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THE WORLD  作者: SEASONS
4月9日
362/1366

長野淳弥

《サイド:美袋翔子》



ふぅ~~~。



時刻は午前9時過ぎ。



最後の会場の一個手前の会場。


100番から999番までの生徒の集まる第2検定試験会場に私は来ているわ。


今日はすでに7回の試合をして全て勝利してきたんだけど。


次の対戦相手を求めて第3検定試験会場から移動してきたのよ。



結局、美春には会えなかったんだけどね。


美春が所属している会場をあっさりと勝ち抜いた私は次の会場に向かって、

4度の試合を勝ち抜いてからようやくこの会場にたどり着いたの。



…だけどね。



いまだにね。



…自分の能力が何なのかに気付けないままなのよね~。



出来ればこの会場にいる間に自分の潜在能力が何なのかを知っておきたいって本気で思うわ。



それが出来なければ何も分からないまま最後の会場に向かうことになってしまうからよ。



さすがにね。



…それはかなりまずい展開じゃないかしら?



ただでさえ私は実力的に皆よりも劣っているのよ?



このまま勝ち上がったとしても、

能力が不明なままだと頂点を目指す戦いに参加するなんて夢のまた夢になるわ。



だから何が何でも自分の力を把握しないといけないの。



皆に…総魔に追いつくために、ね。



色々と不安や焦りを感じるけれど。


今は焦り以上に、自分の力を理解出来ない自分自身を不甲斐なく感じているところよ。



…どうすればいいのかな?



心に問い掛けてみても答えは返ってこない。



募る苛立ちと焦る気持ち。


必死に考えても分からない答え。



私は自分の能力に気付くことが出来るのかな?



不安になってしまうわね。



それでも歩みを止めている暇はないのよ。



次の試合の為に受付に向かうしかないの。



…そのつもりだったんだけどね~。



何故かね。


受付で名簿を受けとろうとした私に話しかけてくる生徒がいたのよ。



「よう!久し振りだな、翔子。」


「…えっ?」



突然の呼び掛けられたから振り返ってみたら、

すぐ後ろに一人の男子生徒がいたわ。



名前は長野淳弥ながのあつや


私と同じ『特風』の一人よ。



でもね。


淳弥は特風の中でも唯一フォース・ステージじゃない生徒なのよ。


サード・ステージにいながらも特風への参加が認められた珍しい生徒なの。



だから淳弥の試合を見たことはないんだけれど。


番号以上の実力があるのは間違いないと思っているわ。



「あれ?淳弥じゃない。何でここにいるのよ?」


「いやいや、何でって言われてもな…。」



どうしてここにいるのか気になったんだけどね。


淳弥は当然とばかりに答えていたわ。



「俺は『他』とは違って、この会場所属だからな。ここにいるのが当然だろ?」



それは知ってるわ。


この会場に所属してるんだから、

ここに来るのは当然なんだけどね。



「それは分かるけど。そうじゃなくて、何で・今・ここに・いるの?って聞いてるの。」


「んー?あー、まあ、何となく、そろそろ翔子が来るんじゃないかなーって思ったから、じゃあダメか?」



…はぁ?



ちょっと意味がわからないわね。



「何よそれ?って言うか、暇なの?」


「いやいやいやいや、んなわけないだろ。お前が抜けたせいでめちゃめちゃ忙しいんだからな。」



…あ〜、うん。



そこ関しては言い訳なんて出来ないわ。



「ごめんごめん。」


「いやまあ、それは別に良いんだけどな。翔子の役に立てるのなら文句なんてねえよ。」


「ん?働くのが好きなの?」


「そんなわけねえだろ!前にも言っただろ?『お前が好きだから、お前の側にいる!』ってな。」



…え?


…あぁ~。


そう言えば…?


確かにそんなことがあった…ような?



気がしなくもない…?


気もする…?



…かな?



思い返してみればね。


何ヶ月か前に淳弥に告白されたことがあった…ような気がするわ。



あの時は大して気にもしてなかったから『ないないない。』ってあっさり断っちゃったけど。


そのあと淳弥は自分の実力を最大限に発揮して、

サードにいながら『特風』に参加するまでに成長したのよ。



告白を断ってから次に淳弥に再会したのは『特風』に入ってからだと思う。



確かその時に『お前が好きだから、お前の側にいる!』とか何とか言ってた気がするわ。



まあ、今ここで言われるまで完璧に忘れてたけどね〜。



「そんなことはどうでもいいのよ。」


「いや、どうでもいいとか言われると、結構傷付くんだぞ?」



何か言いたげな淳弥の言葉をあっさりと聞き流しながすことにして質問を続けてみる。



「それより淳弥って今は何番なの?」


「ん?俺か?今の生徒番号は128番だ。まあ、可もなく不可もなくって感じだな」



128番ね~。


確かに特筆するには少し低い気がするわ。



それでも、現在1004番の私と比べれば掛け離れて上位の番号なんだけどね。



「で?まだ次の会場には行かないの?」


「…いや。」



その気になれば一桁まで行けると思うのに、

淳弥は余裕の笑みを浮かべながら否定していたわ。



「まだしばらくここにいるつもりなんでな。当分、上を目指すつもりはない。」



はあ?


何よそれ。



「そこが分からないのよね~。何でここに留まる必要があるのよ?淳弥ならもっと上まで行けるんじゃないの?」


「さあな。勝ち上がれるかどうか知らないが、今の所は興味がないとしか言いようがないな。」



興味がない?


変な奴。


一体何がしたいんだろ?



「まあ、俺には俺の目的があるってことだ。あまり気にしないでくれ」


「わけわかんない」


「色々あるんだよ。色々な…。」


「別にどうでもいいけどね~」


「いや、だから、お前にどうでもいいとか言われると、かなり傷付くんだぞ?」


「知らないわよ、そんなこと。それよりもわざわざ私に会いに来たわけじゃないでしょ?何か用でもあるの?」


「………。」



私の質問を聞いた淳弥の頬に、

一筋の汗が流れた気がするわね。



「いや、だから翔子に会いに来たんだ。ただそれだけだ」


「本気で言ってるの?」


「そうだよ。悪いか?」



真剣な表情の淳弥の本心がわからないわね。


だけど。


もしかしたら淳弥は本当に私に会いに来ただけなのかもしれないわ。



「やっぱり暇なのね?」


「いや、暇とかそういうことじゃなくてだな。試合で何度も敗北してるって話を聞いたから、心配になって様子を見に来たんだよ」



敗北?



…あ〜、確かにそうね。



ここへ来るまでに2回も負けてるわ。



最初の試合に関しては運が悪かったっていうか何て言うか…。


優奈ちゃんに勝てなかったのは確かに敗北って言えると思うわ。



でも美春に負けたのは完全に油断していたからとしか言いようがないわね。



勝てると思い込んで全力で戦わなかったから。


手を抜いても勝てると思っていたから。


だから、あっさりと敗北してしまったのよ。



でもね?



それは私の心の問題であって、

実力的に負けたわけじゃない…と、思ってる。



もちろん美春の実力は認めるわよ?



それでもね。



美春に負けた最大の理由は『油断』だと思うの。



まあ、どんな理由かに関係なく。


負けたことに変わりはないんだけどね。



「それで?心配して来たってのはわかったけど、会いに来てどうしたいのよ?」


「どうってこともないだろ?好きな女が落ち込んでるんじゃないか?って思って気になっただけだ」



自信満々に宣言してる。


悪い奴じゃないけれど。


だからって心を開くつもりなんてないわよ?



…だって…。


…だって…!


…だって…!!



私が『好き』なのは総魔なんだから!!



淳弥の気持ちは嬉しく思うけれど。


今の私の心の中に入り込む余地は一切ないわ!



「…だからまあ、それは置いといて。」


「いや、だから、結構傷付くぞ…その態度は…。」



落ち込む淳弥を気にするつもりなんてないわ。


とりあえずもう一度だけ尋ねてみる。



「それで?何しに来たのよ?」


「だから、翔子に会いに…。」


「それはもういいってば…」


「いや、そこが大事なところだと思うぞ?」


「放置!」



…もういい。



話し合うのは諦めたわ。


面倒くさくなっただけなんだけどね。


淳也は無視して

再び名簿を見ることにしたのよ。



「きっつ…。」



落ち込む様子の淳弥だけど、

今はこんなくだらないやり取りに構っていられるほど暇じゃないの。



…1秒でも早く自分の力を知る為に。



足を止めてる暇はないのよ。



「…誰にしようかな〜?」



名簿を眺めていたんだけど。



「…おーい。」



まだ淳弥が控えめに話しかけてくる。



「…なあ、翔子。」



…はあ。



「だから何?私は忙しいんだから…」


「…だからだよ。」



…ん?



「良かったら俺と試合をしないか?」


「…はあ?」



唐突な発言のせいで首を傾げてしまったわ。



…美春もそうだったけど。



どうして私と戦いたがるのか分からないわね。



…何がしたいのかな?



よくわからないけれど。


仕方がないから、

もう一度だけ淳弥に振り返ってあげたわ。



「だ〜か〜ら〜。一体、何が、したいの?」


「いや、まあ、そうイライラするなって。別に何ってこともないんだけどな。ちょっとは翔子の役に立てるかな?って思っただけだ。」



控え目に話す淳弥だけど。


この提案は微妙に悩むわね。



正直な話を言うと、

今の私には淳弥に勝てる自信なんてないからよ。



指輪を外して全力で戦えるのなら、

こんなふうに悩む必要もないけれど。


今の私には大した力がないのは事実なの。


美春にも言われちゃったしね。


普通に戦ったら淳也には勝てないと思う。



ただでさえ番号が離れているということもあるけれど。


それ以上に淳弥の実力はもっと上にある気がしているからよ。



淳弥が本気で上を目指していればこんなところにいるはずがない、ってね。


そう思える程度には、

淳弥を評価してるつもりなの。



だからこそ思うのよ。


今の私だと淳弥には勝てないかもしれない、ってね。



油断でもなんでもなくて、

全力で戦っても勝てないかもしれないって思える相手なの。



淳弥はそういう存在なのよ。



「…俺なら翔子の役に立てるかもしれないからな。」



自信を持って宣言する淳弥だけど。


その自信の根拠は何なの?



色々と気になるけどね。


ここで話を聞いて確認するよりも。


実際に試合をしてみたほうが早いかもしれないわ。



「別に試合をするのは構わないけれど…」


「良し!ならさっそく手続きをしよう!」



笑顔で受付に向かってく。


何がそんなに嬉しいのか知らないけれど。


淳弥は上機嫌で手続きを終えたわ。



「行こうぜ翔子。試合場はBー5番だ」



歩きだす淳弥の後を追って、

私もしぶしぶ歩きだすことにしたのよ。



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