逆転の秘策
《サイド:近藤悠理》
正午丁度。
午前中を観察に費やした私は数え切れない程の試合を観戦して、
幾つもの情報を手に入れることに成功したわ。
見よう見真似の魔術がどこまで使えるかは分からないけどね。
それは今後しっかり練習していこうと思ってる。
だけど、ね。
今の私にとって大事なのは魔術を覚えることじゃないの。
戦い方や魔術の相性。
その癖や長短を知ることなのよ。
それは極々当たり前のことで、
全然たいしたことじゃないかもしれないけれど。
出来る限りの情報を集めて実践で使えるように考え続けることが、
今の私にとって必要なことだと思っているの。
…だって。
まともに戦ったら勝ち目なんてないんだから。
単純な魔術の優劣を競い合う試合なら、
私なんて間違いなく勝負にならないわ。
基本的な魔術でさえも完璧には使いこなせないからよ。
中級魔術にいたっては、
発動出来れば良い方だと思う。
それくらいね。
まともに使える魔術なんてほとんど何もないような実力なの。
だからこんな私が試合に勝つ為には、
『情報量』の差で足りない力を補うしか方法が思い付かなかったのよ。
ちゃんと魔術の勉強もするべきだとは思うけどね。
今はそこに集中できるほど心に余裕がないの。
一人ぼっちになってしまったことで、
焦る気持ちがある限り。
私は検定会場を離れられないと思う。
『焦燥感』と『劣等感』ってやつよ。
自分で自分がダメな人間だって思うから、
せめて数字という結果が欲しいと思うの。
そのために。
私は私自身の力で勝ち上がることで証明して見せたい。
私は落ちこぼれじゃない!ってね。
こんな私でもここまで来れるんだ!っていうことを証明したかったの。
だから今は余計なことには見向きもしないでただひたすらに観察を続けてる。
今の私に出来ること。
こんな私でも出来ることがあるんじゃないかな…って。
そう信じて一つでも多くの『情報』を手に入れることを最優先にしていたの。
…そしてついに。
私はまた一人の生徒に目を付けたわ。
あの人の実力は本物だと思う。
少なくともこの会場において彼は間違いなく最強だと思うからよ。
だけど私は見つけたわ。
彼の弱点といえる欠点をね。
何百人という生徒を観察してきたからこそ分かる欠点。
彼になら『勝てる』って判断したわ。
次の会場を目指す為に。
そのための犠牲者に彼を選んだのよ。
受付で手続きを終えた私は、
試合場で彼が来るのを待つことにしたわ。
対戦相手は生徒番号7002番の鎌田俊雄
現在8070番の私と比べれば1000番以上離れた相手よ。
普通に考えれば勝ち目なんて一切ないでしょうね。
天城総魔や優奈のように才能のある人ならたいしたことのない誤差かもしれないけれど。
普通以下の実力しかない私にとっては絶望的な格差だと思うわ。
まともに戦えば100%敗北確定と言える格上との試合なのよ。
それでもね。
それでも私は。
私ならその実力差をひっくり返して勝てると思ったの。
偶然見つけた彼の『欠点』
そこをつくことさえ出来れば私は勝てる!ってね。
自信を持って挑む試合。
対戦相手である彼が。
鎌田俊雄がついに試合場へと歩み寄ってきたわ。




