芹澤里沙と矢野桃花
「…また、きみに会うとはね。」
キツイ目で総魔さんを睨みつける彼の名前は『彼方進』さんです。
はっきりとわかるほど険悪な雰囲気でした。
だからでしょうか?
他の生徒さん達も総魔さんの存在に気付いたようで、
怯えるかのように距離をとって離れています。
…え~っと?
どういうことでしょうか?
何故か会場にいるほとんどの方が、
総魔さんを警戒しているように思えます。
周囲に視線を向けてみると。
審判員さんや係員さん達も含めた誰もが総魔さんを恐れているように見えるのです。
…今までの会場とは明らかに違う雰囲気ですね。
誰もが総魔さんを恐れているように思えました。
以前ここで何があったのかを知リませんので私には分かりませんが、
皆さんを怯えさせる何かがあったということでしょうか?
聞いてみたい気はしますが、
確認する勇気はありません。
ただそんな張り詰めた空気の中でも、
堂々と総魔さんに歩み寄って来る人達がいました。
「へ~。初めて見るけど、思ってたよりも良い男じゃない!」
「やめなさい、里沙。そういう台詞は今の状況では相応しくないと思うわよ?」
「まあまあ、細かいことは気にしない気にしない!一応、仲間なんだしさ~」
「仲間と言うよりも、同盟と言うほうが相応しいと思うけど?」
「どっちも一緒でしょ〜。」
「全然、違うわよ?」
「良いから良いから。」
話し合いながら近付いてきたのは二人の女性です。
一人は翔子先輩と同じくらい明るい雰囲気の女性で、
もう一人は常磐先輩のように落ち着いた雰囲気のある女性です。
私としてはどちらも初対面なのですが。
「…久しぶりね。天城総魔君。」
落ち着いた雰囲気の女性が総魔さんに話しかけていました。
久しぶり?
…ということは。
この女性も総魔さんの知り合いなのでしょうか?
「私のことは覚えているかしら?」
「ああ、矢野百花だな。」
「あら、ちゃんと名前まで覚えてくれていたのね。」
満足そうに頷く矢野さんの隣で、
明るく微笑んでいる女性が総魔さんの前に進み出てきました。
「私は初対面だから挨拶するわね〜。私の名前は芹澤里沙。特風所属って言った方が分かりやすいかな?」
芹澤さんは初対面のようです。
…ですが。
特風と言う言葉は私も知っています。
御堂先輩や翔子先輩。
それに常盤先輩が所属している委員会だったはずです。
詳しい内容までは知りませんが、
校舎の屋上に会議室があることは知っています。
…先輩達のお友達なのでしょうか?
そんなふうに考えながら、
矢野さんと芹澤さんに視線を向けてみました。
芹澤さんのリボンの色は翔子先輩と同じ赤色ですね。
学年で言えば2つ上の先輩のようです。
その隣にいる矢野さんは紺色のリボンですので、3つ上の先輩のようですね。
どちらも新入生の私から見れば大先輩になります。
もちろん総魔さんにとっても先輩になるはずなのですが、
総魔さんは特に気にした様子もないまま矢野先輩に話しかけていました。
「彼方もそうだが。全員、目を覚ましたのか?」
「…いえ。」
総魔さんの質問に答えるために、
矢野先輩は左右に首を振っていました。
「全員ではないわ。まだ『一人』だけ眠っている生徒がいるからよ。」
「…北条真哉か。」
「ええ、そうよ。だけどそれ以外の生徒は全員、昨日のうちに目覚めたわ。もちろん私も含めてね。」
「まあまあ、他がどうかなんてどうでも良くない?」
矢野先輩が答えたあとで、
芹澤先輩が話を続けました。
「それよりも本題はこっちでしょ?噂では凄いって聞いてたけど、予想以上の早さでここまで来たわね~。報告でも聞いてたけど、まだ『あれ』から3日くらいしか経ってないんじゃない?」
芹澤先輩の言う『あれ』というのは、
頂点に立って降格した日という意味だと思います。
芹澤先輩の言葉に続けて、
矢野先輩が再び話し始めました。
「前回対立した時にはまだ貴方の情報が私達のところまで届いていなかったから、あの時点では貴方に関して何も知らなかったけれど…。昨日、里沙に一通りの話を聞いたから、大体の流れは把握しているつもりよ。」
そこまで話してから、
矢野先輩は私に一瞬だけ視線を向けました。
「まあ、翔子や御堂君はまだここには来てないみたいだけど…。その子もあなたの仲間なのかしら?」
「ああ、そうだ。」
尋ねられたことで、
総魔さんは頷いてくれました。
「俺と同じ『吸収』の能力を持っている。」
「…は?あ、貴方と…同じ?」
「うっそ…?他にもいるの!?」
総魔さんが説明した瞬間に、
矢野先輩と芹澤先輩の表情が凍り付いたように見えました。
戸惑っている…感じでしょうか?
正確に言うと私と総魔さんの能力は違いますが、
似たような力だとは思っています。
多分。
きっと。
似てる…はずです。
「…うわぁ~。他にもいたのね~。」
驚きの表情を浮かべる芹澤先輩ですが、
二人とも興味深そうに私に視線を向けています。
…あぅぅ。
そんなに見つめられると。
恥ずかしいというよりもなんだか怖いです。
…うぅ〜。
二人の視線から逃げるように、
総魔さんの背後に隠れてしまいました。
それでも私に視線を向け続ける二人。
そしてただただ怯える私。
そんな私達の様子を見ていた総魔さんが二人を説得してくれました。
「これから試合が始まるからな。用がないのならあとにしてくれ」
「あ〜、ごめんごめん。邪魔するつもりはなかったんだけどね~」
「引き止めてごめんなさい。」
総魔さんが話してくれたおかげで、
二人の先輩はささっと道を開けてくれました。
…はふぅ。
素直に謝ってくれた二人から足早に離れて、
試合場に向かうことにしました。
…ですが。
やっぱり緊張してしまいますね。
すでに待ってくれていた対戦相手の彼方さんと向かい合っているからです。
この試合に勝てばフォース・ステージ入りが確定します。
ついこの間までファースト・ステージにいたのに。
気が付けばセカンドとサードを越えて、
終盤のフォース・ステージまで到達する勢いです。
もちろん負ければサード・ステージのままなのですが、
100位を越えられるかどうかはこの試合の結果次第になります。
「まさか他にも『吸収』の能力者がいるなんてな…。」
憎しみのこもっているような瞳で私を見つめています。
以前の試合で総魔さんと何があったのかは知りませんが、
それほど『吸収』という能力に対して深い怨みでもあるのでしょうか?
…はうぅぅ。
彼方さんの視線から逃げだしたくて、
視線を逸らした私の視界に芹澤先輩の姿が映りました。
「ねえねえ。せっかくだから、私が審判してもいい?」
尋ねながらも堂々と試合場を歩き続ける芹澤先輩はどう見ても私達の意見を聞くつもりがないように見えるのですが…。
どうなのでしょうか?
「好きにすればいいさ。」
彼方さんが認めたことで、
芹澤先輩は笑顔を浮かべたまま試合場の中央に立ちました。
「じゃあ、二人とも準備はいいわね〜?」
尋ねる芹澤先輩に頷く私と彼方さん。
この状況で試合を止める理由はありません。
「おっけ~!じゃあ、始めましょうか。」
芹澤先輩は右手を頭上にかかげました。
「行くわよ!試合…開始っ!!」
芹澤先輩が右手を振り下ろすのとほぼ同時に。
彼方さんが魔術の詠唱を始めました。




