自分自身に
試合場Dー1。
試合場に着くとすぐに彼が姿を現したわ。
「…きみが対戦相手なのか?」
複雑な表情を見せる彼は驚いているのか怒っているのか判断しづらい雰囲気だったわ。
「2度はないと思うが…。」
はっきりとは聞き取れなかったけど、
何かを呟いているわね。
…2度って、何の話かな?
首を傾げる私を眺めながら、
彼は試合場の中へと足を進めてく。
「せっかくここまで勝ち上がってきたんだ。同じ過ちを繰り返すつもりはない!」
…過ち?
よくわからないけれど。
何かあったのかな?
もしかして一回降格したっていう意味なのかな?
詳しいことは知らないけれど。
彼は気持ちを引き締めるような真剣な表情で位置についたわ。
…うぅ~ん。
さっきの試合とは雰囲気が違うのよね~。
知らない魔術とか連発されたら勝ち目がないんだけど大丈夫かな?
もしかして人選を間違えたかも?
別の人にした方がよかったかな?
そんな疑問を感じながら、
私も試合開始位置へと足を進めてみる。
その後で中央に歩み寄る審判員。
「準備は良いですか?」
「ああ、いつでもいい」
「わ、私も…。」
問い掛けに答える彼と私の声を聞いて、
試合開始が宣言されたわ。
「試合始めっ!!!」
即座に魔術の詠唱を始めた彼の詠唱には聞き覚えがあるわね。
バースト・フレアよ。
私がもっとも迎撃を得意とする魔術でもあるわ。
まあ、失敗すると後がものすごく気まずいんだけどね。
それでも今は行動しないことには勝利なんてありえない。
…やるしかないのよ!
そう判断して私も詠唱を開始してみる。
「バースト・フレア!!!」
炎が発動した瞬間に。
「ウインド・カッター!!」
衝撃波を飛ばしたのよ。
「ち…っ!?」
舌打ちをしてから転がるように逃げ出した彼が元いた場所に残された炎が風の衝撃で炸裂したわ。
「くそっ…!!」
至近距離で衝撃を受けて吹き飛ばされた彼はそれなりの被害を受けたかもしれないけれど。
…私の作戦が失敗したのは明白ね。
距離をとって時間を稼ぐ程度の効果しかなかったからよ。
すぐに別の方法を考える必要があるわ。
「フリーズ・アローっ!!!」
…って、早っ!?
体勢を整えながらも魔術を発動させた彼から迫り来る氷の矢に対処する為に。
慌てて風を生み出してみる。
「ウインド・クラッシュ!!」
『ブワッ!!』と一瞬の突風が吹いて、
直進して来る氷の矢を吹き飛ばしたのよ。
だけど全ての矢を防ぎ切れずに、
周囲に着弾した氷の矢が足場を減らすように各地で氷結してしまっていたわ。
ただ凍りつくだけならいいんだけど。
様々な形の氷は氷柱のように尖っているものが多くて、
下手に足を踏み出せば串刺しになりかねないのよ。
いちいち氷を溶かす余裕なんてないから、
かなり危険な状況だと思うわ。
…急いでここから逃げないと…っ!
安全地帯を探して周囲を確認してみる。
氷は点在してるだけだから急げば脱出は可能よ。
…とりあえず今は。
開始位置から逃げ出そうとしたんだけど。
その前にね。
もっとも聞きたくない言葉が届いてしまったのよ。
「コールド・ストーム!!!」
…やっば…!!!
もうすでに足場なんて気にしてる場合じゃなくなってしまったわ。
冷気が私の周りを取り囲んで徐々に迫って来るからよ。
足元に点在する氷と周囲から迫る冷気。
逃げ道なんてどこにもないわ。
…もう逃げられない…っ。
そう思ったけどね。
一瞬の閃きが私を行動させてた。
なりふり構ってられないとも言えるわね。
できるかどうかすら分からないけれど。
急いで魔術を詠唱してみる。
ものの数秒で私を取り込むはずの極寒の冷気に怯えながら必死の思いで魔術を発動させたわ。
「ウインド・クラッシュ!!!」
私の魔術で相殺なんて不可能よ。
…だけど!!
足元に向けて発動させる風の魔術。
私は唯一の逃げ道である『頭上』へ逃げる為に、
自分自身に対して風を発動させたのよ。
ふわっ…と浮き上がる体。
その直後に。
私のいた場所を冷気が吹き荒れたわ。
ギリギリだけど攻撃を回避できたみたい。
…でもね?
風の魔術も消えてしまって、
私の体は試合場に落ちていくの。
…うわわわっ!?
冷気に包まれるよりはマシよ。
マシなんだけどね?
そうは思うんだけど。
これはこれで結構地味に痛かったわ。
「…痛っつつつ…。」
無様に落下したから体中が痛いの。
…2階から落ちた感じ?
ちょっとどころじゃなくて、
わりと本気で怖かったわ。
…でもまあ。
魔術からは逃げきれたからまだ良いのかな?
ぶざまに転げ落ちたけどね。
さすがに着地までは考えてなかったのよ。
そんな時間もなかったしね。
高所から飛び降りたような衝撃が私の体中を駆け巡ってる。
それでも骨に異常がないだけ運が良いのかもしれないわ。
動けるし、走れるのよ。
運が良かったと思いながら、
必死に体を起こす私の視線の先で。
彼は次の魔術を詠唱していたわ。
…ちょっと無理っぽいかな?
ふらつきながら立ち上がったけど。
さすがにどうにか出来るとは思えないのよ。
…負けるかな?
諦めそうな自分がいる。
あの冷気から逃げれただけでも十分、
奇跡的だと思ったからよ。
だからここで負けても悔いはない…なんてね。
…そんなわけないじゃないっ!
私はまだ負けられないのよっ!!
折れそうだった心を無理矢理立て直して、
彼の魔術に視線を向ける。
諦めないって…決めたんだからっ!!
痛む体を引きずる思いで足を進めてく。
…私はまだ動けるのよっ!
最後まで諦めずに戦う意思を見せる私に、
彼は新たな魔術を発動させてきたわ。
「フレア・アロー!!」
無数の炎の矢が、私に向かって降り注ぐ。
回避…出来ない…?
絶望的な状況。
それでも諦めるつもりはなかったわ。
必死に詠唱した魔術を。
炎の矢に対してではなくて。
もう一度自分に向けて発動させてみる。
「ウインド・クラッシュ…!」
再び吹き飛ばされる私の体。
その背後で試合場に着弾する炎の矢。
私は彼に向かって『前進』してた。
「!?」
戸惑う彼に接近することに成功したのよ。
もっとも初歩的な魔術を発動させながら、
精一杯彼に手を伸ばしてみる。
「ファイアー!!!」
突風に押される勢いを乗せて全力で放つ炎で不意をつくことに成功して、
私の一撃は彼に直撃したわ。
その瞬間にね。
勢いよく燃え上がる炎が彼を包み込んだのよ。
「…ぐっ…あ…っ!?」
大した威力はなくてもね。
彼の動きを止めることはできたの。
…もうこの一瞬しかない!
ここを逃せばもう勝ち目はないわ。
もう一度立ち上がる時間すらないまま一方的に攻撃を受けてしまうと思うから。
炎に飲まれた彼が慌てているこの一瞬に、
とどめの一撃を放つしかないの。
「ファイアー・ボール!!!!」
私に使える最強の魔術よ。
中級の比較的簡単な魔術だけどね。
それでも燃え盛る炎の玉が彼を目指して突き進んだわ。
そして…狙い通りに着弾したのよ。
「くっそおおおおおおお……………!!!」
雄叫びをあげながらも彼は試合場に倒れ込んだ。
…か、勝てたのかな?
苦し紛れの戦いだったけどね。
それでも私は戦いきったの。
「試合終了!勝者、近藤悠理!」
…勝った!!
初めて自分の力で勝てたのよ!
それだけは誇って良いと思うの。
ちゃんとね。
新たな番号を獲得したのよ。
…だけど、ね。
その直後に…私も意識を失ってしまったわ。




