寝言
《サイド:美袋翔子》
………。
………。
………。
…ぅん?
何となくだけど。
体を揺すられるような感じがして目を覚ましたわ。
え~っと?
ここはどこ?
…というか。
どういう状況なの?
目覚めたばかりで意識がはっきりとしないみたい。
目眩にも似た感覚が私を襲ってる。
うぅ~ん。
頭を抱えながらしばらくうなっていると、
少しずつ目が冴えてきたわ。
はふぅ~。
ため息を一つ吐いて周囲を見回してみる。
ん?
あれ?
すぐ傍にね。
見慣れた女の子がいたのよ。
「…美春?」
「はぁ…。やっと、起きたわね~」
呆れ顔の美春が側にいたの。
ん~。
これってどういう状況なの?
もう一度見回してみる。
とりあえずここが医務室だということは分かったわ。
う~ん。
どうしてここにいるのかな~?
確か美春と試合をしていて。
ぶっ飛ばされて…って、あれ?
それから、どうしたっけ?
首を傾げる私を見て美春が激しくため息を吐いてる。
「まあ、なんでもいいけどね。調子はどう?」
え?
あ、あ~。
うん。
「大丈夫、たぶん、きっと…。」
「曖昧ね~。まあ目が覚めたならなんでもいいけど…。」
何故か呆れ顔の美春。
何かしたのかな?
当然だけど。
気を失っていた間のことは覚えてないわよ。
それ以前には…どうかな?
さらに首を傾げてみる。
美春はため息を吐きながら冷めた視線を私に向け続けてる。
怒ってる?
っていうか、呆れてる?
そんな感じ。
「どうかしたの?」
「どうか、って…。ったく、相変わらず気楽でいいわね~。人がせっかく苦労してここまで連れて来てあげたのに幸せそうな寝言連発で、ホントに翔子の性格が羨ましいわ。」
え?
…寝言?
何か言ってたの?
寝言を聞かれてるってちょっぴり恥ずかしいじゃない。
「…な、何か言ってた?」
恐る恐る尋ねる私に。
美春は絶望的な言葉を口にしたわ。
「ずっと言ってたわよ。総魔…総魔…って。何ていうか、聞いてるこっちの方が恥ずかしくなってきたわよ…。」
答えてから顔を背ける美春の顔は…明らかに笑ってた。
…って!?
うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??
私は何てことを…っ!?
恥ずかしさのあまり、
顔を真っ赤に染める私を見て美春はさらなる発言を続けたわ。
「まあ、声が小さかったから全部は聞こえなかったけどね。一緒にいて…とか何とか言ってたわよ?」
ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!!!!
や~~~め~~~て~~~っ!!!!!!!
言〜わ〜な〜い〜で~~~~!!!!!!
聞きたくない聞きたくない聞きたくない!
聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくな~~~~~~いっ!!!!!!!!
恥ずかしさのあまりに頭を抱えてしまう私を見て、
美春は妖しい笑みを浮かべてる。
「…もう一つあるけど、聞きたい?」
「ごめんなさい。もういいです。お願いだから言わないで…」
「あら、そう?なかなか素敵な発言だったのに…」
そう言って吹き出した美春。
私は最も敵に回してはいけない女に弱みを見せてしまったのかもしれないわ。
一生の不覚っ!!
恥ずかしすぎて、布団に潜り込んだ私に…。
「………。」
美春がそっと耳打ちしてくれたのよ。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
聞・き・た・く・なかったのに~!!!!!!!!!!!!!!!
寝言とはいえ。
とんでもない発言をしてしまっていたのよ。
今の言葉は永遠に記憶の彼方に封印することを心に固く誓うわ!!
「…み、美春っ!!」
「なによ~?」
不敵な笑み。
…くっ。
私は何て馬鹿なことを…っ。
悔しさに唇を噛み締めても過去は消えないわ。
だから…ね。
「お願いします。内緒にしてください!」
頭を下げに下げて頼み込むことにしたの。
だからかな?
優越感満載の美春は、
満足そうに大きく頷いてた。
「うんうん。もちろん黙っててあげてもいいわよ?」
そう言ってポンッと私の肩に手を置いた美春は…。
「一生、美春様には逆らいませんって言ってごらんなさい?」
笑いをこらえながら脅迫してきたのよ。
むっかっつっくっ!!!
ぶん殴ってやりたいわね!
でも…ね?
怒れないわよね?
文句を言える立場じゃないからよ。
全力でぶっ飛ばしたくなる拳を全力で押さえ込みながら、
私は頭を下げたまま美春に宣言することにしたの。
「い…一生…美春、様…には、逆らい、ません…。」
言葉をとぎらせながらの精一杯の宣言。
それでも美春は満足そうに何度も頷いてた。
「おっけ~。おっけ~。契約成立ね〜。」
このぉっ…!
楽しそうな美春を本気で殺したくなったわ。
…いつか…
いつか復讐するんだからっ!!!
絶対に美春の弱みを探し出すわっ!!!
諜報部をなめてると痛い思いをするのよっ!!!!
…って。
個人的な理由で特風の権限をふりかざす私はダメ人間かもしれないわね。
でもでもっ!!
このまま屈辱的な扱いを受けるくらいならっ!
私は悪魔にでも魂を売るわっ!
そんなくだらない決意を心に秘めつつ。
ゆっくり頭をあげてみる。
その瞬間に。
「あ~楽しかった」
満足そうな美春がね。
「あっ!そうそう、最後に言った話。あれ、嘘だから」
何かを言っちゃってくれたのよ。
その言葉を聞いた瞬間に。
『ゴスッ!!!!』と。
無意識のうちに美春の額をぶん殴っていたわ。
「いったぁぁぁぁぁい~っ!!!!」
「…って、嘘なのっ!?」
「言葉と手の順番が逆よっ!逆っ!!先に確認しなさいよっ!!」
涙目になりながら訴える美春だけど。
今のは絶対に美春が悪いわよね?
まあ、問答無用で拳をぶち込んだ私も悪いとは思うけど。
世の中には言っても良い事と悪い事があるんだから。
ふざけた美春の方が断然悪いに決まってるわ!!
「…痛いぃぃ…。」
涙目でおでこをさする美春を本気で問い詰めてみる。
「どこまでが、事実で、どこからが、嘘なの?」
「…さ、最後の一言だけよ。それ以外は本当に言ってたんだから…。」
うぅ~。
それだけでも十分に恥ずかしいじゃない。
だけどね。
なんだかもう。
一気にバカらしくなってきたわ。
「はあ…。まあ、いいわ。」
「良くないわよっ!!凄く痛いんだからっ!」
全力で訴える美春を無視して、
周辺のベッドに視線を向けてみる。
「冗談はもういいのよ。それよりも他の生徒はどうしたの?」
私の周りのベッドはほとんど空いていて、
綺麗に片付けられているの。
ついこの間までは総魔に負けた生徒達が沢山いたはずなのに。
今は全然いないのよ。
そんな私の質問の意味を察してくれたのか、
美春はおでこをさすったままで答えてくれたわ。
「ほぼ全員、目を覚まして帰って行ったわよ。あと一人だけ残ってるけどね。」
説明してから最後まで目を覚まさない生徒に視線を向ける美春。
そこに寝ているのは…まあ、確認するまでもないわね。
北条真哉よ。
倒れた生徒の中でもっとも重傷だった真哉だけは、
失った魔力が圧倒的に多いからまだまだ目を覚ます気配はないみたい。
「まあ、そのうち起きるんじゃない?」
気楽な美春の発言だけど。
それ以外に言いようがないことも事実だから今は黙って待つしかなかったわ。
「まあ、いいけどね〜。」
美春に視線を戻してみる。
それなりに痛みが落ち着いてきたのか、
美春はおでこをさするのを諦めていたわね。
「それにしても…」
今度は美春から話し掛けてきたのよ。
「どうかしたの?」
「どうっていうか。翔子って思ってた以上に弱くなってるわね。」
「ん?そうなの?」
「ええ、そうよ」
美春は自信たっぷりに頷いてた。
う~ん。
自分では良く分からないけれど。
もしかしたら思ってる以上に封印の影響が大きいのかもしれないわね。
「そんなに弱くなってる?」
「かなり弱くなってるわ。そうじゃなかったら私が勝てるわけないじゃない!」
え~っと。
何かが間違っている気がするけど。
何故か誇らしげに宣言してるのよ。
それでいいの?
これってどうなの?
私の実力を認めてくれるのは嬉しいけれど。
美春の態度はそれでいいの?
個人的に疑問を感じるけれど。
美春は気にしてないようね。
「それにね。まだ練習中の魔術があそこまで上手く行くなんて正直私も思ってなかったわ。本来の翔子なら、あんなぶざまな直撃なんてしないでしょ?」
あ~、うん。
まあ…。
あまりないと思うわ。
もちろんそれは、ルーンのおかげでもあるんだけどね。
だけど今はルーンが使えないのよね~。
そのうえ、得意の魔術も使えないのよ。
そんな状況なの。
だから私が思ってる以上に実力が低下していることを今になってようやく理解出来たわ。
「う~ん。まさかそこまで弱くなってるなんて思ってもみなかったわ。」
「はぁ。だからお気楽だって言ってるのよ。少しは真面目に考えた方がいいわよ?」
「…うん。頑張ってみる」
「ったく、まあいいわ。とりあえず私はもう行くわよ。いつまでも看病してても仕方がないし。翔子もさっさと帰りなさいよ?」
「ありがとう、美春」
私を置いて歩き出す美春に、
一応お礼を言っておいたわ。
「べつにお礼はいいわよ。私がやったことだしね。」
「それはそうだけど、何となく言いたかったのよ。」
「ふふっ。翔子らしい考えね。」
「そうかな?」
「そうよ。まあ、個人的には楽しかったから、お互い様かしらね。」
お礼も謝罪もお互い様。
そんなふうに言ってから。
「じゃあね。」
美春は振り返りもせずに、
軽く手を振って医務室を出ていったわ。
よくわからない部分のある子だけど。
美春は美春で私のことを心配してくれていたのかもしれないわね。
なんとなくそう感じるの。
もしかしたら沙織と同じくらいの親友になれるかも?
そんなふうにも思えたけど、
そこまでたどり着くにはもう少し時間が必要でしょうね。
もっと仲良くなれるように今後も努力は続けるとして。
ひとまず出口から視線を逸らした私の視界に自然と真哉が入ってきたわ。
何も知らずに眠り続ける真哉。
その寝顔を見てると何だかイライラするわね。
こっちは必死に努力してるっていうのに。
真哉はずっと眠り続けているのよ。
「…ったくぅ。あんたはあんたでいつまでも寝てないで早く起きなさいよね。」
呟いてからベッドから立ち上がる。
そして。
「またね、真哉。」
真哉に別れを告げてから、
医務室をあとにしたの。




