これぞ、試合
「うーん。何がダメなんでしょうか?」
正午になってさすがに武藤君も頭を抱え始めた。
それもそのはずだ。
最も危惧していたことが、
現実となって起きてしまったからだ。
ただひたすらに突撃を続ける武藤君の努力の成果によって、
とうとう対戦相手がいなくなってしまった。
ほぼ全ての生徒が義務を終えた為に、
試合を挑める生徒がいなくなったしまったんだ。
「うーん。待ってればいいのかなー?」
試合が出来なくなって困り果てている。
だけどね。
こうなると僕の出番もない。
さすがに対戦相手を用意するなんて出来るわけがないからね。
「もう少し落ち着いて行動した方がいいと思うよ?」
何度目かの忠告をしてみるけれど。
武藤君は不思議そうな表情で首を傾げていた。
「うーん。そういうものですか?僕が思うに正面から堂々と突破する方が、かっこいいと思うんですけど…?」
かっこいい、だろうか?
そもそもその前提すら僕には理解出来ないけれど、
武藤君なりに考えがあるんだとは思う。
「向かって来る魔術を粉砕して、自分の魔術を叩き込む!それが、これぞ試合!!って感じだと思うんですけど…。」
いや、まあ、確かにね。
それが出来ればかっこいいと思わなくもないよ?
実際に真哉は実践しているしね。
…けれど。
現実に行われているのは魔術の粉砕ではなくて『魔術での玉砕』だ。
武藤君の思い描く試合内容とは程遠いし。
はっきり言うなら真逆の状況だよね。
「まずは勝ちに行くことを優先した方が良いんじゃないかな?」
問い掛けてみたけれど。
「うーん。番号なんてどうでもよくないですか?」
武藤君は当たり前のことのようにごくごく自然に答えていた。
「自分の望む戦いをして、それで勝つことが大事だと僕は思います。」
………。
はっきりとした意見だね。
普段の暴走ぶりからは想像出来ない冷静な発言だと思う。
だけど、どうしてかな?
彼の言葉は不思議と僕の心の中に入ってきたんだ。
自分の望む戦い。
彼は正面から立ち向かうことを望んでいる。
全てに向き合って、
困難を乗り越える力を求めているんだ。
だとしたら僕は…僕の望みは何だろうか?
強くなる為に僕の目指す力はなんだろうか?
武藤君と向き合いながら、
自分自身に問い掛けてみる。
僕の力。
僕の求める力。
それはやっぱり『力』だと思う。
言い方は悪いかも知れないけれど。
暴力という名の破壊の力。
全てを押さえ込むほどの圧倒的な力。
吸収も…操作も…全てを認めない圧倒的な暴力。
そういう力だ。
『支配』に続く『暴力』
まるで暴君のような表現だけど。
何故かその言葉がもっとも自分にあっているような気がした。
…だとすれば。
それが僕の力なんだろうか?
良く分からない。
ただの思いつきにすぎないから。
だけど何故か心がざわつくような気がする。
今まで感じた事のない胸騒ぎだ。
もしかしたら僕は可能性を手にしたのかもしれない。
武藤君の言葉によって、だ。
「師匠はどうしたいんですか?」
「…全てを越える力が欲しいと思ってる。」
彼の問い掛けに対して僕は…僕の想いを答えた。
「どんな相手にも正面から向き合える力が欲しい…。」
「だったら僕と同じですね!」
確かに。
僕と武藤君は似ているのかもしれない。
何故か自然とそう思えたんだ。
だけど。
笑顔を見せる武藤君の表情が少しだけ変化した。
「師匠!」
笑っているように見えるのに。
何故か彼の眼差しに強い悲しみを感じてしまったんだ。
「師匠は好きにして下さい!」
「えっ?」
武藤君が何を言いたいのか分からなかった。
「僕ならもう大丈夫です!色々なことを師匠から教わりましたからっ!!だから師匠は先へ進んでくださいっ!」
突然、武藤君が頭を下げたんだ。
「無理言ってばかりですみませんでしたっ!でも僕、楽しかったんです!誰にも相手にされなかった僕に、優しくしてくれたのは師匠だけだったから!!だから、だからこれ以上、師匠に迷惑をかけることは出来ませんっ!!!」
地面に頭をこすりつけて、
懸命に想いを言葉にしている。
「師匠!ありがとうございますっ!!そして、お世話になりましたっ!!!」
お礼の言葉を残してから全力で駆け出した武藤君は、
そのままどこかへ走り去ってしまった。
僕の返事を聞くこともなく、
どこかに行ってしまったんだ。
その結果として。
一人残されることになってしまった。
うーん。
困ったね。
僕はこれからどうするべきだろうか?




