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THE WORLD  作者: SEASONS
4月3日
33/185

ルーン

試合結果に満足したことで試合場を離れて受付に向かう。


その間に、翔子が慌てて後を追いかけてきた。



「ねえ!ねえっ!」



先ほどの試合に関して戸惑いを隠しきれない様子だ。


何度も何度も話しかけてくるが、

ひとまずこの会場にはもう用がないからな。


さっさと次の会場に向かいたいのだが、

試合後の手続きを終えた後も翔子の追求は止まらなかった。



「さっきは一体何をしたの?」



………。



何度も同じ言葉を繰り返して問いかけてくる翔子をしばらく無視していたのだが、

やはり放置されるのが気に入らないのだろう。



「ねえってば~!!」



無視を続ければ続けるほど、

いらだちを募らせてしまった。



「無視しないで、教えてよ~~っ!」



強引に俺の右腕を掴み、

無理やり足止めをしてから正面に回り込んだ翔子が頬を膨らませながら睨むような目つきで見上げてくる。



「お・し・え・て・く・だ・さ・い~っ!!」



………。



口調は丁寧だったな。


だが、そこに含まれる意図は明らかに怒りに満ちている。



「何をそんなに怒っているんだ?」


「あなたが!私を!無視するからでしょ!?」


「…当然だろう?」


「どうしてよっ!?」



全力で叫ぶ翔子だが、

本当に疑問を感じているのだろうか?


言動から推測する限りは本気としか思えないのだが、

そう思えること自体が俺には不可解だ。



「お前は俺の監視役だろう?」


「そうだけど、それが何?」


「どういう目的で俺を監視しているのかは知らないが、俺の意思に関係なく監視する以上、お前は俺にとって敵でしかない。」


「…う…っ…。」


「その相手に、わざわざ自分の手の内を晒す必要があると思うのか?」


「そ、それは…そうかもしれないけど~…」



ここまではっきり言っても、

まだ納得できないらしい。



「それでも、聞きたいのよっ!」


「答えは見ての通りだ。」


「それが分からないから聞いてるんじゃないっ!!」



再び全力で叫ぶ翔子だが、

だからといって答える義務はない。



「知りたければ自分で考えろ。」


「それが出来たら苦労しないわよっ!」



それはそうかもしれないが。



「その苦労を担うのがお前の役目だろう?」


「くぅ、言い返せないのが悔しい…っ。」



反論できないことで落ち込んでしまったようだな。


ここまで感情の落差が激しいと見ている側としては面白くも思えてくるが、

本人は疲れないのだろうか?



「…ぅぅ〜。」



俯いてしまった翔子はそれでもまだぶつぶつと不満の言葉を呟いているのだが、

俺に説明する気がないことは理解したのだろう。



「………。」



再び顔を上げて俺を見上げた翔子は、

両手を合わせながら勢いよく頭を下げた。



「お願い!教えて!」



強引な態度を改めたのだろうか?


こうして素直にお願いすることもできるらしい。



「格下を相手に頭を下げるのか?」



嫌味というほどではないが、

あえて立場の違いを指摘してみた。



これで意地を張って引き下がってくれれば楽だったのだが、

やはり他の生徒とは違うようだな。



「私は私の思う礼儀を通すだけよ。」



もう一度顔を上げた翔子は、

胸を張って誇らしく微笑んでみせた。



「立場や役目がどうとか、そういうことじゃなくて、私が知りたいと思うから聞いてるの。だから教えて欲しいことがあったら、ちゃんと頭くらい下げるわ。」



…なるほど。



「いい心がけだな」


「でしょでしょ♪だから、教えて。ねっ?」



苛立ち、落ち込み、反省し、微笑み。


ころころと表情を変える翔子の言動には悪意が感じられない。


演技や偽装ではなく、

これが翔子の性格なのだろう。



たった数回の付き合いでしかないが、

少しは信用してもいいような気がしてきた。



まだまだわからない部分もあるが、

完全に敵というわけではないのかもしれないな。



翔子の背後にいる人物に関しては推測のしようもないが、

翔子自身は信用できる人物に思えてくるのが不思議だ。


そう思える程度には翔子のことが分かってきたのかもしれない。



…とりあえず、この状況でどうするかだな。



ここで翔子を突き放したところで別の監視が来るだけだろう。



それでは事態は好転しない。


だとすれば最小限の情報を翔子に流して様子を見るのも悪くないだろう。



「まだ実験段階の魔術だからな。完全な説明は出来ないが、それでもいいか?」


「うんっ!それでもいいわ。」



不満はないらしい。


それどころか話し合いが成立することで、

今まで以上に嬉しそうな笑顔を見せている。



「教えてっ♪」



期待に満ちた眼差しでこちらを見上げる翔子だが、

その期待に応えられるほどの説明をするつもりはまだない。



そもそも実験段階の魔術だからな。


未完成の魔術を解説する必要はないだろう。


だから概念的な部分だけ教えることにした。



「最初に言っておくが、たいしたことはしていない。ただ単純にボム・ウインとサンダー・ネットを『高速』で撃ち出しただけだ。」


「…ん?高速で?」


「ああ。翼は魔力の塊だからな。魔術に変換するのは容易い。もちろん撃ち出すのも簡単だ。」


「それって、魔術を瞬間的に発動できるっていうこと?」


「間違ってると言うほどではないが、正しい解釈ではないな。霧とは真逆の性質があると言えば分かるか?『魔術を魔力に』変換できる霧とは反対に『魔力を魔術に』変換するのが翼の能力だ。」


「…ということは、それってルーンよね?」



ルーン?


初めて聞く言葉だな。



「なんだそれは?」



珍しく翔子の会話に興味を持ったからだろうか。



「ふふ〜ん!」



翔子はいつも以上に嬉しそうに微笑んでいた。



「もしかして、教えて欲しい?」


「ああ、そうだな。興味はある」


「しょうがないわね~♪どうしても聞きたいみたいだから教えてあげるわね。」



………。



言葉とは裏腹に説明したくて仕方がないという雰囲気を感じるのだが、

ここは追求しない方が良いだろう。



余計な時間を取られてしまいそうな気がするからな。



「ルーンっていうのはね。この学園でも一部の人しか使えないんだけど…っていうか、昨日説明した魔法の使い手の事でもあるんだけどね。『魔力を結晶化した物』をルーンって呼ぶのよ。」



…結晶化?



何をどうすれば出来るのかは分からないが、

物質化するほど高密度の魔力の塊ということだろうか。



「普通は剣とかナイフとか、そういう形が多いんだけど、天使の翼は初めて見たわ。大抵みんな武器らしい形をしてるのよ。」



…ほう。



なるほどな。


武器として扱えるように物質化させた魔力ということか。


まだ見たことはないが、

そういうものがあるらしい。



先程の魔法の使い手という部分にも興味が惹かれるのだが、

今の説明から考えるとルーンの使い手と同義と考えるべきだろうか?



「今まで知らなかったが、魔力を武器の形に結晶化した物をルーンと呼ぶのか?」


「う~ん。必ずしも武器とは限らないけど、大体はそうね。」



なるほど。


言いたいことは理解できた。



「だとすれば、翼はルーンではないな。」


「…え?どうして?」



首をかしげる翔子だが、

根本的な違いを指摘しておこう。



「翼は魔力が『結晶化』した物ではないからだ。」


「…だったら、あの翼は何なの?」


「翼の形状をした魔術だ。それ以外に説明のしようがない。」


「属性が翼って事?」


「違う。」


「全っ然、分かんない!」


「際限無くある、魔術の形の一つだと思えばいい。」


「え〜?じゃあ、風と雷の両方の性質を持った魔術っていう事?」


「今までの中では最も正解に近いが、模範解答ではないな。」



翔子の考えを否定してから、

次の会場に向かって再び歩き出す。



あとを追いかけてくる翔子はまだ若干不機嫌な様子だが、

それでも足早で追いかけてきている。



「もう〜!ちゃんと教えてよ!!」


「実験中の魔術だから全てを説明することはできないと言ったはずだ。」



それに。


いずれ戦う相手にわざわざ能力を説明する必要もない。



「知りたければ自分で考えろ。」


「けち~っ!」


「自分の能力を隠しているお前に何を言われても気にならないし、教える義理もない。」


「…あ!あぁ~っ!!そういえば私は何も話してなかったっけ?ごめんごめん。」



翔子は初めて出会った時のように、

何度も何度も謝りながらあっさりと自分の力を説明しようとしたのだが。



「興味ない。」



知りたいとも思わないために、

さっさと次の受付に向かうことにした。




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