけどね。若干の攻撃能力もあるけど基本的には回復系と言えるわ。治療能力を極限まで高めた力。そう思ってくれればいいかな〜。」
里沙先輩のルーンは治療優先ということでしょうか?
それが具体的にどんな試合になるのか想像も出来ませんが、
この会場にいるということはそれだけの実力があるはずです。
「その…里沙先輩は何番なんですか…?」
「私?私は19位よ。百花は29位」
言われて百花先輩にも視線を向けました。
「それじゃあ、百花先輩もルーンを使えるんですか?」
「…いいえ。」
一緒にいるからそうなのかな?と思ったのですが、
百花先輩は静かに首を左右に振っていました。
「私はまだ使えないわ。だから彼にあっさりと敗北したのよ。彼のルーンに対応出来ずに、ね。」
…なるほど。
ルーンを使った試合がどういうものなのかはまだ見たことはないのですが、
武器がある人とない人ではどちらが有利なのかは私でもわかる気がします。
今はルーンを使えないかもしれない総魔さんですが、
力を失う前までは使えたはずですから。
…だったら。
「総魔さんのルーンは、どんな感じだったんですか?」
「ルーン名はソウルイーター。あらゆる魔力を喰らう魔剣だ。」
総魔さんは私の瞳を見つめながら説明してくれました。
ですが。
言葉だけでは良く分かりません。
私から聞いておきながら理解できなくて申し訳ないのですが、
魔力を喰らうというのはどういうことでしょうか?
…私の吸収とは違うんですよね?
似ていても違う能力だと聞いてはいるのですが…。
『ソウルイーター』
それが総魔さんのルーンの名前のようです。
「…えっと、里沙先輩のルーンにも名前があるんですか?」
「もちろんあるわよ〜。」
里沙先輩は大きく頷いていました。
「私のルーンはリカバリーロッド。文字通り回復の杖って意味だけどね〜。」
…回復の杖、ですか。
「色々あるんですね。」
「そうね〜。有名なところで言えば御堂君のエンペラーソード。北条君のラングリッサー。沙織のマテリアル。翔子のパルティアかしらね。」
翔子先輩のルーンにも名前があるんですね。
…パルティア。
どんなルーンかは知りませんけれど。
格好良い名前だと思います。
「他にも沢山あるけど…。ルーンに決まった形はなくて、所持者の思い通りの形に出来るのが面白いところかもね。」
所持者の思い通りの形にできる。
それもルーンの特徴みたいです。
…もしも私も使えるなら。
私はどんなルーンを思い描くのでしょうか?
今はまだ分かりませんが、
総魔さんはきっと待ってるんだと思います。
私がルーンを使える瞬間を。
私が私の力に気付くその時を。
『総魔さんと戦う時の為に』
きっとその時の為に待っているんです。




