潜在能力
『原始の瞳』
水晶玉の名前を総魔さんはそう呼びました。
持ち主の潜在能力を示す水晶で、
隠れた才能があれば光で示してくれる便利な道具だと説明してくれたんです。
「その水晶を持つだけで良いんですか?」
「ああ、そうだ。だが水晶は優奈に反応を示さなかった。」
確かにそうです。
私が持っても水晶は光りませんでした。
ですが総魔さんが水晶を持っている時には光り輝いていました。
「それはつまり、私には潜在能力と呼べるものがありませんが、総魔さんにはあるということですよね?」
「ああ、そうなるな」
私にはありませんが、総魔さんにはある。
それ自体は凄いことのような気もしますが、
ですがそれと頂点を目指すことにどんな関係があるのでしょうか?
首を傾げる私を見て、
総魔さんは微笑んでいました。
「分からないか?」
「はい。すみません」
ついつい謝ってしまいます。
こういうところは直さなければいけないって分かってはいるのですが、
なかなか直せそうにありません。
「この水晶は潜在能力に反応して光り輝く。その『光りの色』は人それぞれだが、俺の手の中にあっても水晶は光を示した。」
「はい。 確かに輝いてました。でも…」
「ああ。俺の光には色がない。その理由は不明だが、光り輝くという時点で何らかの能力があることに間違いはないはずだ。」
「それが何かは分からないんですか?」
「残念だが、そこまで詳細な記録は存在していないらしい。」
「そうなんですか…。」
「ああ。だが、問題は光の色ではない。重要なのは俺にはまだ潜在能力があるということだ。」
「え?でも、それって『魔力操作』のことじゃないんですか?」
「…いいや、違うな。」
私の問い掛けを、
総魔さんは自信を持って否定しました。
「で、でも、自分の特性を理解した、とか言ってませんでしたか?」
昨日の会議室での会話を思い返してみると。
間違いなく総魔さんは言っていたはずです。
「確かに俺は自分の特性を理解した。だがそれは『過去』の話だ。」
過去?
「どういうことですか?」
混乱してしまいます。
どんどん話が難しくなってくる気がするからです。
「よく分からないんですけど…?」
「難しく考える必要はない。」
尋ねる私に、総魔さんは説明を続けてくれました。
「『魔力操作』は以前の力だったと言うことだ。」
以前?
それって、もしかして?
「魔力操作は俺の潜在能力ではなかった。あくまでも俺の能力が単なる吸収ではないという裏付けに過ぎないからな。言い換えるなら操作という特性があったから吸収という能力を使うことが出来たと思えばいい。つまりはそういうことだ。」
ああ。
やっぱり、私の思った通りでした。
要するに。
総魔さんは最初から魔力操作という特性を持っていて、
その特性の影響で吸収などの特殊な力が使えていたということです。
ですが今まではそれに気付かなかっただけのようです。
だとしたら。
総魔さんの本当の潜在能力って何なのでしょうか?
「総魔さんはもう気付いているんですか?本当の能力に…」
緊張しながら問い掛けました。
どんな言葉が返って来るのかを期待する私に、
総魔さんは包み隠さず答えてくれます。
「考えていることはある。だが、まだそれを実証出来るだけの結果が出ていない。今までの試合でも実験をしていたが、もっと実力のある生徒と試合をしなくては正確な判断が出来ないからな。」
え?
すでに実験してたんですか?
総魔さんに言われるまで全く気付きませんでした。
一体、私は今まで総魔さんの何を見ていたのでしょうか?
自分で自分が情けなく思ってしまうのですが。
そんな私に総魔さんは説明を続けてくれました。
「潜在能力に関しては色々と突き詰めて行かなければならないことが多いからな。おそらくその時までには間に合わないだろう。」
その時?
それが何時を指しているのかが分かりません。
「その時って何時のことですか?」
尋ね続ける私に。
「決戦…とでも言うべきか。」
総魔さんは答えてくれました。
「頂点をかけた最後の戦い。そこに間に合わない可能性が高い。」
決戦?
その言葉を聞いて、
ようやく理解できました。
頂点をかけた学園1位を決める戦いということです。
そこに間に合わないということですよね?
総魔さん程の人でも手に負えないような『何か』ということでしょうか?
「それ程難しい能力なんですか?」
「難しいという表現は少し違うが、今はそう思っておけばいい。」
少し違う?
う~ん。
よく分かりません。
一体、どんな能力なのでしょうか?
「難しいですね」
頭を悩ませて落ち込んでしまいます。
「難しく考える必要はないが、上手く説明するのが難しいな。今はまだ明確な定義が存在しないからな。言葉だけで表すのは無理があるかもしれない。」
「でも、それが何かは分かってるんですよね?」
「ああ、今はまだ可能性でしかないがな。」
「それじゃあ、名前みたいなものも決まってるんですか?」
「…それが正確な表現かどうかは分からないが、仮に名付けた名前ならある。」
「教えて欲しいです。」
名前を聞けばなんとなくでもその能力が分かるような気がするからです。
「能力の名は…」
緊張の一瞬。
私は耳を済まして、総魔さんの言葉を聞き取りました。
「『構呪』だ」
…構呪?
単純に文字から考えれば呪文を…魔術を構成する力でしょうか?
分かるような分からないような不思議な感じがしてしまいます。
「魔術を作るとか、そういうことですか?」
「簡単に言えばそうなるな」
「でもそれって、普通に出来る人が沢山いると思うんですけど?」
「確かに独自の魔術を作り出せる魔術師は大勢いるだろう。だが、その定義を定められる者は少ないはずだ。」
「定義…ですか?」
まだまだ理解の追いつかない私は、
総魔さんの説明を問い返すことしか出来ませんでした。
「ああ、そうだ。既存の魔術の変化系、あるいは核となる魔術に依存した進化系。そういった魔術なら、ある程度の実力があれば難しいことではないだろう。だが全くの無から全ての理論と定義を組み立てて新たな魔術を作り出せる魔術師はごく一部しかいないはずだ。」
…え~っと〜?
そうなのでしょうか?
私にはどちらも同じように聞こえるのですけど?
何が違うのでしょうか?
頭を悩ませる私に、
総魔さんは話を続けてくれました。
「優奈は考えたことがないか?そもそも魔術という定義を定めたのは誰だ?とな」
………?
総魔さんに問い掛けられて、
私は言葉を失いました。
そんなことは一度も考えたことがないからです。
魔術の成り立ちやその発祥なんて一度も考えたことがないんです。
「あくまでも仮説だが俺は考えた。おそらくは一握りの人間…いや、一部の魔術師というべきか。彼らが魔術の構成を組み上げたのだと思っている。その特性が構呪だったかどうかは分からないが、魔術に理論と定義を定めて誰もが使えるように一般化したはずだ。」
一般化…ですか。
確かにそうかもしれませんね。
偶然使えるようになった魔術という力。
そこに具体的な理論と規則や法則を定めた人がいるはずです。
そうでないと、今現在も魔術という力は『あやふやなまま』のはずだからです。
ですから。
最初に誰か、魔術という名前とその力を定義した人がいるはずなんです。
そこまでは私も理解できました。
「だったら総魔さんの特性は魔術の定義を定められる能力ということですか?」
「それもあるだろう。だがそれだけではないと思う。どんな魔術でも『造り出せる』はずだからな。」
どんな魔術でも造れる?
「総魔さんの好きなようにですか?」
「おそらくは、な。複雑な力。不安定な力。人の身にあって不可能な力。そして存在しない力でさえも。その全てに定義を与えて行使出来る。それが俺の力だと推測している。」
あらゆる力を使いこなせる能力?
もしもそれが事実なら、
それはもう人を越えた存在です。
神様に等しい存在としか思えません。
私はそう思います。
『構呪』という能力。
それは全ての魔術を生み出すことができる力、ということになるのですから。




